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後編

『人妻論《ママ狩り》 奥さんは熱いうちに突け! …後編ー①:キス』

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   7・直球勝負 (木曜日 12:37) 

 後にリカ語る…。
『主人以外の男に抱かれる自分をたまには考えてみたことあります。
 誰でも想像することがあると思うの。
 でも、それが現実に行われることはなかったんだけどね。
 男の人も、誰かを殴りたい~、なんて思うことあるでしょ?
 でも、それが実行されることなんて、社会人ならば、めったにないでしょ? それと同じ。
 そして、そんな浮気や不倫の想像をすればするほど、現実的に考えれば考えるほど、
 私には、抵抗感が起こることがあったから……。
 多分、メデューサの振り乱された髪のように、ひどい人に比べて、私のは些細な、
 それこそナルトの髭みたいな程度の<範囲>だとは思うけど、それは私にとっては大きな恥。
 たまらなく恥ずかしさを感じることがあったから、あなたから真っ先に、その指摘をされた時、
 私はあなたとの行為を拒絶するよりも、その<図星>に驚いてしまった。
 私の心と身体の引け目……、そこを突いてきたあなたに、私は抱かれるのは避けられなかったのかも……』

 ……メデューサ? ナルト? 何のことを言ってるのか?

     ◇     ◇

 話は尽きなかった。
 俺自身、お喋りは好きなほうだが、この上品なリカさんの小さな唇が開かれて控えめに語られる何気ない話のリラクゼーションは心地よい。
 俺は濃厚なクリームの、リカさんはフルーツ主体のデザートを食べ終え、おかわりしたコーヒーも空いていた。
「ふむ、さて、そろそろ行きますか?」
 俺は立ち上がった。
「はい…」
 楚々として答えるリカさん。
 立ち上がり、無名なブランドのバッグを引っかけた両手を、揃えて前にしている姿も気品が漂う。
 だが、すぐに「?」の挙動。
「あの、御会計の紙は?」
 俺は当然のように言う。「もう払いましたよ」
「えっ? えっ? いつ?」
「リカさんがトイレに行ったときに」
「えっ! えっ? ごめんなさい。私も払います」
 慌ててセカンドバッグからウォレットを取り出して、お金を取り出そうとするしぐさ、所帯じみていて可愛い、可憐だ。
「今日は出しますよ」
 俺は、リカさんに有無を言わせずにスタスタと出口に歩いて行き、レジの子に「ごちそうさま」と笑顔を向けた。
 店を出ると、リカさんは背後から小走りにトトトトと近づいてきた。
「あっ、あっ、あの、……ごちそうさまでした」
 いい子だ。
「どういたしまし~」
 あまり割り勘を固辞せずに男にすんなりと華を持たせる。
 リカさん、美しいゆえに心得ている。
 そしてこの後も、何をするにしても有無を言わせずに、リカさんに固辞させずに、全てを進める。

 女は無意識に計算高い生き物だ。
 リカさん、どうせ、トイレに行った時も、あらゆる場面に備えて、ビデで性器を丁寧に洗浄しているに違いないのにね。
 俺は垣間見たのだ、クラッチバッグをリカさんが開けたときに……。
 この後のセックスの可能性に、罪悪感による拒絶を決めていたとしても、この美しい身体にふさわしく、生活の中での蒸れ臭などをケアしていることだろう。
 しかも、お店のビデなどは、衛生的に不安もあるので、お店のビデを使ったりはしないようだ、リカさんは……。
 セカンドバッグの中に忍ばせていた携帯用のビデを、俺は垣間見たのだ。
 すると、今度は、リカさんの性事情に疑惑が生じる。
 携帯ビデを持ち歩いているなんて、この人、浮気の熟練者なのか?
 そんな疑問が湧いてくるけど、今は打ち消す。
 疑いは疑いにすぎず、今は、その疑いを消すだけの追及も出来ない。

 ちょっと話が変わるが、俺は以前、もしかして将来の親の介護をしなくちゃならなくなるような心配を、会社の上司に相談したことがある。
 介護の方に頼むにしても、自分の時間の工面をしなくちゃならないし、また、経済面についてもどれくらいかかるのか、とかを。
 すると、部長が言ったのだ。「君の両親は今は健康なのだろう。だったら、介護をしなくちゃならなくなったときに考えればいい。その時に考えればいいよ。そうしないと、今の安定した生活が、不安で損なわれちゃう様になったらもったいないよ。君は、その準備に充分な社会人として生きているのだし」
 ……部長の言葉は妙に腑に落ちた。

