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三章

その22 不思議の解明

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 文芸部室に封印されていた魔竜。その正体は、奇妙な形のまま固められた本の山が映し出す、影絵であった。

 「封印ってそういうことなのか……」

 確かに魔竜は封印されていた。この奇妙な本の山は、更に大きな本の山の一部となって文芸部室の隅っこに放置されていた。つまり魔竜は本の山の奥深くに封印されていた。そういうことなのだろう。

 今はもう床に降ろされた本の山。フユカがそれを見やって、なんとも言えないといった風にため息をついた。

 「入部当初から解明できなかった不思議がこうも簡単に解明されてしまうと、なんとも消化不良な感じになりますね」
 「でも、解明は解明じゃない!ついにやったわね!」

 ハルは自分が不思議を解明できたことに相当喜んでいるらしい。まぁ今まで活躍なかったもんな。しかたないしかたない。

 嬉しさのあまり、その場で軽く飛び跳ねるハル。ふわりと茶髪が空中を舞う。その表情はなんだかきらきらと輝いているようにも見えた。元が美少女であるため、笑顔になると更に魅力が増しているようにも思う。そこまで考えて、ふと気がついた。

 (そういえば俺って、ハルの笑顔はあんまり見たことがなかったんだな……)

 笑顔なんてありふれた表情の一つだ。その表情に新鮮さを感じてしまっている自分が不思議になって、思わず俺も笑ってしまった。これが普段なら軽口の一つでも言って、またハルに怒られたりするのだろうが、今はそんなことはしなかった。ただ、ハルの笑顔を見ていたい。なんとなく、そう思っている俺がいた。

 「それで、この不思議に隠された文字は何なんだろうね」

 アメがその言葉を口にした時、ハルの動きが止まった。俺の表情も固まった。文芸部室の緩い喜びムードが一瞬にして霧散した。一気に現実に引き戻されるような感覚だった。

 「そういえばそうだったねー」
 「まぁ現段階はあくまで魔竜の姿を確認できただけですからね」
 「それ忘れてた……」

 ハルがガクリと地に伏せた。感情の落差が激しすぎる。

 流石に不憫に思ったのか、アメが焦りながらフォローを入れる。

 「いや、いきあたりばったりで魔竜を見つけたんだから仕方がないよ。それに、ここまでわかったなら後一歩ってところじゃないか」
 「……そうなの?」
 「今までの七不思議を思い返してみろよ、ハル。二つとも七不思議と文字とが直接関係していただろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 アメのフォローから俺が説明を引き継いだ。

 一つ目の不思議『池に眠る人魚』だってそう。二つ目の不思議『体育館で笑う魔女』だってそう。七不思議のすぐそばに文字は隠されていたのだ。だからきっと今回も、この本の山に、この魔竜に文字は隠されているはずなのだ。

 俺はハルの隣に落ちている本の山を抱えた。本を使っているだけあり、それなりの重量がある。だが、抱えきれない程ではない。俺は先程のハルよろしく、この奇妙な本の山を頭上に掲げた。

 床に映し出されているものは影の魔竜。それを確認した後、俺は頭上で本の山を回転させていく。

 影はその姿を変えていく。ゆっくりとゆっくりと色々な形に姿を変えていく。そして俺はある一点で本の山の回転を止めた。床の影絵が何なのかを理解できる、その一点で。


 そして文字が表れた。


 影はキレイな形ではないし、無駄に引き伸ばされていて読みづらくはあるのだが、確かに文芸部室の床には『の』の影絵が現れていた。ブロックかレンガで形作られたような影絵の『の』。ハルは驚きの表情でそれを見つめて、続いて俺の方を向く。

 「ど、どうしてわかったの!その本の山が文字も隠していただなんて!」
 「いや、さっき言ったばかりなんだが。直接関係しているなら、文字も影絵じゃないかなと思うのは普通だろ」
 「そ、そんなもんなの……?」

 相変わらずの察しの悪さを発揮していたハルだった。まぁ、今回は魔竜を見つけ出しただけでも大活躍だったと言えよう。

 パチンとナツキが両手を合わせた音が響く。

 「それじゃあこれで三つ目の不思議も解明、ということでー」

 いつもみたいにナツキが締めの言葉を口にする。それを俺達は笑顔で見届けた。

◆◆◆

 今回もまた文字を見つけることができた。今見つかっている文字は『あ』『き』『の』の三つ。これらが何を表しているのかは、俺達にはまだ検討すらつかない。だが、俺達は協力して七不思議を解明することができた。いや━━━━

 できていた。

 この時は、まだ。
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