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 本当に嫌になる。双子なのにこんなにも違っているだなんて。

 誰かが言った。にこやかな微笑みを浮かべ、愛らしく笑う妹の姿はまるで天使のようだと。最初は一人の声だったのが気づけば大多数の声に。
 皆からの愛や関心を一身に受ける妹が私には眩しく、嫌でも羨望の眼差しを向けてしまう。



 って言うのは私が一度死んだ過去を思い出すまでのことで今はそんな身の程知らずな考えは一切浮かばない。寧ろあんなに可愛いミレーナが愛されないわけがないからだ。



「いやいや我が家の可愛いミレーナをあんな奴に任せるのは…」
「貴方だめよ。彼はあんまり良い噂を聞かないもの。それだったら…伯爵家の…」
「もうこうなったらいっその事、私がミレーナのパートーナーを務めるのはどうだい?」
「それは私も考えたわ。だけど、それだと引く手あまたのミレーナが可哀想じゃないの。折角なら同い歳ぐらいの殿方の方がいいでしょうに…」

 今だってお父様とお母様はもうすぐ16歳を迎えて社交界デビューする妹のデビュタントでのパートーナーを誰にするかで意見が割れ、話し合いが長引いて結論を出せずにいる。
 同じ日に誕生日を迎えてデビューする私の話はそこに一切ない。

「お父様、お母様!いつまで話し合っているのですか。もうパートーナーはアレクシス様に決めましたから」

 扉を勢いよく開けて入ってきた妹はむぅーと頬を膨らませながらも自分のパートーナーはアレクシス様に決めたと言った。
 アレクシス様といえば私や妹より4歳年上の伯爵家の令息だ。甘い整った顔立ちのイケメンで女性に対して優しい紳士なため人気である。

 ただ残念なのが、それと同時に流れてくるもう一つの噂で社交界デビューしたばかりの令嬢が好みで何人も取っかえ引っかえしているとか。
 とはいえこの話は有名なのでお父様やお母様が知らない訳がなく間違いなく反対するだろう。

「ミレーナだめよ。アレクシス様は顔も性格も良いけれどあまりいい噂を聞かないわ」
「そうだぞミレーナ。他の人にしときなさい」
「嫌です、お父様お母様。私はアレクシス様と一緒に参加したいんです…」

 まさか二人から反対されると思ってもいなかったのであろう妹は初め困惑している様子だった。
 暫くして内容を理解したのか悲しげな表情で目に涙を浮かべ、どうしてもアレクシス様がいいと訴えていた。

 昔から妹の涙に弱い二人はアワアワしながら必死に宥め、最終的にはアレクシス様がパートーナーを務めることを渋々ながらも許していた。
 彼の女遊びはともかく顔や性格、家柄が良かったのも後押しになったのだろう。


 ちなみに、過去ではこんなにも彼がいいと言って参加した会場で他の人に一目惚れして直ぐに彼から興味は無くなるのだけど…これは今は言わない方がいい。




 王宮が主催するデビュタントの会場なだけあって会場内から漏れる眩い光に負けない白を基調とした荘厳な建物が参加者たちを出迎えている。
 周りのどの令嬢も他に見劣りしないよう色とりどりの華やかなドレスを身にまとっている。

 その中でも一際目立っているのが今まさに馬車からお父様の差し出す手に手を重ねて降りてくる妹だ。淡い桃色をベースにラメの散りばめられた濃いピンクのレース。開いた胸元に存在感を放つ宝石や頭を彩る髪飾り。
 その全てが今日の主役は彼女とばかりに引き立たせている。それもその筈で今日のために妹や両親は私のドレスそっちのけで奔走していたからである。

 おかげで私のドレスは正しく彼女の影と言われてもおかしくないほぼ黒一色だ。かろうじて薄紫色のレースがあるため喪服にならずにすんだ。


 会場に入る手前には今日ミレーナのパートーナーを務めるアレクシス様がこれまた派手な赤色の衣装に身を包んで待っていた。
 もしかしなくてもお互いに色味の系統を合わせてきたのだろうか。色んな意味で目立つ二人の近くには居たくないので私は気づかれないようサッと距離を置いて離れた。

 会場内には今日社交界デビューする沢山の令嬢や令息、その親達で賑わっていた。
 本来ならアレクシス様はとっくに社交界デビューをしているので今日のパーティーには参加出来ない。けれど男女関係なく初めてデビューする人のパートーナーを務めることで会場内に入ることが許されるルールがあるので誰も咎めはしない。


 このルールが出来たのは何でも昔、令嬢達にもの凄い人気を誇る一人の美男子がデビューの年しか参加出来ないことを嘆いたうら若きご令嬢達がその年の会場の外に押し寄せて大変な騒ぎになったからとか。
 しかもその中には彼に好意を寄せる皇女もいたらしく、流石の皇帝も愛娘可愛さに咎めることが出来ずに不問とするため仕方なく策定されたらしい。

 らしいとは言うものの実はこの話そんなに昔でもない。だってこの話に出てくる皇女、今は隣国の国王の妻で王妃である。



「皇帝陛下!皇后様!皇太子様の入場ー!!!」

 物思いにふけってた間に皇族の入場を知らせる声が会場内に響いた。先程まで流れていた音楽もいつの間にか止まっている。
 階段上の皇族専用の扉が大きく開かれて皇帝陛下と皇后が寄り添いながら先頭を歩き、その少し後ろを皇太子が歩いている。

 我に返った私は急いで跪いた姿勢で通り過ぎるのを待つ。

「皆の者そう畏まらずよい。宴は楽しめておるか?今日は我の息子ユースも社交界デビューである故に多少無礼講でも構わぬ。今日という祝い日を皆で楽しもうではないか!」

 “ガハハ“と豪快に笑う皇帝陛下のそのお言葉を皮切りに音楽が流れ、会場内に賑やかさが戻った。
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