螺旋列車

ryokutya

文字の大きさ
上 下
1 / 10
第一章

出会い

しおりを挟む
この日は小学生からの友人である佐々木と思い出の場所へ遊びへ来ていた。
佐々木は細身だが小中高と空手をしていたため筋肉質な体をしている。
俺は健康のための軽い筋トレしかしない貧相な体格なので羨ましい限りだ。

俺達は日も暮れてきたので帰宅しようということになり駅に向かう。
「今年もお前と来れて良かった」
佐々木は恥ずかしいようなことをサラッと言える奴だ。聞いているこちらが恥ずかしくなることもある。
「佐々木とここで咲良神社に行くのは恒例行事だからな。俺も良かったよ」
俺と佐々木は小学5年までこの咲良町に住んでいた。
咲良町は若い世代の人口減少で子供が少なく小学校が閉校してしまったのだ。
俺と佐々木の2人は親同士が仲良かったこともあり別の町の別の小学校へ一緒に転校した。
俺の家族は全員別の町へ移住したが佐々木は祖父と祖母が咲良町へ住んでいる。
毎年夏になると俺は佐々木と一緒に佐々木の実家や子供の頃によく遊んだ神社に行くことが恒例になっていた。

俺と佐々木が駅に向けて歩いていると朝と何やら雰囲気が違うように感じた。
入り口が暗く中が見えない。
俺は少し不審に思ったが佐々木は特に気にした様子はなかった。

改札口を抜けるとホームに向かう階段があるはずだが今はスキー場にあるようなリフトに10人くらい乗れるようになったような乗り物があった。
俺は明らかにおかしいと気づき佐々木に声をかけた。
「おい、ここ本当に駅か?何で駅の中に乗り物があるんだよ」
佐々木は俺の質問を無視して乗り物に向かう。
駅の電光掲示板を見た。
自分達が帰る予定の駅は71番ホームとのこと。
71番ホーム何て聞いたことがない。
東京にだってこんな大きな駅はないだろう。
佐々木は不審に思う様子もなくリフト状の乗り物に乗った。
スキーのリフトと違い足元はしっかりした板がひかれていた。
リフトは螺旋階段状のエレベーターをゆっくり上がっていく。
佐々木は何も気にする様子はない。
それどころか普段通り世間話をしてくる程だった。
世間話を延々としてくる佐々木に俺は少し恐怖を感じた。
「佐々木お前どうしたんだ?今の状況おかしいって思わないのか?」
俺は佐々木の世間話を遮り言った。
「別におかしくないだろ?お前こそどうした?」
むしろ佐々木は俺を心配するような様子で言った。
俺は佐々木があまりに真剣な顔で言うから自分が信じられなくなった。
15分くらいして71階に到着する。

到着してホームに降りると電車が1両だけ止まっている。
ホームは霧がかかっていてとても不気味だ。
駅員が指を指してあの電車に乗るんですよと言った。
俺はこの気味が悪い空間にいるのが嫌で走って電車に向かう。
佐々木や他の乗客はついてこない。
俺は走り出してしばらくすると線路の上にいた。
走っていたらホームから線路に移動していたのだ。
電車に近づいているつもりが気づいたら電車を追い越している。
振り向くと佐々木や別の乗客はその電車に乗り込んでいた。
俺は立ち止まるが線路の上から近くのホームにいた駅員に声をかけた。
「あの電車に乗りたいですがどうすれば良いですか?」
駅員は線路にいた俺を見て少し驚いた表情をして手を差し伸べてくれた。
線路からホームにあがり駅員にお礼を述べた。
ホームに上がってまもなく友人を乗せた電車は走り出してしまった。
駅員は電車を見送ると俺に向いた。
「あの電車と同じ行き先なら次は34番ホームですよ」
駅員は笑顔で螺旋状のエレベーターを指差した。

