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前編

『人妻論《ママ狩り》 奥さんは熱いうちに突け! …前編』

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 …「サッパ」 は、汽水域に生息する魚で、「ママカリ(飯借)」という別名でも知られ、ママカリ料理は岡山県の郷土料理として有名である。
 ママカリは、漢字では「飯借り」と書き、「飯(おまんま)が進み、家で炊いた分を食べ切ってしまってもまだ足らず、隣の家から飯を借りてこなければならないほど旨い」に由来する呼称である。

 この作品タイトル「ママ狩り」とは、サッパリとした性を感じさせないような奥さんが、実は、その内には、匂い立つような美味しい心と身体を秘めており、それをナンパ師に見抜かれた時、例えば隣人、近所のママさんであろうとも容赦なく狩られ、存分に賞味されることを言う。

 母親は「海」に例えられることが多い、そして、海の中でも、その包み込むような大きさから、クジラと言うものが母性として語られることも多い。

 よく、捕獲されたクジラは、その資源としての価値には余すところがないと言われる。
 (以下、【】内、特に読まないでいいです)
 【…肉の食用としてはもちろんのこと、脳油は機械油、骨や皮は石鹸、グリセリン、硬化油、クリーム、口紅、クレヨン、鉛筆の芯。歯は靴べら、パイプ、印材、細工物。干筋(すじ)はラケットのネット。ひげは、釣竿の先、靴べら、文楽人形のバネ。軟骨(かぶら)は松浦づけ。軟骨はゼラチン、フィルム、印画紙、薬のカプセル。骨は肥料、飼料。肝臓は肝油。脳下垂体・甲状腺・すい臓はホルモン剤となる。】
 まことに無駄のない存在だ。
 故に、日本民族は古来からクジラの犠牲を感謝し神格化し敬ってきた。
 捕鯨反対派の人々が、鯨を祀った鯨神社などを訪れると、その、日本人の鯨への畏敬の念に圧倒され、うなだれるそうだ。
 
 …人妻、も、そうである。
 その存在に余すところはない。
 その心の揺れ動きに、無駄なところがない。
 その身体と心は、捕食者によって、すみからすみまでしゃぶり尽くされ、弄り尽くされ、だが、それでもなお堂々と、女神として崇められるのである。
 どのように、「人妻」って存在は余すところなく、無駄がないと言うのか...? もちろん「性的」に、であるが、それを丹念に描いていくのが、この作品「奥さんは熱いうちに突け!」である。

 …なんかよく分からないけど、そういうことだ。
 ただ、エロいことには変わらないので、楽しんで読んでくれよな!

     ◇     ◇

   0・プロローグ

         ・・・火曜日(07:42)

 遠目に見る奥さんは、いつものようにクールビューティー。
 だが、町角での通学児童の監視…、親御さんの持ち回りで行われているのだろうか…、たまに見かける、佇むその姿…、この日マイナス3℃の大気の中、寒さで、身体を大きく左右に落ち着かなく揺らしているさまは、なんとも、「屋外プレイ」として、彼氏によって胎内にバイブやローターでも埋め込まれているかのような不自然な動きだ。
 外見がエロスとは無縁な印象であるがゆえに、その動きはミスマッチで、眺めているこちらの妄想を駆り立てる。

 あの奥さんのような美しい女を、俺はものにしたいと思っている。
 予想では、ものにできるはず……、と思っている。

         ・・・木曜日(13:12)

 奥さんとラブホテルの一室に入り、先ず俺がしたことは、ベッドルームに至る短い廊下での、力強いハグと、強烈なキスだ。
 それについては、後に詳細を記すことになろうが、今 語るべきは、それ以上に俺の強く求めていたことだ。

 清潔感のある奥さんの身体にぴっちりと張りついたジーンズを即座に脱がすと、俺は、二児の母とは思えないような、ピンキーなフリルの下着に一瞬 面食らいつつも(奥さん、その気もあったんだな!)、それさえも引っぺがすと、短い通路の壁に押し付けて、その小さな奥さんの前に跪き、ポケットから取り出した、うずらの卵大のローター(大人のおもちゃ)を三つ、ガニ股に足を開かせた局部にスピーディーに押し込む。
 濡れてた! 意外にもツルリと入った。
 陰毛 少なし、色薄し細く柔し...。