 だから、ここにきて巻き起こったリカさんへの疑惑も、今 心配していたら、「今」を楽しめない、故に、考えるのをやめた。
 後で、セックスの最中に、俺とリカさんががっちりと結合していて、体液を絡めながら、その体液が攪拌されて白濁になった頃に、そう、リカさんが夢心地の時に、詰問してみようと思う。
 状況証拠での疑惑は、受け手の全くの妄想であることが非常に多い(←これは、この不倫小説の中の一文としてではなく、あなたの人生へのアドバイスである)。

 車に乗り込む。
 リカさんがシートベルトをつけたのを確認すると、車を出す。
 もう、俺は無表情でありつつも、エロいことで頭がいっぱい。
 シートベルトで、リカさんの双房は分断されている。
 大きい胸ではないが、バンデージで縊りだされ、強調されている。
 たまらん!
 だが、黒澤明の有名な言葉で遂行する。
     『悪魔のように細心に、天使のように大胆に!』

「初めて見たときから、俺はあなたに夢中です。あなたを抱きたいので、ラブホテルに寄りますよ」
 俺は笑顔で切り出した。
 助手席のリカさんに緊張が走ったのが分かる。
 揃えたジーンズの細い両足をキュッと閉じ、膝に置いたセカンドバッグの持ち手を掴んでいた両手に力が入る。
「どこか、いい場所がないかなぁ」と、俺はハンドルを操作する。
 しばしの沈黙の後に、「そ、それは……」とリカさんが口を開いた。
 が、俺は、それにかぶせるように言った。
「妊娠線が残っているのを見られるのが恥ずかしいからヤダ! なんて言うんじゃないでしょうね~?」
「えっ! なんでわかるッ……」とリカさんは大きな声をあげてしまった。
 なんで知ってるんですか? とでも言いたいのだろう。

     ・・・・・・その通りであったから……ッ!

 旦那以外との性行為への恐れよりも、妊娠後の田中梨華と言う実存と寄り添うように合ったコンプレックスを、俺は言い当てていた。
 もちろん、偶然にも、幾つか用意していた最初の指摘が当たっただけだ。
 それで反応がなかったら、あと二つくらい、主婦にさもありなんな外見的な劣等感を予想してみるだけだ。
 だが、それも、三回ぐらいが限界だろう。
 三回で当てられなかったら、後は、その奥さんの貞操観念による拒否に飲み込まれ、「ママ狩り」は失敗に終わっただろう。
 だが、核心は衝かれた。
 今回は、初弾から炸裂した……、その、人妻の心に作用する<炸裂>は、数十分後には胎内でも<炸裂>する。

「あなたは美人さんだ。そんなあなたが愛した人と結ばれて妊娠した結果の、可愛い子供を育んだ後のお腹の痕跡、俺には、そんなの魅力的にしか見えませんよ。俺はリカさんと癒し癒されあいたい、そんなことを気にすることはありませんよ」
「そ、そうですか……」
 奥さんは未だに、自分の劣等感と思っていたものをズバリと言い当てられた衝撃の中にいた。
 自分が、旦那以外の男から、情交を求められていることを容認している事実に気づいておらず、まさにそれは決定事項で、その先の問題が語られていることに気づいていない。
 ましてや、俺は、旦那への愛や、子供二人に対しての、愛情深きお母さんとしてのリカさんを完全肯定している。
 本来、人妻や母親であることは、不貞の否定材料になるはずだ、しかし、俺は、あえてそれを口にすることで、肯定材料へとすり替えている。

 ……世の中は、言葉で支配されているともいえる。
 普通に生きる人間は、あの時こういったとか、この時こう答えたとか、口約束したとかを、良心に照らし合わせて重要視する。
 それにいとも簡単に逆らえるのが詐欺師やペテン師に代表されるような犯罪者だ。
 田中梨華は、当然ながら、普通……、と言うには上質の奥さんであるが、常識的な生き方をしてきた主婦である。
 その人妻が、旦那以外の男の誘いに、即座に拒否の言葉を出せなかったのは大きな「言葉の選択ミス」だ。
 田中梨華は、俺の求めを拒否するタイミングを失った。
 いや、何も知らない旦那が知ることになったら、それは失敗であるが、旦那に知られなかったら、田中梨華の心の中にしか後悔は起こらず、しかし、俺は、その「後悔」を消滅させるだけの快楽を与える自信がある。

 車は、手短に見えたラブホテルの通用門にスルリと進入していった。
 

     8・ラブホテルでのファーストキッス (13:06)

