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2 詩歌の推しカプ

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「姫様、かの二人です。」
詩歌が細い指で御簾みすの間を見やすいように、けれど、傍から見て不自然じゃないように気をつけて開いてくれる。
あー、この子、ホント有能!
まだ出会ってから3日と経ってないのに、それが断言できてしまうんだから、詩歌はすごい。
私も、詩歌にとって恥ずかしくない主人にならないと。
……明日からは。
詩歌が推しカプを紹介してくれるというのだ。詩歌に相応しくない主的な行動をとってでも、見逃すわけにはいかない。
私は周りを見渡して、近くに誰もいないのをしっかり確認して、さっと詩歌に駆け寄った。細い隙間だが、詩歌が誰をさしているかはすぐにわかった。
だって……距離感が異常なんだもん!
明るい髪色にくりくりとした瞳のおかげで顔だけなら幼いがかなり筋肉質でごつごつとした感じの体つきの男性と、黒髪と洗練された顔立ちの落ち着いた雰囲気を放つ細身の男性の二人組。
さては、茶髪真面目攻め×黒髪美人受けだな。
鼻と鼻が触れ合いそうな……もっと下世話な言い方をすると、今にもキスしそうな距離で、親密に話している。尊い。
「詩歌も。一緒に見ましょう。至高の存在を愛でるためには人数が多いほうがいいわ。」
私は胸の高鳴りに我を忘れて詩歌を誘う。この身体の前の持ち主、雅姫の記憶によると、詩歌は少し融通が利かないと言ってもいいほどに真面目な侍女のはずだが、意外にも全く躊躇わずに私の横で御簾に顔を寄せた。
「失礼します。」
推しカプが絡むと理性がなくなるのか、はたまた雅姫よりも私を信用してくれているのか。
後者だったら嬉しいな、と思うけれど、かなり前者の可能性が濃厚だろう。
だって、
「受け……って言って伝わりますか?」
「えぇ、勿論。」
という確認から始まる詩歌の説明はかなり声が上ずっていたから。
あー、わかるよその気持ち!すごくわかる。推しカプ語る時ってテンション上がるよね!
軽くしんみりした気持ちになったものの、すぐに共感の波に押し流されてそんなのは消し飛んでしまった。
カップリングの解釈も完全一致したし。受け攻めだけならともかく、それぞれのタイプ分析まで一致するなんて、余程気が合う証拠だ。
「取りあえず、通称……っていうか、二人が互いに使っている呼び名で覚えましょう。攻めがシン、受けがケイ、です。ちなみに、ケイはシンを呼び捨てにしますが、シンは『ケイくん』呼びですね。」
「最高だわ。わんこ味も加わるなんて……」
詩歌と二人、感極まってはっしと抱き合う。
姫様っぽくはないけど、でも、こればっかりは仕方ない。叫び出したいところを我慢しただけでもとりあえず褒めてほしい。
「シンは旦那様の警備担当なので、観察できる機会は少ないですが、ケイの方は姫様付きですから、いつでも見放題なんです……!」
「私……ケイは単体でも推せるわ。」
っていうか、理想のネコちゃんだよ!?
仕事はできそうだし、細身だけど華奢すぎないし、その割にうなじがいいのよ。白くて、細くて、フェロモn……いや、色気が漂ってる。Ωっぽくて、首輪とかも似合いそう。いや、調教者はあんまり好みじゃないけど、オメガバは好きなんよなぁ。
「Ω感あるのいいよね。」
言ってしまってから、この世界にオメガバが存在しない可能性に思い当たってしまった、と軽く後悔する。絶対説明を求められるだろうけど、人の身体でヒートとか言っちゃだめでしょ。
けれど、その心配は杞憂だったようで、詩歌に気にする様子はなかった。
「確かに、外見だけならそういう感じですが、中身はむしろαっぽいですよ。自分の優秀さをしっかり自覚してる自信家さんです。」
「え……好き。強気受けっていい。」
詩歌が何も言わないので、不思議に思って横を見ると、目を見張って私を見ていた。詩歌、と呼ぶと我に返ったように瞬きを繰り返して、早口に言った。
「姫様もそうなんですか?私も同じです!誘い受けは最高だと思ってます。」
「分かるわ……騎乗位とか、特に萌えるのよね。」
あ。オメガバについて説明するよりヤバいこと言っちゃった、かもしれない。
だって楽しいんだもん……
詩歌が怖いくらいに真面目な顔で言った。
「同志とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「勿論よ。というか、私も既に内心あなたを同志と呼んでたわ。」
「嬉しいです!」
詩歌がぐっと拳を握りしめたが、それが御簾に当たって派手な音を立てた。
ケイが素早く反応してこちらに駆け寄ってくる。
ヤバい。
私は呆然としている詩歌をそのままに、奥に戻って自分の思う最上の優雅な姿勢で座る。
「失礼します、姫様!」
その瞬間、ご無事でしょうか、とケイが御簾を持ち上げた。
間一髪。
「えぇ、私は何ともないわ。詩歌が、少し均衡を崩してしまっただけ。」
バランス、といいそうになって慌てて訂正する。『均衡』の語彙がでてきた自分を心底褒めてあげたい。
ケイに目線を送られた詩歌が、完璧な姿勢で礼をする。
「誠に失礼致しました。」
ケイがほっとしたように強張っていた表情をわずかに緩めた。
「おくつろぎのところ、ご無礼致しました。」
御簾が下りて、ケイから見えなくなると、私は途端に力が抜けてぺしゃりとへたり込んだ。
「姫様!?」
小さく叫んで詩歌がやってくる。
「ちょっと気が抜けてしまって……心配ないわ。」
「先程は本当に失礼しました。興奮のあまり我を忘れてしまうなんて、侍女失格です。」
本気でへこんでいるらしく、しゅんとしおらしい詩歌の頭をよしよしと撫でてやる。
「姫様……」
「詩歌は優秀な侍女よ。私のごまかしにもすぐにのってくれたじゃない。」
「姫様の機転が素晴らしかったので、乗りやすかっただけですわ。」
二人でふふっと微笑み合う。
詩歌がいれば、何も知らないこの世界でも楽しく生きていける気がした。
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