 観目麗しい奥さんの下半身の衣服だけを取り去り、両足を、腰を下ろすべきベンチにまたがらせるような、あられもなく不自然な開かせ方をして、背中を壁に強く押しつける……。
     変則壁ドン!
 つまり、スポーツ系部活の練習での筋トレの一種「空気椅子(地方によっては電気椅子)」みたいな体勢…、その開脚ヴァージョン。

 本来はそれだけで、凄まじく淫靡な光景であり、充分な時間、その肢体の鑑賞に充てたいものだが、俺は、なるべく、奥さんのいつもの生活からかけ離れた「落差」を与えたかった。
 だから、高速で、その目的を果たす。
 あまりにもの早さに、奥さんは抵抗を忘れ、「あっ、あっ!」と戸惑いつつも、なすがまま。
 小柄だからと言って、人形・物のように扱うのは、それが尊くも人格ある、気高き人妻であるがゆえに、たまらない愉悦だ。
「ああ、あっ! あっ! い、いきなりッ?! こ、困りますぅ」
 てゆーか、彼女の葛藤は、ラブホテルへ入る瞬間に終わっていたと思う、そこで既に覚悟が完了され、言葉では否定していても、何をされても受け入れるのだろう。
 ただ、「私は…」「私は…」とも繰り返していた。
 「私は…」の語尾が、たまに疑問形のように、「私はぁ?」「私はぁ?」と、高音で上がるのが、美人の精神を揺さ振りたいと考えている俺の気持ちを高揚させる。

 もっともっと、自分とはなんなのか、に疑問を抱けよッ! と俺は思う、しかし、どんなに、奥さんの心に衝撃を与えられても、その美しさは減じない。
 おそらく、「私には家族がいる」「私には主人がいる」と言いたいのだと思う。
 だから、俺は、一瞬だけ動きを止め、立ち上がり、奥さんの耳元に「バレたら困るのは俺も同じ、お互いに快楽を求めよう」と囁いたら、抗(あらが)いの力は抗いの力なのだが、その種類にやや異なりを示した。
 ここまでの俺、スムーズにことを運んでいるように、この「人妻篭絡報告」を読んでいる方は思うだろう、…そんなに楽なもんではない、奥さんが他人の男に身体を許すにおいては、奥さんの心の中において何百もの関門があり、その段階・決断をギリギリすり抜けた苦難の結果なのである。
 そこをうまく乗り超えさせることこそが、我ながらの俺の非凡な「人妻ハンター」の手腕だとは思っているけど。

 陰毛は薄かった。
 俺のためかは分からないが、薄い陰毛の周囲に生え際を剃った跡があり、興奮させる。
 白い肌。
 そのお餅のような柔肉に、肉の複雑な切れ込みが入り、下着に圧せられていた、赤みを帯びた肉ビラが楚々と折りたたまれているようなイメージで張りついていた。
 ヒダ端は、わずかに色素が沈着し始めていた、…可憐だ。
 未だ、その内側は見えない。

 今まで、何人の男とつきあってきたのだろう、この美しい局部を何人の男に見せ、愛させたのだろう。
 性器は潤っていて、肉ビラはテカっていて、三つのローターは順番にツルンと挿入されていた。

     …かなり濡れているな。

 俺は、脱ぎ取った下着の、局底部を見た。
 そこには、べったりと粘つく愛液が張り付いていた。
「うへ、食事の間中、こんなにも濃厚な愛液をダダ漏れさせていたんだね」
 わざとに下品に言うのは俺の定石、そう告げることで、貞操の枠を消し去っていく。
「あ、ああ、見ないでください」
「こんな汚いもの見ませんよ」
「うああ…」と、身体を恥ずかしさで身もだえする奥さん。
 華奢な腰がエロチックにグラインドする。
 脂肪の少ない腰の、その薄い柔肉に包まれた骨盤が別の生き物のようにうねる。
 このフラのような腰の動きを、俺は衣服をはぎ取って見たかったんだ。
 その腰には、下着のタイトな跡が深く残っている、それは奥さんの年齢を感じさせた、…可憐だ。
 年齢は聞いていなかったが、30代の中盤だと思っている。

 いつもの街角での通学児童のパトロール…、寒さに凍える奥さんの動きから、俺はエロスを感じていた。
「見やしませんけども、下着の方は、後でチュパチュパ吸いますけどね…」
 俺は、相手の想像を超えた下品発言をする、いや、もちろん実行する。
 奥さんは、更に、身体を悶えさせた。
「ああああ」
「奥さんの身体も心も味わい尽くす」
「はぁああああ……ッ!」
 あまりの急激な恥ずかしさに、思考を言語化させられない奥さん。
 俺が、思い描いていたのはこれである。
 予想以上だが、更にローターのスイッチを入れたら、もっと、悶えが激しくなるだろう。