 奥さんは、抗えない運命の中にいて、顔を伏せたまま、足を揃え、両手を揃えて、ちょうど、これから徹底的に汚されることになる腰の部分に、あたかも防具のようにあてたセカンドバッグの取ってを握って、俺についてきていた。
 ……なんと貧弱な「盾」であろうか。

 自動受付で部屋を決め、エレベーターに乗り込む。
 もう、そこにおいてすぐさま、その可憐な唇にむしゃぶりつきたかったが、我慢我慢。
 踵を返されては困る。
 言葉も発さなかった。
 世の中は言葉で支配されている、と先ほどいった。
 ひょんな、不用意な一言で、この極上の他人妻の獲得を逃すことになっては困る。
 フィッシングみたいなものだ。
 魚がエサに完全に食いつかない、いわゆるアタリの状況で焦って竿を引いてバラしてしまう恐れは回避したい。
 では、「のる(魚が針にしっかり掛かり、手ごたえが充分)」状態は、「ママ狩り」においてはどんな状況か?
 ……一室に入り、ラブホテルの扉の自動施錠の音が鼓膜に響いたときである。

     カシャッ!

 俺は一歩早く靴を脱ぎ、上がり框をまたいだ。
 部屋には微かに音楽が流されていたが、こちらの気持ちを動かすものではなかった。
 奥さんも伏し目にだが、腰を屈めてローファーを脱ごうとする。
 その、片方の肩を傾けて、小首を傾げるしぐさ。
 ううう、我慢できない。
 俺は、その所作を遮り、その華奢な人妻の両肩に両手をかけ、立たせた。
「リカさん、美しい顔をあげて」
 奥さんは顔をあげた。
 眉を八の字にして、唇をやや尖らせて困惑の表情だ。
 クールなはずの美形顔が、かつてない戸惑いの中にいる。
 だが、向かって右側の唇の下、うっすらとしたホクロが物欲しげだ。
 我慢が爆発!
 奥さんの両肩に置いた両手を、奥さんの後頭部に滑らせて、俺は、背の低い奥さんに腰を下げつつ、顔を近づけた。
 奥さんは両手をお互いの身体の間に挟んでささやかな抵抗を示す。
「ら、乱暴にはやめ……ッ!
 小さな虚弱な女の抵抗は、男の俺の抱擁に、言葉とともに押し潰される。
 奥さんのつけている、控えめな柑橘系のコロンの匂いが周囲に散る。

 攻撃的な体力で男に負けない女性は少ない、女の強さは、攻撃に耐える強さにある。
 これからの4時間、田中梨華は、かつてないハードな責めを受ける。
 セックス漬けになる。
 だが、帰宅し、仕事を終えた旦那を迎え入れるときには、その明るい母親の容姿には精神的にも肉体的にも痕跡を残していない、それが女の強さだ。
 他の男に身を委ねた形跡を、正主人の前ではおくびにも出さないのが女の性だ。

     チュッ!
 柔らかい。
 と、先ずは、初めての不倫行為を行なう美麗主婦に、軽いキスをし、もう「不倫」が始まっていることを示し、間髪入れずに、また唇を近づける。
 いい女とのキスはたまらなく「恋の味」だ。
     ブチューッ!
 ディープキス。
 自らの唇を開き、奥さんの唇へと舌を伸ばす。
 意外!
 奥さん、唇を開き、俺の舌を受け入れた。
 プルンプルンの唇は瑞々しい。
 俺は舌を突き出し、奥さんの前歯をかいくぐり、舌先を奥さんの舌に合わせた。
 さらに奥に舌を向けたいので、俺は首を、リカさんに対し曲げ、密着度を増した。
 俺の両手は、リカさんの首から、腰に回して、自分に引き寄せた。
 奥さん、受け入れてはみたけれど、その舌は動かず、俺は構わずに奥さんのに俺の舌を絡めた。
 リカさんは棒立ち、その両腕も、俺との間に挟まったままだ。
 薄いダウンジャケットも着たままなので、リカさんの胸の感触を楽しむのはまだまだお預けだ。
 絡めつつ、俺はリカさんの唾液を吸うのだが、奥さんなりに緊張しているのかな、口内に潤いが少ないのが残念だった。
 しかし、奥さんも舌を動かし始めた。
 口内にヌチャヌチャと「下品な愛の交歓音」が響く。
 次第にお互いの唾液が分泌されはじめた。
 お互いにキスを激しくしたので、唇の間に瞬間 隙間ができ、ヌチャ音が骨伝導ではなく、耳からも聞こえる。
 コポコポと変な音も聞こえる。
「はぁ……」と奥さんの吐息も漏れ、俺の興奮も上乗せされる。
 お互いが舌をあやつり絡めあう、その弾力あるグミのような感触、たまらない。
 リカさんも楽しんでいる、可愛い。
 身体は動かしていないけど、切れ長の瞳を柔らかに閉じていて、口づけを堪能しているようだ。
 前髪が数本、目の前に垂れているのは乱れ髪風で色っぽい。
 俺も、目を閉じつつ、でも、リカさんの反応を視認もしたく、目を開けつつ長いキスを楽しむ。
 落ちるの早過ぎだぜ、リカさん……。
 でも、その分、もっと愛を発展させられる……。
 と、リカさんが瞳を開いた。
 キスをしながら視線が重なる。
 うは、まつげ、長ッ!
 視界が近すぎて、たまに、リカさんの両目が重なり、モノアイにも見える。
 表情とは、顔の筋肉の収縮で喜怒哀楽が表現される。
 しかし、瞳単体では、その感情は読み取れない。
 もともと、リカさんはクールな三白眼で感情が感じられない。
 が、視線の重なりは、舌をつつき合い・絡めあう「求愛ダンス」みたいなものをしているが故に、瞳からは読み取れていないが、その思いは充分に分かる。
 面白いものだ、雄弁であるはずの瞳からは想いが読めず、密着した唇から思いが伝わってくるのだ。

