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第一部
3話 お清めの準備
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始発の電車で3時間。バスに乗って1時間。そこから山道を歩いて数十分。
ぜえぜえ言いながらやってきた和樹を、真は迎え入れた。
「昼前に着くなんて早かったな。始発で来た?」
「はい……」
リュックサックをどさっと床に置く。
中学時代の黒歴史は数十冊にも及び、落書きやポエム用ノートも詰め込むとかなりの重さになった。
「後ろは振り返ってないな?」
「はい」
「よし、じゃあお清めの儀式を始めるか」
真は和樹を別の部屋に連れていくと、服を着替えるように指示した。
渡された衣装は薄っぺらい木綿地の和服で、古いせいかところどころに虫食いの穴まである。
指示通り下着まで全部脱いで和服を身にまとい、くたっとした心もとない帯で腰をしめる。
部屋を出ると、真がリュックサックから黒歴史ノートを取り出している最中だった。
「あーっ!」
「大丈夫だ、中は見てない。置くだけ置くだけ」
真はノートを部屋の中央に置き、「業務用 塩 25kg」と書かれた袋の中身を器用に皿に盛りつけていく。
「盛り塩とか本当にするんですね」
「ああこれな。なんか雰囲気で」
「雰囲気!? 悪霊退散の効果とかないんですか?」
和樹が目を見開いたとき、外から村人の声がした。
「まこっちゃん、例の物、公民館から持ってきただよ」
「おー」
真が引き戸を開けると、台車に大きな機械を乗せた野良着の若い村人が立っていた。
「ありがとうゴローくん。運ぶの手伝ってくれ」
「あいよ。よっこらせ。おお、盛り塩だ。雰囲気あるなあ」
ゴローと真が機械を部屋の隅に運ぶ。
機械は大きめのコピー機だった。
「これ、気になるか?」
ぬ、と背後に立つ真に和樹は飛び上がる。
「これな、複合機ってやつだ。スキャナーとかコピーとかファックスとか。インターネットにもつながっている割と新しいやつ」
「こんなもの持ってきてどうするんですか」
「そりゃ、お清めに使うんだよ」
真がけらけら笑った。
「お兄ちゃん死んじゃうのー?」
ゴローについてきていたのであろう女児が戸の隙間から顔をのぞかせた。
真がにやっと変な笑い方をする。
「死なせねえよ。俺が清めるからな」
ゴローと女児が帰った後、真は入口の鍵を閉めて窓に厚手のカーテンをかけた。
薄暗くなった部屋に、真が重たい洋椅子を運んでくる。
「じゃあここ座って」
いわれるがままに腰かけると、両腕をぐいっと後ろに引っ張られて紙垂のついた縄でぐるぐる巻きにされる。
「なっ!?」
「悪いけどちょっと縛るな」
「なんで!?」
縄で和樹の足を椅子に固定しながら、真が眉をハの字にして笑った。
「俺も本当はこんなことしたくないんだけどな、祟りの解除は結構苦しいから。和樹が自分で自分を傷つけないようにな、念のため」
もしかして、結構しんどいめに遭うんだろうか。
顔に不安が出ていたのだろう。
「和樹、大学生だろ。学校は?」
「夏休みです」
「そういうのあったな学生って。いいなあ」
真がとりとめのない雑談を始める。自分を少しでも安心させようとしているのだろうか。和樹がぼんやりしているうちに、完全に体は椅子に固定され、一切身動きの取れない状態になっていた。
「あの、俺今から何されるんですか?」
「あー」
真の目が少し考え込むように光った。
「何されたいとか、ある?」
「ある? って言われても……。しいて言うならほどいてほしいですけど」
「そうかそうか。それはできないんだ。ごめんな。じゃあまず手始めに……」
真が盛り塩の隣に置かれた黒歴史ノートを一冊取り上げ、一ページ目をぺらっと開いて複合機に伏せて置いた。
「え……何してるんですか?」
「なんだと思う?」
にやにやする真の顔を見て冷や汗が出る。
「この複合機な、OCR機能がついてんだ。まあ手書き文字をテキストデータ化する機能だと思ってくれ。今から和樹が中学生の時に書いた恥ずかしい小説を機械で読み取って全世界に公開します」
