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第二部
17話 バイトのお誘い
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「いやー、変だと思ったんだよね。和樹くんが真を好きになるのはなんとなくわかる。でも、真が和樹くんを好きになる理由がいまいち見当たらないんだよね」
阿久津が面白そうに笑う。真がぎりっと拳を握るのが見えた。
「阿久津、それ以上言ったら殴るぞ」
「ごめんごめん。でも事実は受け入れてくれ」
「……ちょっと頭を冷やしてくる」
飛び出すように部屋を出ていく真を和樹が追おうとすると、「やめときなよ」と阿久津に忠告される。
「でも……」
「真は今冷静じゃなくなってる。昔からの付き合いだからよくわかる」
「阿久津さんって……何者なんですか?」
「僕? ただの大学院生だよ。逆に君こそ何者なんだ? どういった経緯で真と知り合いに?」
和樹は今までの経緯を話した。
中学時代の恋人を追って黄泉の国について調べていたこと。祠を壊したら憑かれてしまい、真に祓ってもらったこと。
「なるほどねえ。黄泉淵様の件についてはざっくり聞いてたからなんとなく知ってたけど、そういった事情があったんだ」
「はい」
「でもいいの? 僕、少しだけど今みたいな術式が使えるんだよ」
首を傾げると、阿久津がぐいっと顔を近づける。
「つまり、僕は黄泉へ行く方法を知っている。君を、黄泉の国にいる中学時代の元彼と合わせてやることだってできるかもしれない。人生をかけて追い続けてきた元恋人と真、天秤にかけた時真を選ぶ自身はある?」
和樹は阿久津の目をまっすぐ見つめた。
「俺は真さんを選びます」
阿久津は一瞬虚を突かれたような顔をして、それから笑い出した。
「あははは、愛だねえ。気に入った。僕のところで仕事させてあげよう」
「あ、ありがとうございます」
「和樹くんには『憑かれ屋』をやってもらいたい。ちょうど人員が足りていなくてね」
「憑かれ屋?」
「ちょっと説明するね」
呪物や呪われた人間は神社などでお祓いしてもらうのが一般的だが、普通の神社では扱えないものも存在する。
阿久津は彼らに営業をかけて、相場よりやや高い値段で祓う仕事をしている。
実際にお祓いをするのは、阿久津ではなく真の仕事だ。真の能力は村の土着信仰由来のもので、神社で祓えなかった呪いや御霊も祓えることがあるという。
ただ、真もなんでもかんでも祓えるわけではなく、自分に波長の合う人間しか祓えないそうだ。
つまり、物や人物に憑いた呪いをいったん「憑かれ屋」と呼ばれる人間に移し、それを真が祓う。これが仕事の全貌だ。
「そ、それって人道に反してないんですか……?」
「反してるよ。それに憑かれ屋はきつい仕事だから、いい人材を見つけてもすぐ逃げちゃうんだよね」
当たり前だ。そんな気持ち悪い仕事、どんなにお金を積まれたってやりたくない。
「どう、嫌になった?」
「……正直嫌ですけど、憑かれ屋をしたら真さんの役に立てますか?」
「立てる立てる。もちろんだよ」
じゃあやります。と答える前に、入口のドアが開き、真が微妙な顔つきのまま戻ってきた。
「どこ行ってたの」
「自販機のココア飲んできた」
「まだ納得いってない顔だね」
阿久津がからかうと、「でもお前と和樹を二人きりにするよりましだ」と真が毒を吐く。
「ちょうどいい。今和樹くんを憑かれ屋に勧誘していたところだよ」
「……は?」
真の顔が険しくなる。
「だめに決まってんだろ、そんな危ない仕事。もっとお祓いの補佐とか荷物持ちとか、やることは無限にあるだろうが」
「俺、やります、憑かれ屋」
和樹が宣言すると、真が目を丸くした。
「おまっ……仕事内容わかって言ってんのか?」
「わかってます。危険だってことも。でも真さんの役に立てることはなんでもしたいんです」
「まあそういうことだから」
真の肩に触れる阿久津に真が「触んな」と威嚇する。
「じゃあ報酬について説明するよ。1回のお祓いで僕たちがもらえるのは10万円。成功しても失敗しても10万ね。あとは交通費と宿泊費と、たまにおひねりがもらえる。これを3人で山分けする。僕の取り分が3割。あとの7割の配分は2人で決めな。夜職ほどではないけど、うまくやればけっこう効率よく稼げると思うよ」
「おい、まだやると決まったわけじゃ……」
「やるよね、和樹君」
笑顔で問われて頷いた。
「そうと決まれば話は早い。明後日のお祓いに早速同行してもらおう。和樹くん、スマホは持ってる? 連絡先交換しよう」
まだ俺も交換してないのに。ぶつくさ言う真を無視して、阿久津がちゃんちゃんこのポケットからスマホを取り出す。
「持ってるんですけど、今通知がすごくて電源切ってて……」
「ああ、あんなことがあったらそりゃそうか。じゃあこれ使って」
阿久津が机の引き出しをがさごそ漁って折り畳み式の端末を取り出した。
「……なんですかこれ」
「えっ、ガラケーって知らない?」