 …そう、朝の街角で立つ奥さんの、寒さを紛らわす、身体を左右に動かすアクションの、上位互換の腰振りダンスを鑑賞できるだろう…。

 フラダンスから、より激しいタヒチアンダンスへ…。

     1・その容姿(火曜日 07:43)

 東京の最も寒い時期も近い一月の下旬。
 俺は今日も、マフラーの首もとを確かめつつ、自宅から駅への通勤の道を歩いていた。

 坂のある町、その住宅街、やや大きめだが、信号のない交差点に、学校に向かう児童を見守る父兄らがいた。
 凍てつくも澄んでいて静かな大気。
 車のエンジン音がやけに響く。
 父兄と言っても、父親であることはほとんどない、近所のお母さん方が代わる代わるやっているようで、寒さに身を縮こませながら、幾人かのお母さんが順番で「児童横断中」の黄色い旗を振っている。
 たまに見かける、魅力的なお母さんがいる。
 小柄だが、小顔なので八頭身にさえ見えるスレンダーな身体は、スリムストレッチのジーンズに包まれている。
 俺はいつも、遠目にそれを見て、タイツ姿のように思ってしまう。
 この日はネイビーブルーのダウンジャケットを着ているのだが、モコモコしたタイプではなく、これもコンパクトに上半身にフィットしている。
 俺は、特に大きな胸を好んではいない、その程よさにグッとくる。
 丸みショートの髪はやや茶色で、丸顔を確固たるものにしている。
 そして、丸顔なのに、表情はクールだ。
 肌は白いが、美形のインド人のような端正な顔。
 瞳は切れ長、鼻は尖っていて、口元はキュッと閉まっている。
 小さな身体は可愛く、その顔立ちは美しかった。
 お人形さんみたいだった。

     2・ジーンズのシーム(木曜日 18:43)

 ジーンズのズボンは、ポケット部分の小ピースを抜くと、4つの大きなデニム生地が縫製されて出来ていると言ってもいいと思う。
 特に、その股下部分は、4つの生地の集合点で、折り重なって縫われていて、4枚分の厚みがある。
 それは、ジーンズの内側に、やや突起状に出っ張っている。

 …事後、激しい…、いや、激し過ぎる秘め事を終えた俺と奥さん。
 帰りの車中、逢引のため、奥さんが車を止めていたショッピングセンターモールの、その大型駐車場まで俺の車で送っていき、奥さんを下ろす前の別れへの名残惜しい短時間、俺は、お人形さんの様に整った奥さんの、そのスキニージーンズの股間に手を当てていた。
 4つのシームの重なっている部分を中指と人差し指で探し出すと、そこをグリグリした。
 内側には、奥さんの、最も高貴かつ神聖にして、どうしようもなくはしたない局部がある。
 グリグリは「マンほじ」に至るが、そこは、先ほど、もっと深い部分に、自分の性器を【数万回】と出し入れした箇所で、ジーパンの布地数枚の凸部程度では刺激は少ない。
 デニム生地の折り重なっている突起を、俺は更に、奥さんの局部中の極点(陰核)にクリクリ、探り当て重ね当て、容赦なくグリグリクリクリした。
 クリ責めならば効果は大きい。
「ああああ」と、車内にビブラートを利かせた奥さんの喘ぎ声。

 【何千回】とイカされて、身体の細胞の隅々まで疲労しているはずなのに、あんな、旦那では味わえない快楽を長時間に渡って与えられ続けたのに、こうして貪欲にイケる状態にある…。

 閑散とした時間帯の大型駐車場、周囲に停車の車がないのは幸いだ。
 別れる直前まで、別れを惜しんでの、この行為、……俺ってば酷いか、容赦ないか?
 いやいや、人妻、奥さん、…子を持つ母親と言うものは、何ものにも代えがたい強さを持っていて、ややラフな刺激を快楽に変える柔軟性を持っている。
 美人奥さんは、俺の責めの手をつかみ、その手を股間から外そうとする素振りだけは見せるのだが、全く力が込められていない。
 どちらかと言うと、俺の手に、奥さんの華奢な手が添えられ、奥さんの局部に刺激を与えるのが「二人の共同作業」のような雰囲気にさえなっている。
 奥さんのオナニーの道具に、俺の手がなっている、とも言える。

