【祠BL】祠を壊した男子大学生が三十路のお兄さんにお清め(意味深)される話

江夏みどり

文字の大きさ
上 下
13 / 38
第一部

13話 全世界のさらし者

しおりを挟む
 夏休みのあの日以降、眠れぬ夜が続き、学業もおろそかになっていた。

 どきどきしながらダイレクトメッセージを送った初期アイコンの「あ」というハンドルネームのアカウントは、3日後にブロックされていた。そのアカウントはまもなくして消えた。
 真とのつながりが絶たれたようで苦しかった。

 12月、恥をしのんで村を再訪すると、そこにはもう真はいなかった。

「真なら東京へ帰ったぞ」

 村長の言葉に和樹は唖然とした。

「れ、連絡先は」
「それが何も言わずに行ってしまったもんだから、誰もあやつの行く先はわからん。もうしばらく戻ってこんじゃろうな」

 雪道を踏みながら山を降り、海沿いの駅へ戻る。
 あの日、自身の気持ちに気づいた切符売り場に立ったとき、和樹の胸の奥にふつふつと怒りが湧き上がった。
 ふざけんな。ふざけんなふざけんな。ようやく気持ちを理解したのに逃げるなんて。

 切符を買って自宅へ戻り、ビデオカメラとノートパソコンを持ってアパートを飛び出した。

 インターホンを複数鳴らすと、寝ぼけ眼で出てきたのは竜星だった。

「は? 和樹?」
「竜星、チャンネルのパスワード教えて」

 靴を脱いでずかずかと竜星の部屋に上がり込む。

「ちょ、待てよ、俺もうあれにこりて動画は辞めて……」
「いいから、早く」

 わけがわからないといった様子の竜星から聞き出したパスワードを打ち込み、祠壊しのチャンネルにログインする。

「お前、何するつもりだ……?」
 困惑する竜星を無視してカメラをノートパソコンにつなぐ。勢いでライブ配信を開始し、自身の顔を全世界にさらけ出した。

「真さん、これ、俺の連絡先っ!」

 登録者数6桁の大きなチャンネルは、しばらく停止していたとはいえ、続々と視聴者が集まってくる。

 え?
 何?
 www
 乗っ取り???

 流れるコメントもそのままに、メモに書いたメールアドレスを画面に向けた。

 世界に向かって大きな声で叫ぶ。
「逃げられると思うなよ! 俺はあんたを好きになったんだ。もう何も恥ずかしくない! なんだって晒してやる!」

 スマホからは通知音が止まらない。
 迷惑メールが届く音、ピザの配達通知、メッセージチャットへの着信……。

 竜星の家から足早に帰宅し、ひとつひとつメールを開封していく。
 からかいの言葉、暴言、誹謗中傷、呪いのメール。それから数秒おきに、母親からの着信。

 数日そんな状態が続く中、大量の迷惑メールの中に、一つだけタイトルなしのメールがあった。
 本文には東京の住所と、一言だけ。
「どうされたいかはお前が決めな」

 和樹は上着も羽織らずに外へ飛び出した。

 特急で1本、そこから乗り換えて1本。
 電車では女子高生にくすくす笑われた。インターネットのいたるところに晒されて、和樹はもうちょっとした有名人だった。

 だがそんなことどうだっていい。

 古いアパートのインターホンを押すと、1回で鍵の開く音がした。

「お前なあ」

 裸足で出てきたのは、まぎれもない、真だった。

「真さん!」
「馬鹿なことしやがって……お前の人生もうめちゃくちゃだぞ。俺がどれだけ……」
「いい、それでもいい。それだけあんたが欲しかったんだ」

 真が耳まで赤くなった。
「その恰好、寒いだろ……入れよ」

 閉まる扉に体を滑り込ませて、性急に靴を脱ぎ捨てる。真の背中に向かって必死に訴えた。

「真さん、ほんとに俺、真さんのこと……」
「わかったよ」

 真が振り返って冷たくなった和樹の体をぎゅっと抱きしめる。

「俺そんなに優しくねえし、10コも下のやつとなんか付き合ったことない。お前が思うほどかっこよくもないよ。それでもいいのか?」
「うん」

 深くうなずくと、真が小さく笑って和樹の肩に頭を乗せた。
「馬鹿」

第一部END
つづく

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...