幼馴染が大好きって言いたいけど言えない異世界転生

りつ

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従者として父上が雇ったらしい男爵家のマークと食事をして、食事の最中も寄子貴族の子弟を俺が纏めて統率するように言われて頭が痛くなった。

確かに、父上が面倒みている領主貴族の子弟だから、俺が主筋になるのかもしれないけど、無理!
兄姉達みたいな、こうなんて言うか圧倒的オーラみたいなの持ってないし。気が重いまま、食事を終えてベッドに入ると、気を失うように眠ってしまった。何も考えたくないって体が正直に反応したようだった。

夢も見ない深い眠りの底で、どんなに気が重くとも頑張らないと、騎士になって迎えに行かなきゃって決意だけは固く結ばれたのだった。

明るい日差しがカーテンの隙間から零れ落ちた眩しさに目が覚めた。勢いをつけて起き上がると、窓まで歩いて行ってカーテンを開けて、王都の空を見上げた。空の色は別段、故郷と変わってはいない気がして、昨日から気負い過ぎていたなと、深呼吸した。

「ふーっ……俺は兄上達と同じになんてできる分けないんだから、と、友達から……だな。マークとは気長にやろう。うん」

口に出して言うと、なんか落ち着いた気になって。案内された俺用の部屋は二階で、普段は留守になるけど、俺専用の部屋だと説明された。専用って、なんという無駄な手配だと思ったけど、実家は裕福だってのを実感した。普段、贅沢な暮らしって雰囲気じゃないから、勘違いしちゃうんだよな。母上だけは天蓋付ベッドを使ってるし、結構豪華なドレスを持ってるけど、普段は着てないし。優雅な貴族の暮らしとは縁遠いからな。

掛け声が聞こえたので、窓の外を見ると、中庭で護衛騎士に交じってマークも剣の手合わせをしていた。俺の護衛を任されるだけあって、ちゃんと剣が振れていたから、それなりに使えるんだと、言動が軽めなのにと感心したのだった。俺も入れてもらおうと、部屋から出て階段を駆け下りて中庭に向かったけど、マークにきっぱり断られてしまった。

「これから学校の寮に入るんすから、まず朝食を食べて、その間に馬車の手配しときますから」
「ええっ? マークはもう食べたの?」
「そりゃ、美味しいご飯をしっかり食べて弁当までお願いしたっす。フィリッツ様は学校の寮の食堂が我慢ならないようなら、自前のシェフを雇ったり、この屋敷から弁当を届けさせるのもありっすから。是非、そうして下さい」


何それ?
高位貴族特別ルール?!
そんなことしないから!
マークはお裾分けを期待してるみたいだけど、俺は首を横に振った。

がっかりした顔になったマークと別れて、言われた通りに食堂に行って、湯気の立つまろやかな塩味のスープと、焼き立ての白いパンに、カリカリのべーコンエッグと葉物野菜のソテーをお腹一杯食べて、身支度を整えると馬車に向かった。実家のパンと同じ味なので、王都でもこれが定番なのだと思った。

馬車の前でマークは学校の制服を着て待っていた。俺も新品の制服を着て一緒に馬車に乗ると王都郊外に建てられている騎士学校に向かった。

「はい。これ。昨日用意しておきました」
馬車の中でマークはとてもいい笑顔で紙の束を渡して来たので反射的に受け取ると、びっしりと書かれた身上書だった。
「え?  ええつ?!」
これ書いたの?! 暇なの?!!
言葉にしそうになって、ぐっと飲み込んだ。頼んでないけど、わざわざ用意してくれたのに、失礼な事を言っちゃダメだよな。
「顔に出てますよ。フィリッツ様。これは、事前に辺境伯様から頼まれていたので、ざっと書いてあったものを昨日まとめただけですから。俺、そんなに暇じゃないっす」

筒抜けだったと、恥ずかしさで頬が熱かった。
「ち、父上から頼まれてたんだね。ありがとう。でも、こんなに大変だったんじゃ?」
「いやいや、婚活も兼ねて、調べていたのもあって、それ程でも」
「婚活?!」
そう言えば、婚約者がいるって言ってた!
とても同じ年とは思えないしっかり具合に、前世でも中学生くらいの頃、こんな奴いなかったと驚いた。

「フィリッツ様、小領地貴族って大変なんですよ? まず、税収が少ない中で何とかしなくちゃいけませんから、近隣の領主達と仲良くしつつなめられないようにしないといけないんです。隙を見せると、こすっからいことされますからね。ですから、お互い親戚になっても、油断できないし…… 聞いてます?」
「うん。聞いてるよ」
渡された紙束をどこに置けばと思っただけで、聞いてますと頷いた。

「長話聞きたくないでしょうから、要点だけ言うっす。学校に来てる寄子貴族の子弟の中に女の子が6人います。多分、辺境伯家と縁戚になりたいでしょうから、ぐいぐいきますよ?」
「ひえっ?」
マークの言葉に変な声が出た。

「そりゃ、跡取りの妻が一番ですけど、もう次男まで結婚しちゃってますから、三男は難しそうとなると、フィリッツ様が狙い目ってコトっすね。女子じゃなくとも姉妹を紹介したいでしょうから、領地にぜひ遊びに来てくれって言われますよ」

「えーっと?」
「上手くかわせって意味で、相手の情報を知っとけってね。あんま露骨にしても良くねーって思いません?」
「うん。そうだね。マークは? 狙わないの?」
つい、余計な事まで聞いてしまったと慌てたが、マークは笑顔で断言した。
「まず、縁戚になったら、妬まれるのが面倒っす。後、姉妹はいません。従者になれたんで、充分なんで」

甘かった!
騎士学校で学ぶだけじゃなくて、そんなことまでと紙束を握る手に力が入った。
とにかく、やれるだけやるしかない。優秀な兄姉みたいに主席とか、狙ってないし。剣の腕が段違いなので狙いようがないのが本音だけど。

「この際だから言うけど、俺、そんな優秀じゃないから。だから、色々助けて下さい。お願いします」
「ブフッ……!」
俺の言葉に、マークが堪え切れないって顔で噴いた。

俺って、そんなに酷いの?
涙目になった俺の腕をマークが、がっしりと掴んだ。
「10歳の頃から辺境伯騎士団と魔物狩りに参加なさってるのに、そんなに卑下なさることないですよ?」
「え? いや、普通だよ。兄、姉上達もそうしてたって聞いたよ」
「剣を受け継がれたでしょ?」
「えっと、あ、あれね? うん」
確かに、父上から剣を一振り、もらったけど、相性がいいからってだけで、父上は剣を沢山持ってるし、その中の一本だしな。
「もっと自信を持って下さい。俺、ちゃんと志願して従者になったんですよ」
「アリガトウ」
真面目な顔で言われて、何か恥ずかしくなって変な声で答えてしまった。

「フィリッツ様は、ホント天然っすね。まあ、そんなとこもいいすけど。ま、気楽にいきましょう」
「そうだね」
手を放してマークは自然に笑ってくれたので、何か肩の力が抜けた気がした。かなり、買い被られているような気もするけど、侮られているよりはいいよね?

そうこうしているうちに、瀟洒な騎士学校の建物が見えてきた。これから四年間学ぶ学校かと思うと、胸がワクワクするのだった。






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