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二章
その14 体育館で笑う魔女 ★
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作戦会議会議の翌日。具体案を出すことは結局できず、とりあえずは現地に行ってみてからもう一度作戦会議を行おう、という結論になった。
そういうわけで昼休み。昼ごはんは各々で食べて、昼休み開始から十五分後に体育館入り口に集合の約束をしている。俺は弁当を右手に、スマホを左手に装備して文芸部室へと向かう。普段なら教室で男友達と話しながら食べるのだが、最近はスマホで恋愛アドベンチャーをしているので、騒がしい教室ではなく文芸部室で昼休みを過ごすことが多い。
ついこの前にミツキルートは攻略したからな。今日はフミカでも攻略するか。
そう考えたらウキウキしてきて、軽くスキップしながら文芸部室までの道程を進む。文芸部室まで辿り着きスライド型の扉を開くと、今日は先客が二名もいた。
「やっほーシュウ、遅かったねー」
「貴方もきたのですか」
部室の中では、ナツキとフユカが向かいあって昼ごはんを食べていた。
「まぁ最近は良く来るけど………フユカは気が向いたらとか言ってなかったか?」
「今日、向いただけです」
「そ、そうか」
食い気味の反応を返してきたフユカを見るに、案外ナツキの誘いに乗り気だったらしい。知っている人と、自分達の部室で昼休みを過ごすというのは安心感がある。今こうしてナツキと昼ごはんを共にしているということは結局の所、フユカは寂しかったのだろう。
やれやれ……寂しいなら寂しいと言えばいいものを。しかし、フユカの性格からして強がって言えないのは明らかだ。ならこちらから歩み寄ってあげようではないか。
「まぁこれからも俺達が一緒に昼ごはん食べてやるからな!」
「笑顔がキモいので、シュウはいいです」
クリティカルダメージ!!ノックダウン!!もう、立ち直れないよ………。
ナツキがカラカラと笑って、フユカが冗談ですとクスリと笑う。それを見て、少し回復出来た俺は二人と昼食を共にしたのであった。
◆◆◆
そして場所を移して体育館。集合時間に誰一人として遅れることなく、我ら文芸部は二つ目の不思議調査に乗り出した。ちなみに、一応ということで許可は既にとっている。ナツキが先程やってくれました。
それぞれ持参した、体育館シューズに履き替えてから体育館に入る。そこに広がる光景はいつもと変わらない体育館そのものだった。バスケットコート二面分の広さがあるフロアに、そこで行われる試合を見るためのギャラリー部分も二階に設置されている。そして校長先生の話や表彰式が行われているステージ。決して怪しいところは存在しない。
そして今回の不思議を調査するにあたって、体育館に設置されてある体育倉庫などは調査の対象から除外してある。もし体育倉庫が七不思議の発生源なら、そもそも『体育館』ではなく『体育倉庫』と表現されて然るべきと考えたからである。
「それで……ナツキのその軍手はどうしたの?」
「もしかしたら、一つ目みたいに何か触らなきゃいけなくなるかなーと思ってー。その予防だよー」
アメが苦笑混じりにナツキに尋ねた。ナツキは、にぱーと笑いながら両手を広げてみせる。はめられていたのは、作業用の軍手。手のひら側にゴム製のツブツブがついているよく見るやつ。一緒に体育館まで歩いてきたときにははめていなかったので、体育館についてからはめたものなのだろう。用意がいいものだ。
「じゃあ、調べよっか」
そして俺達は、ハルの掛け声を合図に散らばって体育館の調査を開始した。制限時間は昼休み終了までの残り三十分。それまでにヒントも手がかりも見つからなければ、再び中二ごっこを昼休みに体育館で行う羽目になる。それだけは俺も避けたいところだった。
しかし、調査と言っても特に何をするわけでもない。体育館を見て回るだけ。いや、目に見えるおかしな点はないと再確認するのが今回の調査の主たる目的だ。だから、体育館を見て回ること自体は数十分も経たず、すぐに終わった。五人で手分けしているのだから当然とも言える。とりあえず、今から何をするか話合おうと、体育館のフロア中央に集合することになった。だが、その途中で軽く危ない事態が発生した。