 そう、いまさら、抗ってもしょうがない。
 俺たち二人は、もう、数時間前に、何度も結ばれていた。
 その帰りの車中、「欲望に欲張り」の奥さんの、もうひとイキを手伝っているだけだ。
 奥さんは、リクライニングを倒した車の助手席で、身体を上気させ、頬を火照らせて、俺の手マンを受けていた。
 両の眉を八の字にして、口を鯉のように開いてよがっている。
「はぁはぁはぁ」と呼吸が荒い。「あ~んッ、あなた、この数時間足らずで、私の身体のこと、わかりすぎるほどわかっちゃったみたぁい」
 声質には、俺に夢中と言う媚が含まれていた。

 先ほどのセックスの最中から、俺のことを「あなた」と呼べと言っていた、俺はお前のセックスパートナーになったのだから、と。

 いや、その前からも、奥さんは俺を「あなた」と呼んでいたのである、それは名前で呼ぶことで親しくなることを避けていたからだろう、俺はあえて「お前のセックスの御主人様」的な意味合いを持たせて「あなた」と呼ばせたいので、奥さんが「あなた」と呼んでいるのに「あなた」と呼べと命じた。
 後者の「あなた」は、「主人(亭主)」的な意味がある。

 俺も奥さんを、その名とともに、「あなた」とも呼んでいるが、それは、恋愛非ざる疑似恋愛として「セックスだけの存在」であることをお互いに確認するためである。
 「あなた」と言う呼称にも色んな意味が含まれる。

 よほど、旦那とのセックスが単調になっていたのだろう、「初めての浮気、旦那以外の他人棒」だというが、その快楽に、奥さんは、すぐに従順になっていた。

 クールな顔して、今となっては甘えた声をあげている。
 小柄だからモデルには不向きだったようだが、その容姿の均整は惚れ惚れするほどだ。
 その瞳が三白眼なのも、ハーフのような気品が感じられる。
 そんな奥さんが、俺の快楽に、すぐに溺れてくれたことには感謝しかない。
 そう、本来は唇を一文字に閉じて、美しい不敵な笑みを浮かべているタイプだと思うのだが、俺との昼下がりの数時間で、あられもなくいやらしい口内を半開きにして、それを常にはしたなく見せているほうが、俺に対して、快楽に忠実な女であると伝えられると分かったらしい。
 クールな美人が痴呆のような表情を浮かべるギャップが、俺に与えてくる興奮!

「旦那さんと比べると?」と、俺は意地悪に聞く。
 わざとに、何度となく、俺は旦那さんやお子さんを、話の引き合いに出す。
「……、……」
 すると、奥さん、しばし黙っちゃう。
 いいのである。
 先ほど、「数時間前に結ばれた(身体の関係になった)」とは思ったものだが、所詮は浮気である、快楽の関係だ。
 旦那や子供の話をして、そちらの重要性を再確認することは大事だ。
 また、旦那や子供の話をして、その罪悪感を、性行為のスパイスにすることも大事だ。
 もう、俺も奥さんも一線を越えた。
 後は、どんな因子もエンジョイに変えるのさ。
「もう、帰宅しなくちゃならないだろ、最後に、も一回いけそう?」
「聞かないでッ! 私がすぐイケるの、もう知っているでしょおッ! くッ! その刺激、いいんッ!」
「もう、娘さんが習い事終えて、待ち合わせ場所で待ってるんでしょ? 待ちぼうけなんでしょ?」

 またも、子供の話をして、奥さんを追い込む……、いや、聞こえちゃいない、いやいや、聞こえているが、娘に対しての不実を快楽の糧にしていた。
 奥さんは、重力に逆らうかのようにシートの上でエビぞった。
「クーッ!」
 横たわる姿勢なのに、頭と踵しか支点がなかった。
 エビぞりつつ、スレンダーな身体をブルブル波立たせる。
 ホッペが真っ赤に歪んでいた。
 そして、くぐもった、喉の奥から出すような甘え声で、「いッくゥーっ……」と絞り出した。
 イッた後、表情がクシャンと、そう、懐かしの「クシャおじさん」みたいな表情になっていた。
 何度も言うが、美しい顔が快楽に歪み、信じられないような様相を呈すのはたまらない。