俺は不気味に感じながらもエレベーターに向かいリフトに乗り込んだ。
周りは夕暮れの黄昏に包まれている。
リフトに乗り込むと子連れの家族が乗り込んできた。子供は5歳くらいだろうか。可愛らしい女の子だった。
若い両親に挟まれて嬉しそうにリフトの外をキョロキョロ見ている。
俺の隣は空席だったがしばらくすると若い女性が座った。白いワンピースを着た清楚な女性だった。20代そこそこくらいの見た目で自分と同じくらいの年齢だと感じた。彼女が座った瞬間に金木犀の香りが漂ってきた。
女性が座って分後リフトは動き出した。
リフトは螺旋状のエレベーターを下に降りていく。何回かホームに到着するが誰も降りない。53番ホームに着いて若い両親と女の子が降りた。このホームは森の中のような雰囲気だった。降りた瞬間に女の子は走り出してお母さんが焦って追いかけていた。お父さんはゆっくり降りてその後ろを追いかけた。
53番ホームでリフトはしばらく止まっていた。
俺はスマホを見た。時刻は6時。この駅に着いたのは5時だったのを覚えている。
この1時間とても異質な体験をしているのに不思議と冷静だった。

71番ホームで電車に乗った佐々木は今頃どこにいるだろうか。連絡を取ろうとLINEを開くがスマホは圏外表記になっている。俺はスマホをポケットに戻しふと隣を見た。
隣に座る女性はぼんやりと外を眺めている。
横顔はとても美しく俺は不覚にも見惚れてしまった。
ふと、、彼女がこちらを向いた。
目が合ってしまい俺は咄嗟に目を逸らした。
「あの、、、ごめんなさい」
俺は頭を掻き目を逸らせながら謝罪した。
彼女がこちらを見つめている視線を感じる。
「懐かしいですね」
彼女はこちらを見ながら呟くように言った。
「懐かしい、、ですか?」
俺が戸惑いながら聞き返すと彼女は誤魔化すように微笑した。
「見られるのは慣れてますから。気にしないでくださいな」
彼女は俺が見つめていたことに関しては怒っていないらしい。とても優しい表情で俺に向いた。
「私は観光の帰りなんです。あなたは?」
彼女は俺の方を見ながら優しく問いかけてきた。
「俺は友人の実家がこの町なので2人で遊びに来たんですよ」
俺は答えた後にふと気になった。
俺と友人が来たこの咲良町は観光地として有名な場所ではない。その場所に女性一人で観光というのは不思議に感じた。
しかし初対面の女性に対して詮索も失礼と思い俺は疑問を飲み込んだ。
「ご友人の実家に遊びに行くなんて仲が良いのですね」
彼女は俺を見つめて微笑んだ。その笑顔はとても美しく、儚さを感じた。
53番ホームに停車して数分後。リフトはゆっくり進み始める。
下に行くにつれて辺りが薄暗くなっていく。

幾つかのホームを通り過ぎていきリフトは43番ホームで停車した。
43番ホームは薄暗い寂れた雰囲気のホームだった。
ここでは誰も降りようとしない。
しばらく停車しているとホームから駅員が近づいてきた。
「お兄さん到着しましたよ。ここが目的の場所です。」
若い男の駅員はそう告げると薄暗いホームの中へ戻っていった。
俺の目的地は34番ホームと最初の駅員に言われた。
俺が聞き返そうとした時には若い駅員は既に見えなくなっていた。
「行かないんですか?目的地?」
彼女は不思議そうに首を傾げている。
「最初に71番ホームで乗り遅れた時に次は34番ホームと言われたんですよ。ここは43番ホームだから違うはずなんだがなあ」
俺は頭を掻きながら困惑する。
「一度降りて確認してみたらどうですか?私もお付き合いしますよ。」
彼女はリフトから立ち上がり俺の手を掴んで言った。
「あなたに迷惑かける訳にはいきませんよ。それにあなたの乗る電車だってあるでしょうに」
俺は立ち上がる彼女を見上げながら言った。
「私も34番ホームに向かってたのですよ。もしここが同じところに向かうのであれば私にとっても目的地なので問題ありません」
どうやら彼女も34番ホームが目的地だったそうだ。奇妙な縁を感じつつも同じ目的地なら断る理由もなかった。
「では少し様子見み行きましょうか」
俺は立ち上がり彼女と一緒にリフトを降りた。女性に手を掴まれることの免疫がなかった俺は動悸が早くなっていた。