「ナツキッ!危な━━━━」
「およー?」
鋭いハルの声が響き、ナツキが状況に見合わない声を漏らした。
ステージに登り調査していたナツキが降りようとした時、自分で自分の足を引っ掛けてしまいバランスを崩したのだ。何というドジなことか。普段のナツキからは想像が出来ない光景だった。
だが、そうも悠長にはしていられない。このままでは、ナツキはステージから転落してしまう。いくらステージはそこまで高くないとはいえ、打ちどころが悪ければ大怪我に繋がる可能性だってある。ましてやナツキは女の子だ。万が一にも怪我させるなんてことがあってはならないだろう。
その時、俺は運良くステージ付近にいた。ふらつくナツキを視界に収めた瞬間、自然と身体が動く。何とかナツキが倒れるまでに、ナツキの下に回り込めた。俺は、両手を広げ受け止める姿勢をとった。その次の瞬間、ナツキが倒れてきて軽い衝撃が俺を襲う。女の子を抱きとめたことなんて人生で初めての経験だったのだが、予想以上に軽い重量に少しばかり驚いた。それに、筋肉なんてついていないと思うほど身体は柔らかく、ふんわりと花の良い香りが……………。
「………………」
「………………」
「いつまで抱きついてるのよ、シュウ」
「ハッ!」
気がつけば他の皆もこちらに集まって来ていた。ハルから冷たい口調で指摘され、ようやく現状を認識する。
思わず二人して固まっていた。そのせいでナツキを抱きしめたままだったことに気がつき、慌てて離す。俺の肌から離れていく温もりに名残惜しさを感じなくもないが、そうは言っていられない。すぐにナツキを開放した。
「す、すまん!大丈夫かナツキ!?」
「………………………」
ナツキはまだボーっとしたままだった。
「シュウに触れられたことが余程ショックだったのでしょうか?」
「その言葉に俺はショックだよ……」
「………………ううん、違うよー」
ようやく反応してくれたナツキは、フユカの言葉を否定してくれる。そしてその後、俺の顔をじっと見つめてきた。
いつもは糸目で気が付かないが、意外にきれいな黒目をしているナツキから至近距離で見つめられて、少し恥ずかしくなる。微妙にナツキから顔を反らしながらも、俺は尋ねた。
「……なんか、俺の顔についてたか?」
「ふふっ」
ナツキが口に手を当てて笑った。
「シュウも男の子なんだなーって思っただけだよー」
「?」
よくわからなかったが、表情と言葉のニュアンスから褒め言葉として受け取っておく。まぁ何はともあれ無事で良かった。こうしてちょっとしたことはありつつも、俺達は再び作戦会議を開いたのだった。
何かわかったかと皆に聴いてはみたが、特にはなかったみたいだ。
「笑う魔女……ですか。また中二ごっこでもして呼び出してみますか?」
「絶対に無駄な時間になるから嫌」
「何もそこまで拒絶しなくても」
フユカの意見が珍しくハルに拒否されている。そのせいで軽くフユカがしょんぼりとして、慌ててハルが取り繕っていた。まぁ確かに無駄な時間であることは否定しないけど、俺としては中二ごっこをすることはやぶさかではないのだが。
そんな二人に穏やかな視線を送りつつ、ナツキが問題を口にする。
「何をもって『笑う魔女』とするのかが問題だねー。一つ目の『眠る人魚』は物理的だったけど、今回も物体っていう線はないと思うからねー」
「そうだね、そこなんだよね。『笑う魔女』ってあるくらいだから、笑い声が聴こえたりするんじゃないかな」
「なぁ、それだったら……コレなんか笑い声に聴こえたりしないか?」
むむ?と興味深そうな視線を向けてくるアメとナツキに対して、俺は視線を下ろして足を軽く前に出した。履いているのは体育館シューズ。それをフロアと擦るように音を鳴らした。
キュキュッ!!と甲高い音が鳴る。鳴ったはいいが……
「笑い声、って感じでもないかな」
「駄目か……すまん」
自分でも薄々これはないな、とは思っていたのだが。もしこの擦れる音が『魔女の笑い声』ならば、魔女は毎日笑っていることになる。大爆笑しすぎである。