 車のウインドウは、お人形のように整った奥さんの身体から発せられた熱気で曇っていた。
「車の中が、美人奥さんのエッチな匂いでいっぱいになっちゃったね」
 奥さんは、グタッとシートに埋もれていた。
 前髪がざんばらに、その表情を隠していて、「ハァ、ハァ」と過呼吸を起こしたかのようにあごを上下させていた。
 俺は、奥さんの性器をこねくった自分の指を、鼻先に持っていった。
 奥さんは、自分がふしだらにイッた姿を俺に見られていたことに、やっと思考が向き、やや乱れほつれた前髪越しに俺を見ていたようで、奥さんの淫臭を鼻に近づけていく俺に、一瞬の羞恥の表情を浮かべたが、すぐに諦めて余韻に戻った。
「は、恥ずかしいけど、恥ずかしくありません。もう、いっぱい、私、旦那にしか見せたことのない、旦那にさえ見せたことのない姿を、あなたに見せちゃいましたから……」

 俺は、スーッと指の匂いを嗅ぐ。
 美味しい人妻のたまらなくいやらしい匂いがした。

 人妻って、イコール「セックス専従カテゴリー」以外の何ものでもないと思う。
 家事も育児も装いも、セックスを専門に際立たせるための要素でしかない。
「これからも、俺のセックスワイフとして会えるよね」
 奥さんは、上目遣いで懇願する様に俺を見上げ、「はい」と毅然として言った。
 その美しさは、汚しても汚しても損なわれない。

     3・昼食を終えて (木曜日 12:45)

 「お人形さん」との表現は当たっていた、名前はリカだそうだ。
 リカさんは、初めての男とランチをしているというのに、特にメイクを変えることもなく、いつもとさして変わらない格好で、俺の前で食後のコーヒーを飲んでいる。
 無頓着と言うよりも、自分のいつもの身だしなみに不安がないのであろう。
 そもそも、俺はいつもの姿のリカさんに魅力を感じていた。

     4・初めての電話 (火曜日 16:50)

 ランチにこぎつけるまでの経緯はこうだ。
 リカさんの、二週間に一度くらいの順番で回ってくる、朝の通学児童の見守りの日、俺はリカさんと挨拶を交わすまでになった。
 と言うか、リカさんは、通る人全てに「おはよう!」「おはようございます!」と声をかけていた。
 俺は、その「義理挨拶」的なものに、しっかりとした挨拶を返すことで記憶に残してもらった。
 ある日、リカさんの見守り時の相棒である奥さんが休みで、リカさんが一人の時があった。
 俺は、自分が飲もうと思って、自動販売機で買っていた温かい缶コーヒーを「いつも大変ですね」と渡した。
 突然に手渡されたので、リカさんは断ることもなく受け取った。
 困るかなと思いきや、クールな顔に笑顔を浮かべてくれた。
 おそらく、美人なので、男のそういった行為にはわりと慣れているのだろう。
 それが秋のこと。

 数ヶ月の間、二週間に一度の挨拶だけの時が過ぎる。
 でも、視線はいつも重なった。
 再び、チャンスが訪れた。
 いつも二人組の、見守りのペアの奥さんがいなかった。

 俺は、使い捨てカイロと名刺を渡して言った。
「良かったら、お昼、ランチ、お暇なときにご一緒しませんか? 良かったら連絡を」
 その時、ちょうど、「ちゃーちゃーん、行ってくるねー!」と、リカさんの娘と思われる女の子が横を走っていった。
 「ちゃーちゃん」てのは、お母さんのくだけた言い方みたいだ。

 娘は、自分のお母さんがナンパされているとはつゆとも思っていないだろう。
「行ってらっしゃい! 慌てないのッ!」と娘の背中に声をあげるお母さん。
 母親は、サッと渡したものをポケットにしまった。
「よろしく」と俺は去った。
「は、い……」と、当然ながら、その頃は名前も知らなかったのだが、リカさんは、さすがに困惑のこもる返事をした。

 俺は二週間以内に連絡があると思っていた。
 二週間後には、リカさんの見守りの順番が回ってきて、俺と顔を合わすことになっちゃうから、その前に連絡がくるだろう。
 名刺には、俺の働いている会社名が記されていて、その名前で、俺がちゃんとした社会人であることは知れよう。
 会社から与えられている携帯のナンバーには斜線を引いていて、手書きで俺の私用携帯のナンバーと、メルアドを記していた。
 携帯かメール、どちらかで連絡がくるだろう。
 まあ、メールだろう……、俺は気楽に待った。

