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学園一斉清掃大会編

6話 新たな委員会

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 「君に、新たな委員会の委員長になって欲しいのです」

 その話を持ち出してきた会長の表情に冗談の雰囲気は見えない。カズミネとの会話で少々お茶目な方だとは思っていたが、まさかそのお茶目を今発揮している訳ではないだろう。後ろを振り返るとカズミネの驚愕が見て取れる。

 「会長……!流石にそれは━━━━」
 「私は言いましたよ和嶺君。君に用事はありません。それとも君は私に約束を破って欲しいのですか?」
 「………そんな訳、ないでしょう」

 ぐっと呻いた後、カズミネは引き下がった。本当にこの二人の間で何があった。痴情のもつれではないのは明白だが、傍から見てると敵対している様にしか見えない。同じ生徒会なのにな。

 「それで、田中君?」
 「えっ?あ、はい。なんでしょう」
 「答えを聞かせて欲しいのですが」
 「答え、ですか」
 「ええ。いつもの私なら、問答無用だったのですが、今は和嶺君との約束もありますからね。あくまでです。強制はしません」
 「別に今すぐ答えなくてもいいよシュウヤ。ゆっくり考えてからでも十分だ」
 「いえ、私は今すぐに答えが欲しい。ここで君の答えを聞かせてください」
 「何もそんなに急がなくても……」
 「やりますよ」

 えっ、と後ろでカズミネが声を漏らしたのがわかった。会長はこちらを見て微笑んでくれた。

 俺は自分の決意を曲げない為にも、もう一度言葉にした。

 「俺は、やりますよ」
 「シュウヤ……!」

 カズミネが俺の隣にまで来て顔を覗き込んできた。

 「本当なの?本当にやるの?」
 「何だよしつこいな。やるってったらやるの。そもそもせっかくの会長たってのお願いなんだ。断る理由もない」
 「あるよあるよ大アリだよ。会長からのお願いって所で理由だよ」
 「和嶺君?それ本気で言ってないですよね?本気なら泣きますよ」
 「うわぁー会長泣くってよ。酷いぞカズミネ」
 「そんな笑い事じゃなくてさ!」

 一際大きな声をカズミネが出した。普段は温厚なコイツが発する大声は聞き慣れないが故に、動きが止まる。してはいけない事でもしているかのように。

 カズミネは俺の肩を掴んで来た。

 「これはそんな簡単に答えを出して良い事じゃないんだよ。恐らくこれは分岐点だ。ここの選択肢を間違えたら、君は二度と戻れない。それでも良いの?」

 いつになく、真剣な声音で言ってくる。俺の視線にしっかりとぶつけられてくる瞳は、俺に対する心配が浮かんでいる。

 ここで普段の俺の様に、ふざけても良かった。そんなマジになんなよ、そう言ってしまっても良かった。でも、何故か、この時の俺はカズミネに対して真面目に答えるべきだと思った。だから俺は━━━━

 「それで良い。俺は、その新しい委員会の委員長とやらになる」
 「ッ…………!」
 「ここが分岐点ってのは、確かにそうだろうな。俺がここで会長のお願いを断るのと受け入れるのとでは、今後の俺は全く違う道を行くはずだ。でもなカズミネ」

 俺はカズミネに向けて笑った。

 「二度と戻れないってのは当たり前だろ。人生何度もやり直しは効かないもんだ。だから俺は後悔しない方を選ぶ。俺が委員長になるのが間違った選択肢だとしても、俺は後悔だけはしない。それは、その選択を選んだ過去の俺に対する義務だろ」

 カズミネは暫く俺と見つめ合っていたが、やがてため息を吐いて肩から手を離した。やれやれみたいな表情をしている。そんな心配される事だったのか?このお願いは。

 「そういう所が、シュウヤらしいって事なんだろうね」
 「俺らしいってなんだ。まるで俺が偽物の様な言い方だな」
 「じゃあこれで決まりですね」

 そう言って会長は席を立つ。俺の目の前にまでやってくると、ポケットから何かを取り出し俺に差し出してきた。特に抵抗もなく、それを受け取る。

 それは、腕章だった。カズミネが着けているものとはデザインが大きく異なる。勿論、刻まれている文字も。

 「田中終夜君」
 「あ、はい」

 会長に名前を呼ばれ、姿勢を正した。そのまま会長の次の言葉を待つ。

 「君には新しく創設した『風紀委員』の長に任命します」
 「俺が、風紀委員長……」

 その委員会の名を呟く。アニメやマンガなどで良く見かけていた奴だコレ。悪を取り締まり、正義を貫く委員会。しばしば悪役として扱われる事もあるが、それは丁度いい。俺の当初の目的は何だった?

 主人公になれないから、悪役になる事だっただろ。

 「フハッ……!」

 思わず口から笑い声が溢れた。抑えられるはずもない。いや、今の俺は抑えようともしていなかった。

 「フハハハハハハハハハ!!」

 笑いがこみ上げてきて止まらない。嬉しさに任せて、俺は大声で笑い続けていた。今まで脇役でしかなかった俺に、やっと他のモブと一線を引く役職が誕生した。それは個性だ。

 俺は主人公にはなれないのかもしれない。だが、メインキャラにはなれる。その事を理解して、俺は笑っていた。

 「すいません。ここの壁薄くて声が通りやすいので静かにして下さい」
 「ホントだよ。結構響くからねココ」
 「ごめんなさい」

 二人から割りとマジトーンの注意を受けた。いや、ホントテンション上がりすぎてました。すいません。
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