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学年トーナメント戦編
4話 戦闘開始!
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「田中さん頑張って下さい!ファイトですFIGHT!諦めたらそこで模擬戦終了ですよ!」
「分かった分かったお前の熱意は伝わったよ星叶。取り敢えず試合始まるからギャラリー席に行きなさい」
初めての学年戦でテンションが上がっているのか知らないが、やけに熱い星叶を無理矢理カズミネに押し付けてギャラリー席にまで運ばせた。カズミネからも「頑張ってね。僕への返済の為に」と応援まがいの事を言われたが、まぁ応援として処理する。上梨からも何か言われた様な気もしたのだが、何か応える間にさっさと山田さんから引っ張られて行った。ここ数日で上梨と山田の仲が急発展していたのだが、それは別のお話。
俺は屈伸をしつつ、呼吸を整える。緊張してはいるのだろうが、悪い方ではないようだ。いきなりの一組目指名だったが、今回は上手くやれそうな自信がある。
視線を前に向けてみると、対戦相手である加藤━━━━でいいよな?━━━━が目を閉じて胸に手を当てていた。女子なら多少絵になっただろうが、なにしろ身長が明らかに俺より上でガタイもしっかりしている男子がそれをやった所で誰得だよって話なのだが。見た目に反して緊張に呑まれやすいタイプなのかも知れないが。
スタジアム内部のフィールド上には、もう俺達二人しかいなかった。先程まで整列していたあの大人数はさっさとギャラリー席に移動している。
試合開始時刻まで後5分といった所か。本当なら貸出されている武器やら能力の調子を確認しておくべきなのだが、俺は加藤へと歩みを進めた。
俺達の距離はもともと数メートルしか離れていなかったので、ものの数秒で加藤の前に辿り着く。そこでやっと加藤は、俺に視線を向けた。今気がついたと言わんばかりの表情だ。
「なんか用なのか……?何もなかったら悪いけど離れてくれ。集中を途切れさせたくない」
「用って程でもないけどな。時間は取らせん」
そう言って俺は右手を差し出す。加藤は一瞬何の事かわからないようだったが、直ぐに答えが分かったのか、確認をするかのように俺をもう一度見る。
「どういう事だよ、コレは」
「どういう事もこういう事もねぇだろ。俺の地域では、右手を差し出されたら握手をしろって教わったんだが。お前は違うのか?」
「………………………………」
フンッともう一度右手を突き出してみると、加藤はフッと口元を緩めた。
「俺は知らない奴の手は簡単に握るなって教わったよ」
「そうかい」
ガシッと握手する。
「手加減はしねぇ。お互い全力でな」
「ああ、宜しく頼むよ」
試合開始時刻も迫ってきたので、俺は加藤に背を向けて歩き出す。
悪いが俺には負けられない理由があるのだ。ここで負けたら2000ポイントしか入らない。もしそうなった場合、二週間は毎食キュウリを覚悟しなければならないだろう。
そんな未来を想像して、実際にはそんな経験をしてしまった過去を思い出して冷や汗が流れる。
俺はそう簡単に負ける程弱くはないが、圧倒的という程強くもない。俺にあるのは最弱ではない自信と最強ではない自信。
そんな自分の頬を両手で力強く張る。パンッと小気味良い音が聞こえた。
ネガティブ思考になるな………………!今は楽しい事だけ考えろ!俺が優勝して大金ならぬ大ポイントを手にした時を思い描いてみる。
「………………………………」
全く想像出来なかった。もっと頑張ってくれ俺の想像力。仕方ないので、一ヶ月を取り敢えず満足に食べて生活していける事を想像する事に落ち着いた。
カズミネに言わせれば、これが俺らしいと言うことなのか。そんな俺の思考は、
『それでは、Aブロック第一回戦一組目の試合を…………開始します!!』
放送と共にスタジアム中に響くブザーの音により、一瞬にして目の前に敵へと切り替えられた。
俺達を包み込む様にして展開される防護陣。深呼吸して戦闘へと意識をシフトさせる。
バッと対能力者との戦闘時における定石通りに加藤は俺との距離を取るため勢い良く飛び退いた。そしてすぐさま懐から短い棒を取り出す。その棒は一瞬にして伸びて、槍の形をとる。
槍遣いか。かっこいいな。俺も小さい時は「ロンギヌス!!」とか叫んで木の枝を振り回していたものだ。
いつの間にか懐かしい思い出が蘇っていた。高校生で思い出にふけっていると自分が年寄りになったような感覚だ。なんてしみじみ感じていると加藤から声をかけられる。
「おい、闘う気はあるのか!」
「あるに決まってんだろ。こっちは生命に関わってんだぞ」
「じゃあ動けよ!!」
「なんだと……?」
言われてみれば、試合開始から一歩も動いちゃいなかった。ギャラリーの観客達からもブーイングが飛んできている。速くしろー、さっさと動けー、つまらないぞー、なんてものばかりだ。
やれやれ。観客達はわかっちゃいない。
俺が本気を出せばそれこそ試合は面白くないんだぞ?
