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あれから社交界デビューをした妹には沢山の令嬢達からお茶会への招待状がひっきりなしに届く。
私はというと悲しいことに一通もない。
っていうのは流石に冗談で三四通ほど招待状を送ってくれる物好きの令嬢方がいる。
有り難いのだけれどお茶会に参加するのが面倒で体調が悪いと嘘を言って自室で本を読んでまったりと過ごした。
こういう時私に関心のある人が居ないのは凄く楽だ。一言具合が悪いと言ってしまえば使用人が決まった時間に来る以外誰も部屋に様子を見に来ることはないから。
おかげで頭の中の考えをゆっくり整理する時間が出来た。
五日間自室で休暇を堪能したのでそろそろどれか一つでもお茶会に参加しなくてはなと考えていると扉の外が少し騒がしくなった。
その音が段々こちらへ近付いてきたかと思うといきなり扉が“バーンッ“と勢いよく開かれた。
「全くお姉様ったらいつまで自室に引きこもっているのです!全然お部屋から出て来てくれないから相談事の一つも出来ないではありませんの!」
いきなり来たかと思ったら開口一番これで仮病だった筈なのに本当に頭が痛くなりそうである。面倒事の予感をひしひしと感じるため回れ右をしてどうぞ遠慮なくこの部屋からお帰り頂きたい。
でも今の私は悪女では無い。世間一般的に良い姉は言わないであろうから、ここは私もそれに習って笑顔で迎え撃とうと思う。
「心配してくれてありがとう。ミレーナ。それで一体どうしたの?」
「聞いてくださいませ。私少しでもいいので皇太子様に関する情報が欲しくて沢山のお茶会に参加したんですの…そしたら皆さん皇太子様には思いを馳せる令嬢が出来たみたいって言うんですのよ…」
私には疑問でしかない。皇太子が思いを馳せる相手が出来たってそんなの普通に考えてミレーナのことでしょうに。
どうしてそんなに悲壮感溢れる感じで話すのだろうか。
「それってミレーナのことじゃないの?皇太子様に好意を寄せられてるのを知って嫉妬心や妬みから意地悪をしてあなたを困らせようと」
「そうですわよね!実は私もそうじゃないかって思ってたんですの。…やっぱりあの日のことは私の思い違いよね」
「え、あ、うん。解決したみたいで良かった。それよりあの日の思い違いって…?」
「あーそれは…なんでもないから気にしないで!」
さっきまでの悲壮感が一瞬で消えた妹を良かったと思うよりもボソッと小声で言った思い違いの方が私には気になる。
私が聞き返したら用は終わったと言わんばかりに直ぐに部屋から出て行ってしまった。
「まぁ、何でもないなら何でもない…のよね…」
不安げな私の独り言に返事を返してくれる人は誰もいなかった。
鮮魚店や八百屋、精肉店の他に屋台のおっちゃんがお客を呼ぶ声。行き交う人で活気に溢れ賑わう街並み。
過去も含めて今まで一度も来たことがなかった平民が暮らす下町に初めて私は来た。
ついつい目につく物全てに目移りして興味を惹かれた所へ吸い寄せられそうだった私を止める声がした。
「そっちではありませんわよ、お姉様」
危ない危ない。私ひとりで来たんじゃなかった。今日は何か目的のあるらしい妹の付き添いである。「一人だとあれだしお姉様も着いてきて」の一言によって。
下町に着いてからの妹はずっと周りを見回している。私には聞こえない声量でブツブツと何か言っているみたいなので誰か探している人でもきっといるのだろう。
ちょっと退屈だな~と思いながらよく前を見ずに後ろをついて行ってたのが悪かった。気がついた時には前を歩いていた筈の妹の姿はどこにもなく私一人だけその場にいた。
(やばい。急いで妹を探さないと)
人間焦るとろくな事がない。急ぎ足で角を曲がった私は前から来た人とぶつかった。その勢いそのまま尻もちを着いてしまい痛さで若干涙が出てきた。
「すまない。大丈夫だろうか?」
「いたたた…あ、ありがとうございます。すみません、急いでいたのでよく前を見てなく…て…」
目の前に差し出された手を掴んで起き上がった。私は自分の不注意を謝りながら相手の顔を見て目を疑った。
髪と目の色を変えて変装していても私には分かる。彼は間違いなく皇太子だ。
「本当にすみませんでした。急いでいますので私はこれで」
どうして皇太子がこんな所にいるんだ。そんな内心はおくびにも出さずもう一度謝り早く離れようと後ろを向いた私の腕を掴まれた。
「あ、ちょっと待って君。大事な服が汚れてしまっている。僕のせいだから弁償するよ」
「い、いいです。いいです。この服そんな大した物じゃないので弁償とか大丈夫ですから」
「いいから。いいから。僕に着いてきて」
何回も断ったのだが強引に押し切られた。しかも「着いてきて」と言った割にはちょっとやそっとじゃ振りほどけないぐらい腕をがっちりと掴まれている。