 と、その日、すぐに連絡が来た。
 電話だった。
 うわ、この人、メールで、先ずは知らない人と距離を置き、相手を測ることをしないのだなと思った。
 それならそれで、俺は、俺なりに計算し尽くした人妻攻略法でいく。
「…あの、朝、コーヒーとホッカイロと名刺を頂いた者ですが…」と言い、言いながら気づいたらしく、「なんかいっぱい貰っちゃって…」と付け足した。
「あっ、ごめんなさい。まだ、仕事中なのですが…、でも、ホッカイロ、少しは役に立ちましたか?」
 仕事中に電話を受けるのは、あなただからこそと印象づける。
「はい、ありがとうございます…、えっと、あの…」
「あなたのほうこそ、この時間に電話は平気なのですか?」
「えっ、ああ、はい、娘が習い事から帰ってくるまで、まだ時間があるので、連絡しました…」
「そうですか、娘さんがもうすぐ帰ってくるんですね。朝、横を通っていた女の子ですね。今は、あなた一人だけなんですね」
 プライベートに入り込み、家族がいない時だからこそ連絡してきたリカさんの思惑を自身に認識させる。
「は、はい…」
「実は、いつも、と言うか、たまに朝、あなたをお見かけしまして、ずっと気になってたんです」

 最初っから、目的は恋愛であると示す。
「はい、そうですか、でも、私…」
「今日の朝、横を通っていたのは娘さんですか? お子さん何人いるのですか?」
 更に、プライベートについて問う、家族がいることも分かっていて口説こうと思っているんですよ、を分からせる。
「はい…、朝の子のほかに中学生の息子がもう一人…」
「そうなんですか、もしかして、パートとかしてますか?」
「はい…」
「休みの曜日、決まってますか?」
「えと…、木曜日は必ず休みです、けど…」
「では、次の木曜日、空いてますか?」
 間髪入れずに問い、断る口実を与えない。
「はい、空いてはいますけ、ど…、でも…」

「面白いですよね、相手はいますけど、と、空いてはいますけど、って似てますよねぇ。相手、つまり旦那さんがいても、たまの空いてる時間、美味しいものを食べに行くぐらいの自由があってもいいすもんね」
 もうデートが決まっていることを前提で話す。
「え、ええ…。夕方までには帰らなくちゃなりませんが」

     …良しッ!

「はい! 最後に、お名前を聞いてもいいですか?」
 もう次の木曜日に会うことは決まっていて、遅ればせながら、でも几帳面に名前を聞く。
「は、はい、田中と言います」
「下はなんて言いますか?」
 あなたに興味津々なのです、俺は……。
「リカです」
「へーっ、字は?」
「果物の梨と、中華の華で梨華です」
 高貴な字が宛てられている……、あなたのこと、全て知っておきたいのです、俺は……。
「お嬢様っぽいですね」
「いえ、そんな…」
 お嬢様であることは否定させる、ではビッチっちゅうことで……。
「ちなみに娘さんの名前は? 素朴な疑問です」
「は、はい、変わった名前でメリカと言います」
 これは、俺のやり方には合わないけど、あなたの娘について色んなことを知っちゃった、あなたが俺につれなくしたら、娘に何か起こっちゃうかもよ! という不安をわずかながら醸す、……だから、あなたが代わりに生け贄になるのだよ、と。
「なんか由来があるのかなぁ。木曜日に聞かせてくださいね。では、とりあえず、メールを送ってください。そしたら、連絡とりやすいので。よろしくです」
 すぐに娘の話は切り上げて、リカさんの心に湧いた不安を瞬間で取り除き、でも、木曜日に会うことは決定事項であることをリコンファームさせる。
「はい、よろしくお願いします」

 20分後、しばしの逡巡があったのだろうか、リカさんから、笑顔の絵文字に「田中です、よろしくお願いします」の一言が添えられて、メールが送られてきた。
 その後、何回かのメールのやり取りをした。
 特筆は、「お近くまで車で迎えに行きたいのですが、近所の目もあるので、イーオンモールの屋上まで車で来てもらってもいいですか? そこでリカさんをピックアップしますよ」だ。
 郊外型のショッピングセンターは、敷地にも、建物の屋上にも、だだっ広い無料の駐車場を擁している。
 そこで落ち会うには、誰の目にも止まらない。
 それを応じさせることによって、リカさんに、「近所の目を憚る行為」なんだよ、俺たちの逢瀬は、と印象づける。
 リカさんが羽目を外したがっているのか、それとも、特にそんな意識がないのかは不明だが、少なくとも、俺の思い描く「不倫」の型には収まりつつある。

     5・待ち合わせ (木曜日 10:42)