43番ホームに降りて電車を探した。しかし電車は止まっていない。それどころか線路すら見当たらなかった。俺と彼女はホームの奥に進む。
薄暗く電球も所々切れている。しばらく歩くと鉄製の扉があった。駅員の休憩室や売店という雰囲気でもない。外に通じているような扉だ。しかしここは43階。外に出るということはできないはずである。扉の先に電車がある可能性も捨て切れないうえに他に道が無い。俺は彼女に問いかけた。
「この扉どう思います?進むべきかな」
彼女は一瞬考えるように上を見上げた。
「他に道は無いですからね。開けてみた方が良いでしょう」
俺はゆっくり頷いて扉に手をかける。
扉は見た目によらず軽量だ。
開け切るとそこには街並みが広がっていた。

扉を開けた瞬間に生暖かい風が頬を撫でた。雨が降っているようで水飛沫も飛んでくる。
俺は状況が掴めないでいた。ここは43階という高地にあるはずだ。更に駅から出ていないのだからここが外なら佐々木と入った改札口と同じところのはずだ。
しかし目の前に広がる街並みは俺の見覚えの無いものだった。
「これはどういうこと何でしょう。頭がついていかない」
俺は独り言のように彼女に問いかけた。
「ここが私とあなたにとっての目的地なのでしょうか」
彼女は何か考えるように顎に手を当てている。
考える姿はとても理知的だ。
今更ながら俺は今置かれている状況が非現実なことを思い知った。
そもそも駅が階層式になっていてリフトで移動している時点でおかしいのだ。
俺はリフトに乗っている途中から明晰夢のような状態でないかとも考えていた。
「ここにいても仕方ありませんね。少し探索してみましょうか」
彼女は考え込んでいる俺の腕を掴んで言った。
また動悸が早くなるのを感じる。距離感の近い女性らしい。
自分の動悸の早さや彼女の手の感触はリアルでとても夢とは思えなかった。
「探索は良いと思いますが雨が降ってます。傘が無いと濡れてしまいますよ」
俺は外に手を伸ばして雨の強さを確認する。数秒手を出しただけでビチョビチョになるくらい雨は強かった。
「私、折り畳み傘持ってます。相合い傘すれば大丈夫ですよ」
彼女はハンドバックからピンクの折り畳み傘を取り出した。
相合い傘などと可愛い言葉を聞いたのは何年振りだろうか。俺は照れ臭さを隠しながら彼女の傘を受け取った。
「2人入るには少し狭いですね」
俺は傘を開き広さを見ながら言う。
すると彼女はグイっと肩が当たる隣まで身を寄せてきた。
「こうすれば大丈夫でしょう」
彼女は俺のすぐ隣りから上目遣いでそう言った。
自分の心臓の音が耳に聞こえるのがわかる。
俺は動揺しているのを誤魔化すように問いかけた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は南雲といいます。あなたは?」
彼女はまた上目遣いで微笑みかけてきた。
「サイカ。彩りに香と書いて彩香といいます」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

【完結】永遠の旅人

邦幸恵紀
SF
高校生・椎名達也は、未来人が創設した〈時間旅行者協会〉の職員ライアンに腕時計型タイム・マシンを使われ、強引に〈協会〉本部へと連れてこられる。実は達也はマシンなしで時空間移動ができる〝時間跳躍者〟で、ライアンはかつて別時空の達也と偶然会っていた。以来、執念深く達也を捜しつづけたライアンの目的とは。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ふたつの足跡

Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。 今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。 そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。

椿散る時

和之
歴史・時代
長州の女と新撰組隊士の恋に沖田の剣が決着をつける。

処理中です...