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第二部
15話 初めてのピロートーク
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カーテンの隙間からオレンジ色の光が差している。12月の夕方は早い。
「ちょっと早いがもう寝るか」
横になった和樹の頭を優しく撫でて、真が身を起こす。
「えーっと、たしか寝袋が押し入れに……」
「待ってください」
思わず真の腕をつかむ。
「同じ布団がいいです」
「狭いぞ」
「だからいいんです」
まいったな、と言って真が笑った。
「そっち寄ってくれ。俺も入れて」
二人で枕を遠慮がちに分け合って布団に包まる。汗ばんだ互いの肌が吸い付いて気持ちいい。
「お前さ、俺がメール送ってからここ来るまでずいぶん早かったけど、どこ住まいなの?」
とろんと眠たくなってきた和樹に真が尋ねた。
「千葉です」
「あーなるほど。じゃあ電車2、3本ってとこか。それで、お前これからどうするつもり?」
ピロートークにしては重苦しい質問に、眠気が霧のようにかき消えた。
「これから……?」
「ネットに顔も晒して、世間はお前を迷惑系動画投稿者の中の人だと認知してる。就活も苦労するだろうな」
「それは……何も考えてませんでした」
大学に入ってからサークルもバイトもしていない。黄泉の国を研究してる教授の下で勉強はしているが、別に他のことをちゃんとしているわけでもない。
「あのさ、お前がよければなんだけど」
真の目がじっと見つめてくる。
「俺の働いてるところでバイトしねえ?」
「します」
「即答かよ。まだ内容も何も言ってないのに」
「真さんといっしょに働きたいです」
「お前って本当恋だけに突き動かされてるタイプだよな」
確かにその通りだ。黙っていると、真が鼻同士をくっつけてくる。
「明日は暇か?」
授業は午前中のコマだけだ。試験前なのでそこまで余裕があるわけではないが、真のためなら時間なんていくらでも捻出できる。
「午後なら」
「じゃあ15時に渋谷駅ハチ公前集合な。詳細は現地で説明する」
おやすみ、と言って真が和樹の頭を胸元に抱き寄せる。
あたたかくて気持ちがよくて、しばらくすると和樹も意識を手放していた。
* * *
夜中。ひどい寒さを感じて目覚めると、掛け布団を真に全部持っていかれていた。
「真さん」
小声で呼びかけるが、敷布団から体ごと半分落ちている真が起きる気配はない。ひどい寝相だ。
脱ぎ散らかしていた自分の服を着てみたが、それでもまだ寒い。
勝手に押入れを開ける……のは抵抗がある。掛け布団を分けてもらうために無理やり起こすのも不憫だ。
周囲を見回したとき、壁に掛けられた装束に目が留まった。
* * *
「おい、起きろ和樹」
肩をゆすられて目が覚める。部屋はまだ暗い。
「んう……何時ですか」
「5時半だよ。始発はもう出てる。それよりお前、なんで俺の装束着てんの?」
目をこすりながら首を持ち上げる。羽織った白い布が肩からずり落ちた。
「寒かったから……。真さん寝相悪すぎです」
「それはすまなかったけど、お前、体調なんともないのか?」
「?」
「その装束呪われてんだよ。並みの人間なら着て1分で嘔吐するぞ」
ぎょっとして飛び起きる。
「呪っ……!?」
「呪いというかまあ強すぎるご加護がついてるってイメージだな。俺は親父の血を引いてるから平気なんだが、お前は一般人だろ。もしかして一度黄泉へ行ったから耐性ついたのか……?」
「怖っ、脱ぎます」
慌てて装束の中から抜け出した。
「まあそれも含めて今日の午後相談しよう。時間大丈夫か?」
「あ、1限」
「俺のコート貸してやるよ。遅刻しないようにな」
アパートを出た後も、少し背中がぞわぞわする感覚が残っていた。
「ちょっと早いがもう寝るか」
横になった和樹の頭を優しく撫でて、真が身を起こす。
「えーっと、たしか寝袋が押し入れに……」
「待ってください」
思わず真の腕をつかむ。
「同じ布団がいいです」
「狭いぞ」
「だからいいんです」
まいったな、と言って真が笑った。
「そっち寄ってくれ。俺も入れて」
二人で枕を遠慮がちに分け合って布団に包まる。汗ばんだ互いの肌が吸い付いて気持ちいい。
「お前さ、俺がメール送ってからここ来るまでずいぶん早かったけど、どこ住まいなの?」
とろんと眠たくなってきた和樹に真が尋ねた。
「千葉です」
「あーなるほど。じゃあ電車2、3本ってとこか。それで、お前これからどうするつもり?」
ピロートークにしては重苦しい質問に、眠気が霧のようにかき消えた。
「これから……?」
「ネットに顔も晒して、世間はお前を迷惑系動画投稿者の中の人だと認知してる。就活も苦労するだろうな」
「それは……何も考えてませんでした」
大学に入ってからサークルもバイトもしていない。黄泉の国を研究してる教授の下で勉強はしているが、別に他のことをちゃんとしているわけでもない。
「あのさ、お前がよければなんだけど」
真の目がじっと見つめてくる。
「俺の働いてるところでバイトしねえ?」
「します」
「即答かよ。まだ内容も何も言ってないのに」
「真さんといっしょに働きたいです」
「お前って本当恋だけに突き動かされてるタイプだよな」
確かにその通りだ。黙っていると、真が鼻同士をくっつけてくる。
「明日は暇か?」
授業は午前中のコマだけだ。試験前なのでそこまで余裕があるわけではないが、真のためなら時間なんていくらでも捻出できる。
「午後なら」
「じゃあ15時に渋谷駅ハチ公前集合な。詳細は現地で説明する」
おやすみ、と言って真が和樹の頭を胸元に抱き寄せる。
あたたかくて気持ちがよくて、しばらくすると和樹も意識を手放していた。
* * *
夜中。ひどい寒さを感じて目覚めると、掛け布団を真に全部持っていかれていた。
「真さん」
小声で呼びかけるが、敷布団から体ごと半分落ちている真が起きる気配はない。ひどい寝相だ。
脱ぎ散らかしていた自分の服を着てみたが、それでもまだ寒い。
勝手に押入れを開ける……のは抵抗がある。掛け布団を分けてもらうために無理やり起こすのも不憫だ。
周囲を見回したとき、壁に掛けられた装束に目が留まった。
* * *
「おい、起きろ和樹」
肩をゆすられて目が覚める。部屋はまだ暗い。
「んう……何時ですか」
「5時半だよ。始発はもう出てる。それよりお前、なんで俺の装束着てんの?」
目をこすりながら首を持ち上げる。羽織った白い布が肩からずり落ちた。
「寒かったから……。真さん寝相悪すぎです」
「それはすまなかったけど、お前、体調なんともないのか?」
「?」
「その装束呪われてんだよ。並みの人間なら着て1分で嘔吐するぞ」
ぎょっとして飛び起きる。
「呪っ……!?」
「呪いというかまあ強すぎるご加護がついてるってイメージだな。俺は親父の血を引いてるから平気なんだが、お前は一般人だろ。もしかして一度黄泉へ行ったから耐性ついたのか……?」
「怖っ、脱ぎます」
慌てて装束の中から抜け出した。
「まあそれも含めて今日の午後相談しよう。時間大丈夫か?」
「あ、1限」
「俺のコート貸してやるよ。遅刻しないようにな」
アパートを出た後も、少し背中がぞわぞわする感覚が残っていた。
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