犬は帰る
【言葉はいらない。通ずるモノが、そこにはあるから――】
結婚六十年。
辰吉は、妻、冨美子の最期を涙で看取った。
その大きな喪失感は、辰吉の時を止めてしまったようだった。
そんな姿を見かねた息子の茂俊が、辰吉の外出を促す。
重い腰を上げ、辰吉が向かったのは、冨美子と最後に出掛けた海だった。
そこで辰吉は、まるで今の自分のような、一匹のボロボロになった犬と出会い――
その音は遠く、遠く――
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