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第二部
19話 狐祓い
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「憑き物、取れましたよ! それでお代は……」
阿久津が男子高校生の母親と話しているのが聞こえる。
靴を履きながら、ふらっと体が揺れた。そのまま壁に手をつく。
「和樹!? 大丈夫か」
真に支えられて「らいじょうぶれす」と呂律の回らない舌で返事をする。
軽く朝食は食べてきたはずなのに、強い飢餓感で腹が痛い。
「大丈夫じゃなさそうだね」
鞄に報酬の封筒をしまいながら阿久津が言った。
「公民館へ急ごう」
家を出たところで、道路に膝をつく。ものすごく眠いが空腹の苦痛が強くて意識が飛ばない。
「和樹くん、自分の名前言える?」
「……」
「すごい勃起してるね。この狐、ただの妖狐じゃなさそうだ」
真がコートを脱いで和樹の下半身を隠し、そのまま抱き上げる。
「俺が連れていく。阿久津は準備を頼む」
「了解」
阿久津が真のリュックサックを受けとって走り出す。真も足早に公民館へ向かった。
予約してある会議室に入ると、阿久津がすでに榊の葉と祭壇を準備していた。
うなされてくたっとなっている和樹を互い違いに複数並べたパイプ椅子の上に横たえる。
「食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求が全部出てるね。ずいぶんと貪欲な狐だ」
「和樹、上着脱がせるぞ」
真が和樹に触れると、和樹の体が大きく跳ねた。
「うわ、すごいね。今ちょっと射精したんじゃない? 全身性感帯みたいになってるね」
「……阿久津、悪いんだが、終わるまで外にいてくれないか?」
強く噛まれた真の唇を見て、阿久津が「わかった」と二つ返事で引き受ける。
「人払いは任せて」
阿久津が会議室を出たのを確認して、真は和樹に声をかけた。
「和樹、寝るな。俺の声が聞こえるか?」
「ま……ことさん……っ……くるし……」
「大丈夫だ。俺がなんとかしてやる」
持ってきた装束を手早く身に着けて、鈴のついた榊で和樹の体を撫でる。
瞬間、バチッと火花が散って思わず葉を取り落とした。
「チッ、これじゃ無理か」
真の父親のお祓いは完全に口伝で、正直やり方があっているのかどうかもあやふやだ。
もう少しちゃんと教わっておけばよかったと思う。
榊がダメなら、神職の血を引くこの手でどうにかするしかない。
「ううっ」
苦しむ和樹の首にそっと手を当てる。こんどは火花は散らない。
「和樹、聞こえるか?」
ゆっくりと和樹の目が開いた。
「和樹……?」
「何人ナリ」
和樹の唇が動く。目を見ると、虹彩が黄色くなっていた。
「お前、狐か?」
「如何ニモ」
「和樹の体から出て行ってくれ」
「汝ヨリハウタテキ気色ヲ感ズ」
再びバチっと火花が散る。思わず離した手の爪の隙間から血がにじむ。
「悪いが出て行ってもらうぞ」
低級の相手なら神職の体液がある程度効果的なはずだ。
火花の痛みを無視して和樹の顎を掴み、深く口づけて口内に唾液を流し込む。
「グッ……」
「効いたか?」
血が滴る指を和樹の口に突っ込むと、和樹が悲鳴を上げ始めた。
「八百万の神々よ、ここに集いたまいて、この者に憑きし邪しき気を清めたまえ。神々の御力をもって、迷いし狐の念、速やかに離れさせたまえ」
八百万の神が狐をなんとかしてくれるのかは知らないが、とにかく手段は尽くすつもりだ。
神道でダメなら仏だろうがなんだろうが、なんでもめちゃくちゃに祈ってやる。
和樹は苦し気に血の混ざった唾液を飲み込み、甲高い声で叫んだ。
「ギャーッ! ケケケ!」
「頼む、清めたまえ、清めたまえ……」
真が腕に激しい痛みを感じた瞬間、和樹の目が黒に戻ってくたっと倒れた。
「和樹!」
「まこと……さん」
「大丈夫か、体は、それにさっきお前……」
「大丈夫……です……狐は妖姫様に……叱られて逃げました」
妖姫様?