 しかし、リカさんの感情が瞳から溢れてきた。
 奥さんの瞳が潤んできたのだ。
 それは喜怒哀楽で言うと、どのような感情か?
 泣いているからと言って「哀」ではなく、舌の積極的な動きを見たらマイナス感情ではないだろう、だから「怒」も除外。
 「喜」であり「楽」だと思うのだが、俺は羞恥心の「恥」の感情での涙だと思うのだ。
 結婚し家族を持っている立場で、他の男とキスをしてしまっているはしたない自分に涙を流している。
 ならば、マイナス感情か?
 いや、そんな恥ずかしい自分がえらく興奮していちゃっていることに感涙している。
 つまり、涙を流すマイナス感情を「喜」「楽」に転化している。
 ……つまり、田中梨華は「マゾ」の素質もある。
 美しいがゆえに、マゾ扱いされて生きてこなかった。
 だが、その「マゾダム(被虐深層意識の湛えられたダム)」は思いもよらぬTPO&M(時・場所・場合・そして男)で決壊する。
 ……今日、どこまでできるか分からないけど、まあ、マゾ調教は気長にやるさ。今日は、完全なる「人妻セフレ」にするまでをクリアーしたいね!

 ふと横に視線をやると、部屋の壁の一部分に姿見が設置されていた。
 キスしている俺たち二人の全身が見える。
 ボーッと立ちつつも、懸命に唇・舌だけは動かしていて健気に思えた奥さんだが、鏡を見ると、チョコンとつま先立ちしていた。
 奥さんなりに、性行為に積極的ではあったのだ。
 メチャ愛らしい。

 キスの時間3分は経過していただろうか、俺はリカさんを壁に支えさせると、その前にかがんだ。
「つま先で立ってたんだね、疲れたでしょ」と、奥さんの小さな足の両踵に手をあて、下げさせた。
 奥さんは、「ふぅふぅ」と余韻に浸っていた。
 乱れた前髪をかき上げようともしない。
 口の周りのよだれを拭こうともしない。
 赤ちゃんみたいに可愛い。
 が、その表情は女神のように整っている。
「まだ、ベッドにはいかないよ」
 俺は、リカさんの腰に手をやり、そのジーンズのベルトを緩める。
「えっ!?」
 リカはセカンドインパクトに戸惑う。
 インパクト(衝撃)は何重にも与える!
 次は、いきなりのセックスだ。
 もちろん、避妊具はしない。
 ジーンズのフックも外し、一気に下に下げる。
 真っ白で華奢な少女のような両足があらわになる。
「キャ……!」と小さく叫ぶ人妻。

 俺も、驚いた。
 そこには、ショッキングピンクの、フリルありーの、ワンポイントリボンありーの、母親らしくない少女趣味の可愛い下着があったからだ!

 素材は端正、誰が見ても美人と分かる容姿ながら、地味な服装、そして、あんまし表情を顔に出さない性格、気さくながらもその瞳はクールな三白眼の田中梨華……、その趣味は実は乙女チックであった。
 それは読めなかったよ、俺ちゃんでも……。

 リカさん、後に語る。
「そうは見られないのだけど、可愛いデザインや色が大好きで、でも、買ってはみたけれど、主人の前でも着たことなくて、デートの時くらい、ズボンの下には履いていたかったの……」

 か、可愛い。
                              (続く)
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