 午前10時40分の待ち合わせであったが、ショッピングセンターのだだっ広い駐車場で、電話を用いつつもお互いを認識するのに2分を要した。
 リカさんは、いつもとさして変わらない服装で、ただ、俺の方に相手をじっくり見る余裕もあり、そのメイクの色づきが眩しく、笑顔も美しかった。
 自身をこちらに認識させようと、やや、手を、思ったよりも元気に振っていた。
 家族にでも振っているかのようだ。

 母親と言うものは、少しだけノリが独身女性と違う。
 そこが可愛い。
 太陽光の下でも、何ら可愛さを損なわない若さがリカさんにはあった。
 俺は、車を寄せて、助手席にリカさんを乗せる。
 リカさんが扉を閉めると、シャンプーかリンスだかの香りが漂ってきた。
「どうも、こんにちわ」と、ちゃんと俺の目を見て言ってくる。
 ああ、俺のほうが緊張してドギマギしてしまう。

「会うことができて、嬉しいです」
 車を発車させながら言う。
 奥さんに押されてばかりもいられない。
「このまま、目的のお店に向かえば、ちょうど開店時間の11時に着きますけど、お腹減ってますか? ラブホテルにでも行ってからランチにしますか?」
 奥さん、消費税分くらいのパーセンテージで、そういう不安を持っていたと思うけど、まさか、開口一番 そんなことを言われるとは思っていなかったようで、「えっ!? えっ!?」と目をパチクリさせた。
「アハハ!」と俺は笑った。「冗談ですよ、冗談! それは食後の話です」
「は、はぁ、そうですよね、驚いたぁ・・・、ッ! えっ!?」
 リカさんは、いきなりのラブホテル行きに驚くも、それを冗談と知り安堵、だが「それは後の話」と、撤回されたわけではないことに気づく。

 最初に俺は、自分の目的を伝えた。
 リカさんは、これから会話しても、食事をしても、ずーっとラブホテル行きを意識しなくてはならなくなる。
 そして、俺は、これより食事の終わりまで、自分の良心をぶつけ、リカさんのリラックス及びジョイに尽くしていく。
 リカさんの俺への好意がグラス一杯になり、更に表面張力で溢れそうになったときに、俺は再び、ラブホテルの話を持ちかけることになる。
 パニックでグラスは揺れ、湛えた水はこぼれる。
 溢れる気持ちを、リカさんはラブホテル行きの決断だと認識するだろう。

 そしたら、俺は、数時間を全力で「快楽漬け」にして、リカをセックスワイフにするのみだ…。

 レストランへの車中、俺は簡単な自己紹介をした後、リカさんに家族のエピソードを詳しく聞いた。
 リカさんも、家族のことを話すことによって、安易なラブホテル行きを阻止できるとの思惑もあり、熱心に楽しく話した。

 …息子にはサッカーを習わせているんだけど、この先の、サッカーのクラブチームの選定の見極めが難しい…
 『なーんか、息子を持つお母さんは、息子のことになると、恋人ででもあるかのように真剣になるよね』

 …娘は今、知り合いのママ友のベリーダンス教室に通っているの…
 『それは子供にしては大人びた習い事だね。リカさんこそやればいいのに』

 …主人のことは、変わった点はあるけど尊敬してます…
     『変わった点?』
 …(彼女は、ちょっと「しまった!」てな声のトーンを醸しながらも) 一人で飲みに行ったりできないタイプなんですよね、コミュ障てゆーか…
 『ふーん。なんでだろね(つまり、引っ込み思案な旦那さんに不満がある、と)』

 だが、それは皮肉にも、後の性行為の最中、…ガン突きされまくっている時に、俺によって、わざとに意地悪にも家族のことについて指摘される「言葉責め」の数々のネタとして、浮気セックス行為のスパイス(刺激)にされるのである。
 田中梨華は、他人棒に貫かれている時に家族を思い出させられると、愛液の分泌量が増えるタイプだとか…。

     6・ゆっくりと会話を楽しむ食事 (木曜日 11:22)

  運ばれてきたパスタを口に運びつつ会話は続く。
 リカさんは和風のパスタを頼み、俺はシーフードのパスタ、だが、正直、味なんか感じられない、俺はそんなには万能じゃない、この極上の人妻の攻略で頭がいっぱいだからだ。
 食事などは、その食べ方を、相手に下品に見られないことだけに留意した。
 とにかく、この後、リカさんをホテルに誘う事だけを考えていた。
 目的合理性をもった言動にまい進していた。
 もちろん、「急がば回れ」を含んでいて、最初に「ラブホテル行き」を匂わせて以降は、リラックスの会話に終始していた。