するとナツキが思い出したかの様に、手のひらに握り拳をポムと打ちつけた。
「そういえば、何かわかったってことじゃないんだけど、少しおかしな点は見つけたよー」
「おぉ、本当か!」
流石頼れる我らが部長。仕事が早い。
「んーと言っても、七不思議に関連しているかはわからないんだよー?」
「気にしなくてもいいよ。ナツキが気になったってことの方が大切だからね」
アメのその言葉に俺も力強く頷く。ナツキが言うから信用性もある。これがハルならば、普通のことをおかしいとか言うかもしれないからな。あいつアホだし。
俺達の反応を見て、ナツキも軽く頷いてから話し始めた。
「さっきステージを調べてて思ったことなんだけどねー。ステージの壁がさ、光の当たり方に違和感があるというかーばらつきがあるというかー」
「光の当たり方、か。何か塗られているってことか?」
「もしくは違う種類のペンキでも使われているのか、だね」
視線をすぐそばのステージ、その奥の壁へと移す。校長先生なんかが朝礼の時に背にしている壁は、ペンキで白色に塗られている。この体育館は造られて何十年も経っているはずなので、ペンキの塗り替えなんかがあっても不思議ではない。
その時、キーンコーンカーンコーンと予鈴が体育館に響いた。それにハルはいち早く反応する。
「ヤバ!もう授業開始五分前じゃない!」
「いつの間にかそんな時間が経ってたのか……」
「別に授業くらいサボっても…」
「ダーメ!授業はちゃんと参加しなさいよー!」
存外真面目なことを言うハルに、面倒くさがるフユカは引きずられていく。なかなかシュールで面白い光景だったのだが、そのまま見送っていたら俺達も授業に遅れてしまう。ハルとフユカの後についていこうとしたら、いつの間にかナツキが消えていることに気がついた。
「おい、アメ。ナツキがどこかに消えたぞ」
「あれ?本当だ。どこにいったんだろう」
慌てて俺達が視線を巡らせると、さほど時間をかけずにナツキを見つけることが出来た。
ナツキはステージの上に登り、壁に手を当てていた。
すぐ近くにいたことに軽く安堵して、早く教室に戻ろう、とそう声をかけようと口を開いた時━━━━
ケケケケケケッ!!
高らかな笑い声が響いた。
そういうわけで昼休み。昼ごはんは各々で食べて、昼休み開始から十五分後に体育館入り口に集合の約束をしている。俺は弁当を右手に、スマホを左手に装備して文芸部室へと向かう。普段なら教室で男友達と話しながら食べるのだが、最近はスマホで恋愛アドベンチャーをしているので、騒がしい教室ではなく文芸部室で昼休みを過ごすことが多い。
ついこの前にミツキルートは攻略したからな。今日はフミカでも攻略するか。
そう考えたらウキウキしてきて、軽くスキップしながら文芸部室までの道程を進む。文芸部室まで辿り着きスライド型の扉を開くと、今日は先客が二名もいた。
「やっほーシュウ、遅かったねー」
「貴方もきたのですか」
部室の中では、ナツキとフユカが向かいあって昼ごはんを食べていた。
「まぁ最近は良く来るけど………フユカは気が向いたらとか言ってなかったか?」
「今日、向いただけです」
「そ、そうか」
食い気味の反応を返してきたフユカを見るに、案外ナツキの誘いに乗り気だったらしい。知っている人と、自分達の部室で昼休みを過ごすというのは安心感がある。今こうしてナツキと昼ごはんを共にしているということは結局の所、フユカは寂しかったのだろう。
やれやれ……寂しいなら寂しいと言えばいいものを。しかし、フユカの性格からして強がって言えないのは明らかだ。ならこちらから歩み寄ってあげようではないか。
「まぁこれからも俺達が一緒に昼ごはん食べてやるからな!」
「笑顔がキモいので、シュウはいいです」
クリティカルダメージ!!ノックダウン!!もう、立ち直れないよ………。
ナツキがカラカラと笑って、フユカが冗談ですとクスリと笑う。それを見て、少し回復出来た俺は二人と昼食を共にしたのであった。
◆◆◆
そして場所を移して体育館。集合時間に誰一人として遅れることなく、我ら文芸部は二つ目の不思議調査に乗り出した。ちなみに、一応ということで許可は既にとっている。ナツキが先程やってくれました。