真は顔をしかめる。
「とりあえず水飲め。何かほしいものはあるか?」
「っ……!」
「和樹!」
和樹の目にようやく生気が戻ってきた。ついでに腹がぐうと鳴る。
「真さん、俺、お腹がすいて……」
なんだよ。拍子抜けしながら、スマホで阿久津に「ありったけ飯買ってこい」と連絡する。
「妖姫神がどうしたんだ?」
「妖姫……? 俺そんなこと言いましたっけ」
「だってお前今さっき……」
真さん、と言って、和樹が装束を引っ張る。
「あの、ずっとあそこがうずいてて」
膝をすり合わせる和樹を見て、真はごくりと唾を飲む。
「触るぞ」
阿久津が男子高校生の母親と話しているのが聞こえる。
靴を履きながら、ふらっと体が揺れた。そのまま壁に手をつく。
「和樹!? 大丈夫か」
真に支えられて「らいじょうぶれす」と呂律の回らない舌で返事をする。
軽く朝食は食べてきたはずなのに、強い飢餓感で腹が痛い。
「大丈夫じゃなさそうだね」
鞄に報酬の封筒をしまいながら阿久津が言った。
「公民館へ急ごう」
家を出たところで、道路に膝をつく。ものすごく眠いが空腹の苦痛が強くて意識が飛ばない。
「和樹くん、自分の名前言える?」
「……」
「すごい勃起してるね。この狐、ただの妖狐じゃなさそうだ」
真がコートを脱いで和樹の下半身を隠し、そのまま抱き上げる。
「俺が連れていく。阿久津は準備を頼む」
「了解」
阿久津が真のリュックサックを受けとって走り出す。真も足早に公民館へ向かった。
予約してある会議室に入ると、阿久津がすでに榊の葉と祭壇を準備していた。
うなされてくたっとなっている和樹を互い違いに複数並べたパイプ椅子の上に横たえる。
「食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求が全部出てるね。ずいぶんと貪欲な狐だ」
「和樹、上着脱がせるぞ」
真が和樹に触れると、和樹の体が大きく跳ねた。
「うわ、すごいね。今ちょっと射精したんじゃない? 全身性感帯みたいになってるね」
「……阿久津、悪いんだが、終わるまで外にいてくれないか?」
強く噛まれた真の唇を見て、阿久津が「わかった」と二つ返事で引き受ける。
「人払いは任せて」
阿久津が会議室を出たのを確認して、真は和樹に声をかけた。
「和樹、寝るな。俺の声が聞こえるか?」
「ま……ことさん……っ……くるし……」
「大丈夫だ。俺がなんとかしてやる」
持ってきた装束を手早く身に着けて、鈴のついた榊で和樹の体を撫でる。
瞬間、バチッと火花が散って思わず葉を取り落とした。
「チッ、これじゃ無理か」
真の父親のお祓いは完全に口伝で、正直やり方があっているのかどうかもあやふやだ。
もう少しちゃんと教わっておけばよかったと思う。
榊がダメなら、神職の血を引くこの手でどうにかするしかない。
「ううっ」
苦しむ和樹の首にそっと手を当てる。こんどは火花は散らない。
「和樹、聞こえるか?」
ゆっくりと和樹の目が開いた。
「和樹……?」
「何人ナリ」
和樹の唇が動く。目を見ると、虹彩が黄色くなっていた。
「お前、狐か?」
「如何ニモ」
「和樹の体から出て行ってくれ」
「汝ヨリハウタテキ気色ヲ感ズ」
再びバチっと火花が散る。思わず離した手の爪の隙間から血がにじむ。
「悪いが出て行ってもらうぞ」
低級の相手なら神職の体液がある程度効果的なはずだ。
火花の痛みを無視して和樹の顎を掴み、深く口づけて口内に唾液を流し込む。
「グッ……」
「効いたか?」
血が滴る指を和樹の口に突っ込むと、和樹が悲鳴を上げ始めた。
「八百万の神々よ、ここに集いたまいて、この者に憑きし邪しき気を清めたまえ。神々の御力をもって、迷いし狐の念、速やかに離れさせたまえ」
八百万の神が狐をなんとかしてくれるのかは知らないが、とにかく手段は尽くすつもりだ。
神道でダメなら仏だろうがなんだろうが、なんでもめちゃくちゃに祈ってやる。
和樹は苦し気に血の混ざった唾液を飲み込み、甲高い声で叫んだ。
「ギャーッ! ケケケ!」
「頼む、清めたまえ、清めたまえ……」
真が腕に激しい痛みを感じた瞬間、和樹の目が黒に戻ってくたっと倒れた。
「和樹!」
「まこと……さん」
「大丈夫か、体は、それにさっきお前……」
「大丈夫……です……狐は妖姫様に……叱られて逃げました」
妖姫様?
真は顔をしかめる。
「とりあえず水飲め。何かほしいものはあるか?」
「っ……!」
「和樹!」
和樹の目にようやく生気が戻ってきた。ついでに腹がぐうと鳴る。
「真さん、俺、お腹がすいて……」
なんだよ。拍子抜けしながら、スマホで阿久津に「ありったけ飯買ってこい」と連絡する。
「妖姫神がどうしたんだ?」
「妖姫……? 俺そんなこと言いましたっけ」
「だってお前今さっき……」
真さん、と言って、和樹が装束を引っ張る。
「あの、ずっとあそこがうずいてて」
膝をすり合わせる和樹を見て、真はごくりと唾を飲む。
「触るぞ」
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