 …私、去年の冬にスキーに行ったときに、ゲレンデでボーダーと衝突して、腕の骨を折っちゃったんです…
 『へーっ。痛かった?』
 …はい、痛くて苦しんでいて、ふと、顔を上げたら、ボーダーがいなくなっちゃってたの…
 『それって、ひき逃げじゃん。悔しいね』
 …ええ、でも、そのときは骨折とはわからなくて、でも痛くて、すぐに帰ることになっちゃって…
 『うん、家族で行ってたの?』
 …うん、家族で行ってたけど、帰りにね、人の気を知らない子供たちが「温泉! 温泉!」って言いだして…

 奥さんの口調が、次第に柔らかくなっている。
 内容で、俺をプライベート領域に招いてくれている。
 基本、リカさんは均整の取れたお人形のような容姿をしている。
 やや硬質なクールビューティーである。
 だけども、短くない時間を過ごし、いつしか、常に、頬に微笑を湛えるまでの親しさを見せてくれていた。

 『うは~! で、温泉行ったの?』
 …うん、主人も子供に賛成したから…
 『旦那さん、奥さんの痛みわかれや~!』
 …あっ! で、でも、主人は、今回の病院にも付き添ってくれたのです…

 おっ、旦那さん批判を感じると、領域の扉がやや閉じられる。

 『今回の病院?』
 …あっ、そうそう、で、温泉から戻ってすぐに病院に行って骨折が判明し、プレートが埋め込まれたの…

 だが、またすぐに扉は開かれる。
 コミュニケーションによって、人妻と融和を図っていく。
 人妻の心の扉は、何度も何度も開いたり閉じたりして、いつしか、そのヒンジ(蝶番)は緩くなっていく。
 扉が開きっぱなしになった時、人妻は他人に奪われ、他人のモノになるのである。

 『プレート?』
 …うん、折れた骨をつなぐためにプレートを入れていたの、で、今回の年末にそれを抜いたの…
 『結構、深刻な骨折だったんだね。それにしても、長期間、入れていたんだね』
 …本当は数ヶ月で抜くはずだったんだけど、感染症対策で通院が制限されていたでしょ…
 『うんうん』
 …だから、年末にやっと抜いたの…

 俺は、この奥さんを手に入れようとしていて、頭の中は戦略的ではあるがエロい考えで満ち満ちていた、プレートを「埋め込まれた」と言うだけで、なんかエロいことを連想してしまう。

 UFОオタクなんかならば、「埋め込まれた」と聞くと、宇宙人にさらわれて埋め込まれるマイクロチップへの連想なんだろうけどね。
 俺がエロいことへ連想してしまうのを言い訳しとくと、俺は、車に置いている大きめのスポーツバッグの中に、奥さんの身体に埋め込む予定の「大人のおもちゃ」を多数 所持していたからだ。
 たまに、あまりにもかけ離れた連想でニヤニヤしている奴がいて、俺なんか「こいつ、気持ち悪いな…」などと思うのだけど、今の俺がまさにそれだ。
 UFОオタクの連想のほうがよっぽど共感できるだろう。
 でも、俺は、実際、世間的には気持ち悪いことをしようとしているのだからして、この一部分においては気持ち悪くていいのである。

 そう、俺は、この美しい他人の所有物を「気持ち悪くて気持ちいい世界」に引き入れるのが目的なんだ!

 『それは大変だったねぇ。俺、子供の頃、骨折ったけど、ギブスって石膏みたいので固められた』
 …はい間違えた~、ギブスじゃなくてギプスって言うんですよ~…
 『おわー、ずっとギブスだと思ってた。…じゃ、プレート抜いた傷口は残ってるの?』
 …はい、ここです…

 リカさんは右手の下腕を出してきた。
 細いので、袖をめくる必要なく、袖口から腕が見えた。
 俺は、リカ攻略に向けて、ここでは、その腕に触れるのが良いのか、触れないのが良いのか、わからなかったが、ここは自重しておいた。
 数センチの傷と幾針かの痕跡が目だたなくもさりげなくあった。

「傷口、思ったよりも小さいね」
 俺は、後で、そこにキスすることを決めた。

 俺が決めた奥さんの運命は覆せない!

 だってもう、あなた方は未来の断片を垣間見ている、ほんのちょっぴりに過ぎないが……、これからが怒涛なのである。

                             (続く)
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