ああ。私はこのまま何処へ連れていかれるのやら…
私はというと悲しいことに一通もない。
っていうのは流石に冗談で三四通ほど招待状を送ってくれる物好きの令嬢方がいる。
有り難いのだけれどお茶会に参加するのが面倒で体調が悪いと嘘を言って自室で本を読んでまったりと過ごした。
こういう時私に関心のある人が居ないのは凄く楽だ。一言具合が悪いと言ってしまえば使用人が決まった時間に来る以外誰も部屋に様子を見に来ることはないから。
おかげで頭の中の考えをゆっくり整理する時間が出来た。
五日間自室で休暇を堪能したのでそろそろどれか一つでもお茶会に参加しなくてはなと考えていると扉の外が少し騒がしくなった。
その音が段々こちらへ近付いてきたかと思うといきなり扉が“バーンッ“と勢いよく開かれた。
「全くお姉様ったらいつまで自室に引きこもっているのです!全然お部屋から出て来てくれないから相談事の一つも出来ないではありませんの!」
いきなり来たかと思ったら開口一番これで仮病だった筈なのに本当に頭が痛くなりそうである。面倒事の予感をひしひしと感じるため回れ右をしてどうぞ遠慮なくこの部屋からお帰り頂きたい。
でも今の私は悪女では無い。世間一般的に良い姉は言わないであろうから、ここは私もそれに習って笑顔で迎え撃とうと思う。
「心配してくれてありがとう。ミレーナ。それで一体どうしたの?」
「聞いてくださいませ。私少しでもいいので皇太子様に関する情報が欲しくて沢山のお茶会に参加したんですの…そしたら皆さん皇太子様には思いを馳せる令嬢が出来たみたいって言うんですのよ…」
私には疑問でしかない。皇太子が思いを馳せる相手が出来たってそんなの普通に考えてミレーナのことでしょうに。
どうしてそんなに悲壮感溢れる感じで話すのだろうか。
「それってミレーナのことじゃないの?皇太子様に好意を寄せられてるのを知って嫉妬心や妬みから意地悪をしてあなたを困らせようと」
「そうですわよね!実は私もそうじゃないかって思ってたんですの。…やっぱりあの日のことは私の思い違いよね」
「え、あ、うん。解決したみたいで良かった。それよりあの日の思い違いって…?」
「あーそれは…なんでもないから気にしないで!」
さっきまでの悲壮感が一瞬で消えた妹を良かったと思うよりもボソッと小声で言った思い違いの方が私には気になる。
私が聞き返したら用は終わったと言わんばかりに直ぐに部屋から出て行ってしまった。
「まぁ、何でもないなら何でもない…のよね…」
不安げな私の独り言に返事を返してくれる人は誰もいなかった。
鮮魚店や八百屋、精肉店の他に屋台のおっちゃんがお客を呼ぶ声。行き交う人で活気に溢れ賑わう街並み。
過去も含めて今まで一度も来たことがなかった平民が暮らす下町に初めて私は来た。
ついつい目につく物全てに目移りして興味を惹かれた所へ吸い寄せられそうだった私を止める声がした。
「そっちではありませんわよ、お姉様」
危ない危ない。私ひとりで来たんじゃなかった。今日は何か目的のあるらしい妹の付き添いである。「一人だとあれだしお姉様も着いてきて」の一言によって。
下町に着いてからの妹はずっと周りを見回している。私には聞こえない声量でブツブツと何か言っているみたいなので誰か探している人でもきっといるのだろう。
ちょっと退屈だな~と思いながらよく前を見ずに後ろをついて行ってたのが悪かった。気がついた時には前を歩いていた筈の妹の姿はどこにもなく私一人だけその場にいた。
(やばい。急いで妹を探さないと)
人間焦るとろくな事がない。急ぎ足で角を曲がった私は前から来た人とぶつかった。その勢いそのまま尻もちを着いてしまい痛さで若干涙が出てきた。
「すまない。大丈夫だろうか?」
「いたたた…あ、ありがとうございます。すみません、急いでいたのでよく前を見てなく…て…」
目の前に差し出された手を掴んで起き上がった。私は自分の不注意を謝りながら相手の顔を見て目を疑った。
髪と目の色を変えて変装していても私には分かる。彼は間違いなく皇太子だ。
「本当にすみませんでした。急いでいますので私はこれで」
どうして皇太子がこんな所にいるんだ。そんな内心はおくびにも出さずもう一度謝り早く離れようと後ろを向いた私の腕を掴まれた。
「あ、ちょっと待って君。大事な服が汚れてしまっている。僕のせいだから弁償するよ」
「い、いいです。いいです。この服そんな大した物じゃないので弁償とか大丈夫ですから」
「いいから。いいから。僕に着いてきて」
何回も断ったのだが強引に押し切られた。しかも「着いてきて」と言った割にはちょっとやそっとじゃ振りほどけないぐらい腕をがっちりと掴まれている。
ああ。私はこのまま何処へ連れていかれるのやら…
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