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第二部
25話 真の基準
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「ちょっと待って、追いつけない。状況を整理していい?」
阿久津が間に割って入る。
「真が和樹くんに告白したのが火曜日」
「ああ」
「そして、和樹くんが加護を授かったのが水曜日、告白よりも後ってことか?」
そうじゃ、と妖姫神がにたにた笑う。
真が唖然とした顔で言った。
「じゃあ俺が和樹を好きなのは……」
「間違いなくそなたの本心じゃろうな」
にわかに和樹の目からぽたぽた涙が落ち始めた。
「和樹!?」
真が駆け寄ってくる。
「真さん……よかった……よかったです」
「ああ、わかったから泣くな」
「うう……」
装束の袖で涙を拭かれるとさらに泣いてしまう。
「ふん、愛じゃのう。それじゃ、わらわはこれで」
まだ話は終わっていないが、妖姫神の姿がぐにゃりと歪んで消えた。
とんとんと真に背中を叩かれて少し気分が収まってくる。
「大丈夫か?」
「はい……不安だったんです。加護がなくなったら俺に冷めちゃうんじゃないかって。もし冷めなかったとしても、俺のことを好きじゃないのに好きなふりじゃないかって悩んでただろうから」
「俺もだ。いい方に転んでよかった」
真が笑う。和樹も震える唇をゆがめて笑って見せた。
「でも、気にならない? なんで真が和樹くんのことを好きになったのかって」
阿久津が意地悪そうに言った。
「う、それは……気になります」
「実は僕にちょっと心当たりがあるんだよね」
「え」
阿久津が細い目をつぶすように細めてにーっと笑う。
「真って昔から、『自分のことを好きになった子を好きになる』タイプなんだよね」
「はあ?」
真が首を傾げる。
「自分では気づいてなかったの?」
「……ああ」
「歴代の彼女もそんな感じだったでしょ」
「まあ、言われてみれば」
彼女、と口の中でつぶやく。真がはっとして阿久津を睨んだ。
「ああほら、お前が余計な事言うから!」
慌てふためく真を見て阿久津がけらけら笑う。
「墓穴を掘ったね。あとは自分で弁解しなよ」
阿久津が荷物をまとめ始める。
「もう帰るのか?」
「言っただろ、僕も和樹くんの魅了にあてられかけてるって。これ以上同じ空間にいると間違いなく恋愛対象として好きになっちゃうね」
そんなにか。真が渋い顔をする。
「じゃあ、あとはごゆっくり。鍵の管理は任せたよ」
阿久津が手をひらひらと振って出ていった。
「あいつ、本気なのか冗談なのかわからないな」
真がぼやく。
和樹が真の装束の裾を握った。
「今、すごく好きって言いたいかも……です。でも重すぎるかな」
「俺もだよ。天秤にかけたら釣り合うくらいには俺も重いよ」
へへ、と笑うと抱きしめられて、柔軟剤の香りに包まれた。
「好きだよ、和樹」
第二部END
つづく
阿久津が間に割って入る。
「真が和樹くんに告白したのが火曜日」
「ああ」
「そして、和樹くんが加護を授かったのが水曜日、告白よりも後ってことか?」
そうじゃ、と妖姫神がにたにた笑う。
真が唖然とした顔で言った。
「じゃあ俺が和樹を好きなのは……」
「間違いなくそなたの本心じゃろうな」
にわかに和樹の目からぽたぽた涙が落ち始めた。
「和樹!?」
真が駆け寄ってくる。
「真さん……よかった……よかったです」
「ああ、わかったから泣くな」
「うう……」
装束の袖で涙を拭かれるとさらに泣いてしまう。
「ふん、愛じゃのう。それじゃ、わらわはこれで」
まだ話は終わっていないが、妖姫神の姿がぐにゃりと歪んで消えた。
とんとんと真に背中を叩かれて少し気分が収まってくる。
「大丈夫か?」
「はい……不安だったんです。加護がなくなったら俺に冷めちゃうんじゃないかって。もし冷めなかったとしても、俺のことを好きじゃないのに好きなふりじゃないかって悩んでただろうから」
「俺もだ。いい方に転んでよかった」
真が笑う。和樹も震える唇をゆがめて笑って見せた。
「でも、気にならない? なんで真が和樹くんのことを好きになったのかって」
阿久津が意地悪そうに言った。
「う、それは……気になります」
「実は僕にちょっと心当たりがあるんだよね」
「え」
阿久津が細い目をつぶすように細めてにーっと笑う。
「真って昔から、『自分のことを好きになった子を好きになる』タイプなんだよね」
「はあ?」
真が首を傾げる。
「自分では気づいてなかったの?」
「……ああ」
「歴代の彼女もそんな感じだったでしょ」
「まあ、言われてみれば」
彼女、と口の中でつぶやく。真がはっとして阿久津を睨んだ。
「ああほら、お前が余計な事言うから!」
慌てふためく真を見て阿久津がけらけら笑う。
「墓穴を掘ったね。あとは自分で弁解しなよ」
阿久津が荷物をまとめ始める。
「もう帰るのか?」
「言っただろ、僕も和樹くんの魅了にあてられかけてるって。これ以上同じ空間にいると間違いなく恋愛対象として好きになっちゃうね」
そんなにか。真が渋い顔をする。
「じゃあ、あとはごゆっくり。鍵の管理は任せたよ」
阿久津が手をひらひらと振って出ていった。
「あいつ、本気なのか冗談なのかわからないな」
真がぼやく。
和樹が真の装束の裾を握った。
「今、すごく好きって言いたいかも……です。でも重すぎるかな」
「俺もだよ。天秤にかけたら釣り合うくらいには俺も重いよ」
へへ、と笑うと抱きしめられて、柔軟剤の香りに包まれた。
「好きだよ、和樹」
第二部END
つづく
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