それぞれ持参した、体育館シューズに履き替えてから体育館に入る。そこに広がる光景はいつもと変わらない体育館そのものだった。バスケットコート二面分の広さがあるフロアに、そこで行われる試合を見るためのギャラリー部分も二階に設置されている。そして校長先生の話や表彰式が行われているステージ。決して怪しいところは存在しない。
そして今回の不思議を調査するにあたって、体育館に設置されてある体育倉庫などは調査の対象から除外してある。もし体育倉庫が七不思議の発生源なら、そもそも『体育館』ではなく『体育倉庫』と表現されて然るべきと考えたからである。
「それで……ナツキのその軍手はどうしたの?」
「もしかしたら、一つ目みたいに何か触らなきゃいけなくなるかなーと思ってー。その予防だよー」
アメが苦笑混じりにナツキに尋ねた。ナツキは、にぱーと笑いながら両手を広げてみせる。はめられていたのは、作業用の軍手。手のひら側にゴム製のツブツブがついているよく見るやつ。一緒に体育館まで歩いてきたときにははめていなかったので、体育館についてからはめたものなのだろう。用意がいいものだ。
「じゃあ、調べよっか」
そして俺達は、ハルの掛け声を合図に散らばって体育館の調査を開始した。制限時間は昼休み終了までの残り三十分。それまでにヒントも手がかりも見つからなければ、再び中二ごっこを昼休みに体育館で行う羽目になる。それだけは俺も避けたいところだった。
しかし、調査と言っても特に何をするわけでもない。体育館を見て回るだけ。いや、目に見えるおかしな点はないと再確認するのが今回の調査の主たる目的だ。だから、体育館を見て回ること自体は数十分も経たず、すぐに終わった。五人で手分けしているのだから当然とも言える。とりあえず、今から何をするか話合おうと、体育館のフロア中央に集合することになった。だが、その途中で軽く危ない事態が発生した。
「ナツキッ!危な━━━━」
「およー?」
鋭いハルの声が響き、ナツキが状況に見合わない声を漏らした。
ステージに登り調査していたナツキが降りようとした時、自分で自分の足を引っ掛けてしまいバランスを崩したのだ。何というドジなことか。普段のナツキからは想像が出来ない光景だった。
だが、そうも悠長にはしていられない。このままでは、ナツキはステージから転落してしまう。いくらステージはそこまで高くないとはいえ、打ちどころが悪ければ大怪我に繋がる可能性だってある。ましてやナツキは女の子だ。万が一にも怪我させるなんてことがあってはならないだろう。
その時、俺は運良くステージ付近にいた。ふらつくナツキを視界に収めた瞬間、自然と身体が動く。何とかナツキが倒れるまでに、ナツキの下に回り込めた。俺は、両手を広げ受け止める姿勢をとった。その次の瞬間、ナツキが倒れてきて軽い衝撃が俺を襲う。女の子を抱きとめたことなんて人生で初めての経験だったのだが、予想以上に軽い重量に少しばかり驚いた。それに、筋肉なんてついていないと思うほど身体は柔らかく、ふんわりと花の良い香りが……………。
「………………」
「………………」
「いつまで抱きついてるのよ、シュウ」
「ハッ!」
気がつけば他の皆もこちらに集まって来ていた。ハルから冷たい口調で指摘され、ようやく現状を認識する。
思わず二人して固まっていた。そのせいでナツキを抱きしめたままだったことに気がつき、慌てて離す。俺の肌から離れていく温もりに名残惜しさを感じなくもないが、そうは言っていられない。すぐにナツキを開放した。
「す、すまん!大丈夫かナツキ!?」
「………………………」
ナツキはまだボーっとしたままだった。
「シュウに触れられたことが余程ショックだったのでしょうか?」
「その言葉に俺はショックだよ……」
「………………ううん、違うよー」
ようやく反応してくれたナツキは、フユカの言葉を否定してくれる。そしてその後、俺の顔をじっと見つめてきた。
いつもは糸目で気が付かないが、意外にきれいな黒目をしているナツキから至近距離で見つめられて、少し恥ずかしくなる。微妙にナツキから顔を反らしながらも、俺は尋ねた。
