6 / 10
第一章
疑惑
しおりを挟む
彩香を背負って更に30分ほど歩くと周りに空き家と思われる家がいくつか見えてきた。
その中には人も住んでいそうな家も見てとれた。
「この近くです。母の家は」
背中から彩香の声がした。俺は一度彩香を降ろすと近くにあった古びたベンチ椅子に座った。
「ずっと背負わせてしまって疲れたでしょう?ごめんなさい」
彼女は申し訳無さそうに俺の顔を覗く。
「全然気にしないでください。こういうときに女性を背負えるように鍛えてるんですから」
俺が疲れを誤魔化すため笑いながら言うと彼女も照れたように笑った。
彼女の笑い顔を見て確信してしまった。
俺は彩香のことが好きになっていたのだ。
少し休んだ後に集落を進む。
集落は山に囲まれている。大雨が降れば土砂崩れが起きそうな場所だとは俺から見てもわかった。
集落から外れた更に奥に木々に囲まれた土地があった。そこには空き家とは思えない綺麗か一軒家が建っていた。
「あの家が母の家です」
彩香は少し離れたところから家を指差した。
「この後は総司くんにお願いすることになります」
彩香は申し訳無さそうに俺の顔を見た。
「心配しないでください。俺がばっちりお母さんを七夕祭に誘ってみせますよ」
俺は指を立てて強がってみせた。
彩香は少し微笑んで俺の手を握った。
俺は一瞬心臓が止まるかと思うくらいドキドキした。
「本当にありがとうございます。あなたは今も昔も変わらずに優しいのですね」
彩香は俺の手を握りながら泣きそうな表情になっていた。
「それってどういう、、」
俺は言ってることが理解出来なかった。彼女は俺の疑問には答えず続けた。
「総司くんが母に七夕祭の話を無事できたらあの神社で落ち合いましょう」
そう言って彼女は道を真っ直ぐ行った先に見える鳥居を指差した。
「待ってますから。総司くんなら絶対上手くできます」
そう言うと彩香は鳥居の方へ歩いていく。
先程までの彩香の様子と明らかに違っているように感じた。
一人になった俺は彩香の母の家へ向かう。
緊張するが何としても七夕祭に来てもらわなくてはならない。
表札を見ると「橘」とある。
彩香の母は橘さんと言うらしい。
俺は呼び鈴を鳴らした。
しばらくするとドアが開き女性が出てきた。30代くらいに見える若い女性だ。
「はーい。どちら様でしょうか?」
「あ、こんにちは!僕は胡桃町七夕祭りの実行委員をしている南雲といいます!」
お祭りの実行委員なら疑われないだろうと思い最初から決めていた嘘の自己紹介をする。
「あーどうもー。何かありましたか?」
「はい!実は七夕祭りのチラシを配らせてもらってて!是非橘さん家族にも参加してもらいたいなーって思って来ました!」
俺はとにかく明るくお祭りを盛り上げたい実行委員を演じた。
「あらあら。それはご苦労様ですー。私達家族は毎年参加してますから今年も参加しますよー」
「ただ3年前は残念だったわよね、、、災害があってお祭りも準備してたけど途中中止で。しかも梶さん家族は三人みんな亡くなってしまって」
俺は橘さんの話を聞いて一瞬状況が読み込めなかった。
「橘さんは3年前の七夕祭り準備から参加してくれたのですか?」
「えーもちろん!私達家族楽しみにしてますから。今年も楽しくしましょうね!実行委員さん」
俺は橘さんにチラシを渡して家を後にした。
橘さんの家を出て先程彩香と別れた道まで来た。俺はこの状況が理解できず混乱していた。
この世界は彩香の記憶が作った世界。その世界で救えなかった彩香の母の家族を救うのが目的だったはずだ。
しかし先程の家にいた橘さんと言う人は三年前も七夕祭りの準備に参加して無事だった。
更には当時亡くなったのは梶さん家族だと言う。
どういうことなのだろうか。
そもそも現在の置かれている状況は最初からおかしかった。螺旋状の電車に階層式の駅。その状況を受け入れたのは何故だったか。
思い返してみれば彩香が記憶の世界と言い出したところからだった。
現在の状況はわからない。しかし同じ状況に置かれたもう一人の人物が仮説を立てた。
俺はそれを素直に受け入れたがそもそも彩香の言っていたことは正しいのだろうか。
俺は自分の顔をパンっと叩く。
今考えても仕方ない。
神社で待つ彩香の元へ行くことにした。
その中には人も住んでいそうな家も見てとれた。
「この近くです。母の家は」
背中から彩香の声がした。俺は一度彩香を降ろすと近くにあった古びたベンチ椅子に座った。
「ずっと背負わせてしまって疲れたでしょう?ごめんなさい」
彼女は申し訳無さそうに俺の顔を覗く。
「全然気にしないでください。こういうときに女性を背負えるように鍛えてるんですから」
俺が疲れを誤魔化すため笑いながら言うと彼女も照れたように笑った。
彼女の笑い顔を見て確信してしまった。
俺は彩香のことが好きになっていたのだ。
少し休んだ後に集落を進む。
集落は山に囲まれている。大雨が降れば土砂崩れが起きそうな場所だとは俺から見てもわかった。
集落から外れた更に奥に木々に囲まれた土地があった。そこには空き家とは思えない綺麗か一軒家が建っていた。
「あの家が母の家です」
彩香は少し離れたところから家を指差した。
