上 下
5 / 33
第一部

5話 お神酒の飲ませ方

しおりを挟む
「ぜえ……ぜえ……」
 1時間以上叫びまくって汗だくだ。喉も枯れてきた。
 一方の真はというと、ずっと和樹の黒歴史を読み上げていちいちコメントを入れ続けていたというのに顔色一つ変わっていない。

「そろそろ休憩しようか。自尊心の方はどうだ?」
「ぼろぼろです」
「そっかそっか」

 真が満足げに鼻歌を歌いながら冷蔵庫から大きめの徳利を取り出して、漆喰の小さな器に注ぐ。アルコールの香りがつんと漂った。

「飲みな」
「……俺19歳ですけど」
「おっと。それじゃあお神酒みきは無理か」

 真は器の酒をぐいっと飲みほして、普通のコップにペットボトルのジュースを注ぐ。

「こっちはアクエリだから飲めるだろ」
 和樹の口にコップの淵をぐいっと押し付けてくる。和樹が飲むよりコップが傾く方が速くて、口の端から液体が垂れた。

「げほっ」
「飲めた?」
「はい……んっ!?」

 真の顔がいきなり近づいてきて、口に舌を入れられる。
 酒の苦味が口中に広がって苦しい。

「んぐっ」

 強引に歯列をなぞられてせき込みそうになる。縛られた裸足の先をぎゅっと握りしめたとき、ようやく口が離れていった。

「ぷはっ……はあっ、なななっ、なっ、何を……」
「飲めないなら塗りたくるしかないかなと思って。さすがに全く摂取しなかったら死ぬからな。和樹も気持ちよかっただろ」
 
 この男、何を言っているのかわからない。
 ぽかんとして唾液で濡れた真の口を眺めていると、「もう一回したくなった?」と笑われる。

「いや……」
「ごめんごめん。ファーストキスだった? 好きな子とできなくてお気の毒様」
「……」

 見上げるように真を睨んだ。
 真は無自覚に地雷を踏みぬいたことに気付いたようだ。

「あー、好きな子の話はNGってことな。わかったからそう睨むな」

 真が胴体の縄をほどき始める。手足はほどいてくれないらしい。

「セーフワード決めとくか? でもあとで口ふさぐこともあるだろうからなあ。どうしても無理だと思ったら俺のことさっきみたいに睨んでくれ」
「セーフワード? 口をふさぐ???」

 やはり何を言っているのかよくわからない。

 外で風が吹き始めた。古い窓ががたついて音を立てる。
「SMプレイって聞いたことはあるだろ。いじめられる側が『これ以上はマジで無理』って時にいうセリフを決めておくんだよ。まあそういうエチケットだな」
「ま……ってください、今からそういうプレイが始まるってこと……じゃないですよね?」

 和樹の消え入りそうな語尾にかぶせるように真が笑う。

「プレイじゃねえよ。お清めだっつってんだろ」

 風が強くなって屋根ごと揺れ始めた。
 がたがたがたがた、がたがたがたがた。

 がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがた。

「お、ついにおでましだ」
「なっ……」
「決まってんだろ。黄泉淵様よもつふちさまだよ」

 にわかに目の前が真っ暗になった。
 喉を締め上げられて、金縛りのように声にならない悲鳴を上げる。
 黒い視界の端に、何か見えた気がした。

 瞬間、口にぬるっとした感触を覚えて意識が現実に引き戻される。
 真が和樹の口内に舌を挿入していた。

「げはっ、はあ、はあ」
「気が付いたか、お前トんでたぞ」
「い、今の、今の暗いのは」
「黄泉だよ」

 真の言葉に背筋がぞわっと凍る。
「何を……っ!?」

 再び視界が黒に覆われた。

 がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがた。

 耳だけが音を拾い、悲鳴で喉が焼き切れそうになる。

「おい、おい」
 頬をぺちぺち叩かれて我に返る。

「ああ、恥の切れ目に黄泉淵様よもつふちさまが来ちまった」
「嫌だ、嫌です、もう暗いのは」
「わかってる。俺がなんとかしてやる」

 両手足だけ椅子に拘束された和樹の服の胸元に、真がするりと手を挿し込んだ。

「何を……」
「だから、『恥』だよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

女神みたいな美しい兄にめちゃくちゃ欲情する弟

ミクリ21 (新)
BL
弟が兄と致す話。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

ガチムチ島のエロヤバい宴

ミクリ21 (新)
BL
エロヤバい宴に大学生が紛れ込んでしまう話。

弟の躾のためにお兄ちゃんは尻を出す

ミクリ21 (新)
BL
弟×兄の話。

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

エルフと悪魔のエロを求めるチンチン道中!

ミクリ21
BL
アホエロです。

処理中です...