「……なんか、俺の顔についてたか?」
「ふふっ」
ナツキが口に手を当てて笑った。
「シュウも男の子なんだなーって思っただけだよー」
「?」
よくわからなかったが、表情と言葉のニュアンスから褒め言葉として受け取っておく。まぁ何はともあれ無事で良かった。こうしてちょっとしたことはありつつも、俺達は再び作戦会議を開いたのだった。
何かわかったかと皆に聴いてはみたが、特にはなかったみたいだ。
「笑う魔女……ですか。また中二ごっこでもして呼び出してみますか?」
「絶対に無駄な時間になるから嫌」
「何もそこまで拒絶しなくても」
フユカの意見が珍しくハルに拒否されている。そのせいで軽くフユカがしょんぼりとして、慌ててハルが取り繕っていた。まぁ確かに無駄な時間であることは否定しないけど、俺としては中二ごっこをすることはやぶさかではないのだが。
そんな二人に穏やかな視線を送りつつ、ナツキが問題を口にする。
「何をもって『笑う魔女』とするのかが問題だねー。一つ目の『眠る人魚』は物理的だったけど、今回も物体っていう線はないと思うからねー」
「そうだね、そこなんだよね。『笑う魔女』ってあるくらいだから、笑い声が聴こえたりするんじゃないかな」
「なぁ、それだったら……コレなんか笑い声に聴こえたりしないか?」
むむ?と興味深そうな視線を向けてくるアメとナツキに対して、俺は視線を下ろして足を軽く前に出した。履いているのは体育館シューズ。それをフロアと擦るように音を鳴らした。
キュキュッ!!と甲高い音が鳴る。鳴ったはいいが……
「笑い声、って感じでもないかな」
「駄目か……すまん」
自分でも薄々これはないな、とは思っていたのだが。もしこの擦れる音が『魔女の笑い声』ならば、魔女は毎日笑っていることになる。大爆笑しすぎである。
するとナツキが思い出したかの様に、手のひらに握り拳をポムと打ちつけた。
「そういえば、何かわかったってことじゃないんだけど、少しおかしな点は見つけたよー」
「おぉ、本当か!」
流石頼れる我らが部長。仕事が早い。
「んーと言っても、七不思議に関連しているかはわからないんだよー?」
「気にしなくてもいいよ。ナツキが気になったってことの方が大切だからね」
アメのその言葉に俺も力強く頷く。ナツキが言うから信用性もある。これがハルならば、普通のことをおかしいとか言うかもしれないからな。あいつアホだし。
俺達の反応を見て、ナツキも軽く頷いてから話し始めた。
「さっきステージを調べてて思ったことなんだけどねー。ステージの壁がさ、光の当たり方に違和感があるというかーばらつきがあるというかー」
「光の当たり方、か。何か塗られているってことか?」
「もしくは違う種類のペンキでも使われているのか、だね」
視線をすぐそばのステージ、その奥の壁へと移す。校長先生なんかが朝礼の時に背にしている壁は、ペンキで白色に塗られている。この体育館は造られて何十年も経っているはずなので、ペンキの塗り替えなんかがあっても不思議ではない。
その時、キーンコーンカーンコーンと予鈴が体育館に響いた。それにハルはいち早く反応する。
「ヤバ!もう授業開始五分前じゃない!」
「いつの間にかそんな時間が経ってたのか……」
「別に授業くらいサボっても…」
「ダーメ!授業はちゃんと参加しなさいよー!」
存外真面目なことを言うハルに、面倒くさがるフユカは引きずられていく。なかなかシュールで面白い光景だったのだが、そのまま見送っていたら俺達も授業に遅れてしまう。ハルとフユカの後についていこうとしたら、いつの間にかナツキが消えていることに気がついた。
「おい、アメ。ナツキがどこかに消えたぞ」
「あれ?本当だ。どこにいったんだろう」
慌てて俺達が視線を巡らせると、さほど時間をかけずにナツキを見つけることが出来た。
ナツキはステージの上に登り、壁に手を当てていた。
すぐ近くにいたことに軽く安堵して、早く教室に戻ろう、とそう声をかけようと口を開いた時━━━━
ケケケケケケッ!!
高らかな笑い声が響いた。
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