「本物は初めて見ました」
阿久津と真が顔を見合わせた。
「ジェネレーションギャップ? なんかちょっとショック……」
「うるせ」
阿久津が面白そうに笑う。真がぎりっと拳を握るのが見えた。
「阿久津、それ以上言ったら殴るぞ」
「ごめんごめん。でも事実は受け入れてくれ」
「……ちょっと頭を冷やしてくる」
飛び出すように部屋を出ていく真を和樹が追おうとすると、「やめときなよ」と阿久津に忠告される。
「でも……」
「真は今冷静じゃなくなってる。昔からの付き合いだからよくわかる」
「阿久津さんって……何者なんですか?」
「僕? ただの大学院生だよ。逆に君こそ何者なんだ? どういった経緯で真と知り合いに?」
和樹は今までの経緯を話した。
中学時代の恋人を追って黄泉の国について調べていたこと。祠を壊したら憑かれてしまい、真に祓ってもらったこと。
「なるほどねえ。黄泉淵様の件についてはざっくり聞いてたからなんとなく知ってたけど、そういった事情があったんだ」
「はい」
「でもいいの? 僕、少しだけど今みたいな術式が使えるんだよ」
首を傾げると、阿久津がぐいっと顔を近づける。
「つまり、僕は黄泉へ行く方法を知っている。君を、黄泉の国にいる中学時代の元彼と合わせてやることだってできるかもしれない。人生をかけて追い続けてきた元恋人と真、天秤にかけた時真を選ぶ自身はある?」
和樹は阿久津の目をまっすぐ見つめた。
「俺は真さんを選びます」
阿久津は一瞬虚を突かれたような顔をして、それから笑い出した。
「あははは、愛だねえ。気に入った。僕のところで仕事させてあげよう」
「あ、ありがとうございます」
「和樹くんには『憑かれ屋』をやってもらいたい。ちょうど人員が足りていなくてね」
「憑かれ屋?」
「ちょっと説明するね」
呪物や呪われた人間は神社などでお祓いしてもらうのが一般的だが、普通の神社では扱えないものも存在する。
阿久津は彼らに営業をかけて、相場よりやや高い値段で祓う仕事をしている。
実際にお祓いをするのは、阿久津ではなく真の仕事だ。真の能力は村の土着信仰由来のもので、神社で祓えなかった呪いや御霊も祓えることがあるという。
ただ、真もなんでもかんでも祓えるわけではなく、自分に波長の合う人間しか祓えないそうだ。
つまり、物や人物に憑いた呪いをいったん「憑かれ屋」と呼ばれる人間に移し、それを真が祓う。これが仕事の全貌だ。
「そ、それって人道に反してないんですか……?」
「反してるよ。それに憑かれ屋はきつい仕事だから、いい人材を見つけてもすぐ逃げちゃうんだよね」
当たり前だ。そんな気持ち悪い仕事、どんなにお金を積まれたってやりたくない。
「どう、嫌になった?」
「……正直嫌ですけど、憑かれ屋をしたら真さんの役に立てますか?」
「立てる立てる。もちろんだよ」
じゃあやります。と答える前に、入口のドアが開き、真が微妙な顔つきのまま戻ってきた。
「どこ行ってたの」
「自販機のココア飲んできた」
「まだ納得いってない顔だね」
阿久津がからかうと、「でもお前と和樹を二人きりにするよりましだ」と真が毒を吐く。
「ちょうどいい。今和樹くんを憑かれ屋に勧誘していたところだよ」
「……は?」
真の顔が険しくなる。
「だめに決まってんだろ、そんな危ない仕事。もっとお祓いの補佐とか荷物持ちとか、やることは無限にあるだろうが」
「俺、やります、憑かれ屋」
和樹が宣言すると、真が目を丸くした。
「おまっ……仕事内容わかって言ってんのか?」
「わかってます。危険だってことも。でも真さんの役に立てることはなんでもしたいんです」
「まあそういうことだから」
真の肩に触れる阿久津に真が「触んな」と威嚇する。
「じゃあ報酬について説明するよ。1回のお祓いで僕たちがもらえるのは10万円。成功しても失敗しても10万ね。あとは交通費と宿泊費と、たまにおひねりがもらえる。これを3人で山分けする。僕の取り分が3割。あとの7割の配分は2人で決めな。夜職ほどではないけど、うまくやればけっこう効率よく稼げると思うよ」
「おい、まだやると決まったわけじゃ……」
「やるよね、和樹君」
笑顔で問われて頷いた。
「そうと決まれば話は早い。明後日のお祓いに早速同行してもらおう。和樹くん、スマホは持ってる? 連絡先交換しよう」
まだ俺も交換してないのに。ぶつくさ言う真を無視して、阿久津がちゃんちゃんこのポケットからスマホを取り出す。
「持ってるんですけど、今通知がすごくて電源切ってて……」
「ああ、あんなことがあったらそりゃそうか。じゃあこれ使って」
阿久津が机の引き出しをがさごそ漁って折り畳み式の端末を取り出した。
「……なんですかこれ」
「えっ、ガラケーって知らない?」
「本物は初めて見ました」
阿久津と真が顔を見合わせた。
「ジェネレーションギャップ? なんかちょっとショック……」
「うるせ」
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