「は……」
和樹の喉がひゅっと乾いた。
「はあああああ!?」
ぜえぜえ言いながらやってきた和樹を、真は迎え入れた。
「昼前に着くなんて早かったな。始発で来た?」
「はい……」
リュックサックをどさっと床に置く。
中学時代の黒歴史は数十冊にも及び、落書きやポエム用ノートも詰め込むとかなりの重さになった。
「後ろは振り返ってないな?」
「はい」
「よし、じゃあお清めの儀式を始めるか」
真は和樹を別の部屋に連れていくと、服を着替えるように指示した。
渡された衣装は薄っぺらい木綿地の和服で、古いせいかところどころに虫食いの穴まである。
指示通り下着まで全部脱いで和服を身にまとい、くたっとした心もとない帯で腰をしめる。
部屋を出ると、真がリュックサックから黒歴史ノートを取り出している最中だった。
「あーっ!」
「大丈夫だ、中は見てない。置くだけ置くだけ」
真はノートを部屋の中央に置き、「業務用 塩 25kg」と書かれた袋の中身を器用に皿に盛りつけていく。
「盛り塩とか本当にするんですね」
「ああこれな。なんか雰囲気で」
「雰囲気!? 悪霊退散の効果とかないんですか?」
和樹が目を見開いたとき、外から村人の声がした。
「まこっちゃん、例の物、公民館から持ってきただよ」
「おー」
真が引き戸を開けると、台車に大きな機械を乗せた野良着の若い村人が立っていた。
「ありがとうゴローくん。運ぶの手伝ってくれ」
「あいよ。よっこらせ。おお、盛り塩だ。雰囲気あるなあ」
ゴローと真が機械を部屋の隅に運ぶ。
機械は大きめのコピー機だった。
「これ、気になるか?」
ぬ、と背後に立つ真に和樹は飛び上がる。
「これな、複合機ってやつだ。スキャナーとかコピーとかファックスとか。インターネットにもつながっている割と新しいやつ」
「こんなもの持ってきてどうするんですか」
「そりゃ、お清めに使うんだよ」
真がけらけら笑った。
「お兄ちゃん死んじゃうのー?」
ゴローについてきていたのであろう女児が戸の隙間から顔をのぞかせた。
真がにやっと変な笑い方をする。
「死なせねえよ。俺が清めるからな」
ゴローと女児が帰った後、真は入口の鍵を閉めて窓に厚手のカーテンをかけた。
薄暗くなった部屋に、真が重たい洋椅子を運んでくる。
「じゃあここ座って」
いわれるがままに腰かけると、両腕をぐいっと後ろに引っ張られて紙垂のついた縄でぐるぐる巻きにされる。
「なっ!?」
「悪いけどちょっと縛るな」
「なんで!?」
縄で和樹の足を椅子に固定しながら、真が眉をハの字にして笑った。
「俺も本当はこんなことしたくないんだけどな、祟りの解除は結構苦しいから。和樹が自分で自分を傷つけないようにな、念のため」
もしかして、結構しんどいめに遭うんだろうか。
顔に不安が出ていたのだろう。
「和樹、大学生だろ。学校は?」
「夏休みです」
「そういうのあったな学生って。いいなあ」
真がとりとめのない雑談を始める。自分を少しでも安心させようとしているのだろうか。和樹がぼんやりしているうちに、完全に体は椅子に固定され、一切身動きの取れない状態になっていた。
「あの、俺今から何されるんですか?」
「あー」
真の目が少し考え込むように光った。
「何されたいとか、ある?」
「ある? って言われても……。しいて言うならほどいてほしいですけど」
「そうかそうか。それはできないんだ。ごめんな。じゃあまず手始めに……」
真が盛り塩の隣に置かれた黒歴史ノートを一冊取り上げ、一ページ目をぺらっと開いて複合機に伏せて置いた。
「え……何してるんですか?」
「なんだと思う?」
にやにやする真の顔を見て冷や汗が出る。
「この複合機な、OCR機能がついてんだ。まあ手書き文字をテキストデータ化する機能だと思ってくれ。今から和樹が中学生の時に書いた恥ずかしい小説を機械で読み取って全世界に公開します」
「は……」
和樹の喉がひゅっと乾いた。
「はあああああ!?」
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