「この後は総司くんにお願いすることになります」
彩香は申し訳無さそうに俺の顔を見た。
「心配しないでください。俺がばっちりお母さんを七夕祭に誘ってみせますよ」
俺は指を立てて強がってみせた。
彩香は少し微笑んで俺の手を握った。
俺は一瞬心臓が止まるかと思うくらいドキドキした。
「本当にありがとうございます。あなたは今も昔も変わらずに優しいのですね」
彩香は俺の手を握りながら泣きそうな表情になっていた。
「それってどういう、、」
俺は言ってることが理解出来なかった。彼女は俺の疑問には答えず続けた。
「総司くんが母に七夕祭の話を無事できたらあの神社で落ち合いましょう」
そう言って彼女は道を真っ直ぐ行った先に見える鳥居を指差した。
「待ってますから。総司くんなら絶対上手くできます」
そう言うと彩香は鳥居の方へ歩いていく。
先程までの彩香の様子と明らかに違っているように感じた。
一人になった俺は彩香の母の家へ向かう。
緊張するが何としても七夕祭に来てもらわなくてはならない。
表札を見ると「橘」とある。
彩香の母は橘さんと言うらしい。
俺は呼び鈴を鳴らした。
しばらくするとドアが開き女性が出てきた。30代くらいに見える若い女性だ。
「はーい。どちら様でしょうか?」
「あ、こんにちは!僕は胡桃町七夕祭りの実行委員をしている南雲といいます!」
お祭りの実行委員なら疑われないだろうと思い最初から決めていた嘘の自己紹介をする。
「あーどうもー。何かありましたか?」
「はい!実は七夕祭りのチラシを配らせてもらってて!是非橘さん家族にも参加してもらいたいなーって思って来ました!」
俺はとにかく明るくお祭りを盛り上げたい実行委員を演じた。
「あらあら。それはご苦労様ですー。私達家族は毎年参加してますから今年も参加しますよー」
「ただ3年前は残念だったわよね、、、災害があってお祭りも準備してたけど途中中止で。しかも梶さん家族は三人みんな亡くなってしまって」
俺は橘さんの話を聞いて一瞬状況が読み込めなかった。
「橘さんは3年前の七夕祭り準備から参加してくれたのですか?」
「えーもちろん!私達家族楽しみにしてますから。今年も楽しくしましょうね!実行委員さん」
俺は橘さんにチラシを渡して家を後にした。
橘さんの家を出て先程彩香と別れた道まで来た。俺はこの状況が理解できず混乱していた。
この世界は彩香の記憶が作った世界。その世界で救えなかった彩香の母の家族を救うのが目的だったはずだ。
しかし先程の家にいた橘さんと言う人は三年前も七夕祭りの準備に参加して無事だった。
更には当時亡くなったのは梶さん家族だと言う。
どういうことなのだろうか。
そもそも現在の置かれている状況は最初からおかしかった。螺旋状の電車に階層式の駅。その状況を受け入れたのは何故だったか。
思い返してみれば彩香が記憶の世界と言い出したところからだった。
現在の状況はわからない。しかし同じ状況に置かれたもう一人の人物が仮説を立てた。
俺はそれを素直に受け入れたがそもそも彩香の言っていたことは正しいのだろうか。
俺は自分の顔をパンっと叩く。
今考えても仕方ない。
神社で待つ彩香の元へ行くことにした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
年下の地球人に脅されています
KUMANOMORI(くまのもり)
SF
鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。
盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。
ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。
セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。
さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・
シュール系宇宙人ノベル。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ふたつの足跡
Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。
今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。
そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。
【完結】永遠の旅人
邦幸恵紀
SF
高校生・椎名達也は、未来人が創設した〈時間旅行者協会〉の職員ライアンに腕時計型タイム・マシンを使われ、強引に〈協会〉本部へと連れてこられる。実は達也はマシンなしで時空間移動ができる〝時間跳躍者〟で、ライアンはかつて別時空の達也と偶然会っていた。以来、執念深く達也を捜しつづけたライアンの目的とは。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる