勇者よりも魔王を選んだ僕 ～魔王のダンジョン攻略～

２６．能力者

握手を交してから、ラドは地下の洞窟の中を紹介してくれた。

洞窟の中は意外と広い。ラドとミレのような兎人間ばかりかと思ったが、兎人間はラドとミレ以外に３人しかいなかった。ほとんどが人間だ。皆僕を見ると嬉しそうに手を差し出してきた。洞窟の中には４０名ほどのラドとレミの仲間達がいた。

「俺はここのレジスタンス組織【グルアード】のリーダーでもある。俺たちはここを拠点にして、キングラビットの打倒を図っている。」

「…嘘だな。」
洞窟を一通り見て回った僕は、ラドの言葉を即座に否定する。

「…嘘ではない。何故そう思う？」
ラドが聞き返す。

「圧倒的に戦力が足らない。先程からの話を総合すると、人間は魔法が使えない。だから対等の知能を有した兎達に遅れてしまい、下等生物として支配を受けている。ここにいるのはほとんどが弱い人間ばかりだ。」

「…。」
今度はラドが黙り込む。

「恐らくは兎達から逃げ隠れしているだけ…。そこにキングラビットの打倒を図るという御題目おだいもくを足すことで、皆の気持ちを慰めているに過ぎない。」
僕は思ったことを包み隠さずにラドへとぶつけた。

「…打倒を図るというのは嘘ではない。既にいくつかのプランを用意していた。しかし…。君が来てくれたおかげで全くの新プラン。それも現実的な確率での打倒のプランが生まれる。」
僕とラドが話しをしている間、ミレは少し離れたところで人間と洞窟の壁に落書きをして遊んでいた。

「…キングラビットを倒して、ラドはどんな世界を創りたいんだ。ラド達がキングラビットを倒したとしても、この戦力では暗殺が精一杯。軍や政権を制圧できるはずがない。違う兎が王にとって変わり、すぐに滅ぼされるぞ。」
僕はラドにそもそもの疑問を問う。

話を聞いていた一人の初老の男が、口を挟む。
「…私達はある仮説を立てている。キングラビットを倒せば、兎の知能は元に戻る可能性がある。」

「…元に戻る？知能がなかった時があるのか？」
僕は驚いてその男に聞き返す。

「そうだ…。ほんの５０年前までは、兎は野原を駆け回り、人間のペットでもあった…。」
初老の男は記憶を遡る。

「…恐らく、キングラビットは同種族に知能を授けた能力者だ。」
ラドが世界の核心を話し出した。