動けと俺に言いはしたものの、自分では動こうとしない加藤を見据える。俺達の間の距離は10メートル近くは開いているだろうか。どんな能力かわからないから、まずは離れて様子見戦法は非常に正しい。
だけど悪いな。俺の能力に距離はあんまり関係ないんだ。
「じゃあ行くぞ」
そして俺は自らの能力を解き放つ━━━━
「分かった分かったお前の熱意は伝わったよ星叶。取り敢えず試合始まるからギャラリー席に行きなさい」
初めての学年戦でテンションが上がっているのか知らないが、やけに熱い星叶を無理矢理カズミネに押し付けてギャラリー席にまで運ばせた。カズミネからも「頑張ってね。僕への返済の為に」と応援まがいの事を言われたが、まぁ応援として処理する。上梨からも何か言われた様な気もしたのだが、何か応える間にさっさと山田さんから引っ張られて行った。ここ数日で上梨と山田の仲が急発展していたのだが、それは別のお話。
俺は屈伸をしつつ、呼吸を整える。緊張してはいるのだろうが、悪い方ではないようだ。いきなりの一組目指名だったが、今回は上手くやれそうな自信がある。
視線を前に向けてみると、対戦相手である加藤━━━━でいいよな?━━━━が目を閉じて胸に手を当てていた。女子なら多少絵になっただろうが、なにしろ身長が明らかに俺より上でガタイもしっかりしている男子がそれをやった所で誰得だよって話なのだが。見た目に反して緊張に呑まれやすいタイプなのかも知れないが。
スタジアム内部のフィールド上には、もう俺達二人しかいなかった。先程まで整列していたあの大人数はさっさとギャラリー席に移動している。
試合開始時刻まで後5分といった所か。本当なら貸出されている武器やら能力の調子を確認しておくべきなのだが、俺は加藤へと歩みを進めた。
俺達の距離はもともと数メートルしか離れていなかったので、ものの数秒で加藤の前に辿り着く。そこでやっと加藤は、俺に視線を向けた。今気がついたと言わんばかりの表情だ。
「なんか用なのか……?何もなかったら悪いけど離れてくれ。集中を途切れさせたくない」
「用って程でもないけどな。時間は取らせん」
そう言って俺は右手を差し出す。加藤は一瞬何の事かわからないようだったが、直ぐに答えが分かったのか、確認をするかのように俺をもう一度見る。
「どういう事だよ、コレは」
「どういう事もこういう事もねぇだろ。俺の地域では、右手を差し出されたら握手をしろって教わったんだが。お前は違うのか?」
「………………………………」
フンッともう一度右手を突き出してみると、加藤はフッと口元を緩めた。
「俺は知らない奴の手は簡単に握るなって教わったよ」
「そうかい」
ガシッと握手する。
「手加減はしねぇ。お互い全力でな」
「ああ、宜しく頼むよ」
試合開始時刻も迫ってきたので、俺は加藤に背を向けて歩き出す。
悪いが俺には負けられない理由があるのだ。ここで負けたら2000ポイントしか入らない。もしそうなった場合、二週間は毎食キュウリを覚悟しなければならないだろう。
そんな未来を想像して、実際にはそんな経験をしてしまった過去を思い出して冷や汗が流れる。
俺はそう簡単に負ける程弱くはないが、圧倒的という程強くもない。俺にあるのは最弱ではない自信と最強ではない自信。
そんな自分の頬を両手で力強く張る。パンッと小気味良い音が聞こえた。
ネガティブ思考になるな………………!今は楽しい事だけ考えろ!俺が優勝して大金ならぬ大ポイントを手にした時を思い描いてみる。
「………………………………」
全く想像出来なかった。もっと頑張ってくれ俺の想像力。仕方ないので、一ヶ月を取り敢えず満足に食べて生活していける事を想像する事に落ち着いた。
カズミネに言わせれば、これが俺らしいと言うことなのか。そんな俺の思考は、
『それでは、Aブロック第一回戦一組目の試合を…………開始します!!』
放送と共にスタジアム中に響くブザーの音により、一瞬にして目の前に敵へと切り替えられた。
俺達を包み込む様にして展開される防護陣。深呼吸して戦闘へと意識をシフトさせる。
バッと対能力者との戦闘時における定石通りに加藤は俺との距離を取るため勢い良く飛び退いた。そしてすぐさま懐から短い棒を取り出す。その棒は一瞬にして伸びて、槍の形をとる。
槍遣いか。かっこいいな。俺も小さい時は「ロンギヌス!!」とか叫んで木の枝を振り回していたものだ。
いつの間にか懐かしい思い出が蘇っていた。高校生で思い出にふけっていると自分が年寄りになったような感覚だ。なんてしみじみ感じていると加藤から声をかけられる。
「おい、闘う気はあるのか!」
「あるに決まってんだろ。こっちは生命に関わってんだぞ」
「じゃあ動けよ!!」
「なんだと……?」
言われてみれば、試合開始から一歩も動いちゃいなかった。ギャラリーの観客達からもブーイングが飛んできている。速くしろー、さっさと動けー、つまらないぞー、なんてものばかりだ。
やれやれ。観客達はわかっちゃいない。
俺が本気を出せばそれこそ試合は面白くないんだぞ?
動けと俺に言いはしたものの、自分では動こうとしない加藤を見据える。俺達の間の距離は10メートル近くは開いているだろうか。どんな能力かわからないから、まずは離れて様子見戦法は非常に正しい。
だけど悪いな。俺の能力に距離はあんまり関係ないんだ。
「じゃあ行くぞ」
そして俺は自らの能力を解き放つ━━━━
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