全て失った僕と輝く君と。

qun

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1しょう。

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「麻酔するからねー。少しちくっとするよー」

いつも行く歯医者さんで聞いたようなセリフが聞こえる。眉毛の上のあたりが少しチクリと痛む。
救急車での記憶が少し戻る。
なんで運ばれたんだっけ。
明日は仕事だったよな。
縫ったら帰れる?
明日仕事行ける?
車はどうしたっけ。
麻酔が効いてるのか、痛みはなくただ引っ張られるのを感じながら明日からのことをぐるぐると考えていた。

「痛くなかったでしょ?倒れちゃったから今日は泊まって明日以降で検査するからね。」

そうなのか。仕事休みか。連絡しなきゃな。

「パートナーさんきてるよ。今よんでくるね」

メガネがなく歪んだ視界ではお医者さんも看護師さんもよく見えない。

「わかりました。」

僕はそう答えるのが精一杯だった。

「今日入院だって。俺明日休みだからさ、必要なもの持ってくるよ。なんかある?」

「僕のメガネ…」

「メガネは折れたって。サブあるなら持ってくるけど、どこにある?」

「わかんない」

「じゃ実家に頼んで。」

「とりあえず下着と退院時に着る洋服。」

「わかった、車は俺の職場に移動してあるから。」

「ごめん、ありがとう」


「俺は帰らなきゃ行けないから。帰るね」

見えない視界で恋人の背中を見送った。

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