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『異なる剛毅 Ⅱ 』
しおりを挟む白い天井が見える。
身体を動かそうとしても何かが巻き付いているためシミひとつない空を見上げるしかやることがない。
「雲井先生、これはどういう状況ですか?」
目を覚ますと拘束されていた。眠る前に何かしたようなことはない。理由が全くないのだ。
だから、状況説明を求めたのだが、返ってきた声はどこか怯えや呆れが含まれていた。
「……記憶にはないようだな。これを見たまえ」
雲井がタブレットを寝たままの朔天に見せる。
再生が押されると拘束される理由が流れた。朔天の表情が険しくなると叫び出した。それと同時に周囲に亀裂が生まれ広がっていく。数分でそれは終わり警備員が確保した。そこで映像は終わった。
「……隠しカメラは犯罪ですよ?」
「能力者に対する備えは必要なことだ」
恐怖には備えがなければならない。払拭することはできないが、少なからずの安心感を抱くことができる。
そのため、この施設には能力者用の対策がなされている。この場なら如何なる異能犯罪でも証明することができる。
「はぁ、それでこれはどういうことなんですか?」
「君も知っての通り異能は後天的には獲られない。が、それは絶対ではない。君のようにな」
「……みたいですね」
その顔を見て喉元まで来た言葉を変える。
「実は『破壊』の能力者の血液を与えた。異能が病だとすれば『超回復』で異能を消す手立てが立つと思ってな」
「なるほど、それで異能は減るどころか増えた、という訳ですか」
能力を失くすために実験体となるため協力を申し出たのだが、望む結果から遠ざかってしまった。
「ああ、だが《DUAシステム》の完成が近づいた」
天晶朔天のことを研究すれば《DUAシステム》は机上の空論ではなくなり、現実のものとなる日も近い。
◇
現場から離れ、情報収集に走っていた二人は被害者について多くのことを知ることになった。
「どうやら被害者は能力者だったようです」
「能力者による闘いの惨状か?」
「いえ、被害者の異能は脅し程度の物。戦闘を行えるほどの異能ではなかったようです。喧嘩にも使えません」
被害者遠山徹は能力者である。能力を獲得したことでヒーローに憧れたが、強力ではなかったため諦めることになった。しかし、能力が消える訳でもないので、能力を使った微犯罪を行っていた。
ヴィランと言えばヴィランではあるが、そこまでの悪はない。
しかし、和田の報告はそこで終わらなかった。
「指紋をデータベースで調べた結果」和田は間を置いてからゆっくりと告げた。「数日前に死んだ者のようです」
「なに?」
それは誰しも驚いてしまう。信じることはできないことだ。
「どういうことだ?」
小室と同様の疑問を持ったため直ぐに和田は返答する。
「先日、起こった怪人災の被害に会ったそうです。そこで、致死量を超える出血が確認されたため死亡確認がされました」
和田の言い方に小室は眉を顰めた。
「待て、どういうことだ? 遺体は確認されたんだな?」
「いえ、家屋の倒壊が激しく遺体は発見されていません。しかし、ヒーロー・アンバーが現場におり、心臓が貫かれ心肺停止したことを確認したそうです」
「なるほど、な。それ以上の詮索を辞めるよう上層部に圧力をかけられた、ということか」
今のご時世、ヒーローの悪い面を出すことは憚れている。数少ないヒーローを縛り罰してしまえば幾何級数的に増加の一途を辿るヴィランにどう立ち向かえばいいのか。
だから、ヒーローとヴィランとの戦いでの犠牲者は隠せれるのなら隠している。隠せない場合は仕方なく報道に制限を掛けて発しさせている。
「どうしますか?」
「どうもこうもないだろ」
和田の疑問に答える義務があるのだろうか。言わずとも怪しさ満載の現場に向かうに決まっている。
「仮に能力者で裏に隠れられてはまずいぞ」
能力者は国に管理されていなければならない。野良ヴィランなどいては異能犯罪を取り締まることができなくなってしまう。不可能犯罪が不可能なまま事件化できずに終わってしまう。
だから、彼らは能力者を取りこぼしてはならない。
「全ては国の未来のためだ」
上からの圧力にも屈しないその精神には正義を遂行する力強い意志が込められていた。しかし、そんな小室が能力を獲得できないのは世も末なのかもしれない。
◇
ベットから解放された朔天が目にしたのは驚きの光景だった。
思っていたよりもこの施設は広く、この場所は朔天も歩いたことがない区域だった。
そこにいるのは人。正確に言えば、能力者。
彼らが悪いことをした、という訳ではないだろうが、社会にとって悪影響を及ぼす可能性がある者たちなのだろう。
彼らの表情をマジックガラス越しに見ても、笑顔だった。嫌々ここに住んでいる訳ではないようだ。
「彼らは一体なんですか?」
答えは解っていても口にして、雲井から直接話しを聞きたかった。
「科学者にとって能力者は新技術開発の材料でしかない。もしも壊れ使えなくなれば新たな者を用意すればいい」
「雲井先生も、ですか?」
朔天は違うとわかっている。彼らの顔を見れば、彼らに不安という文字はない。越えてはならない線を越える人物ではない。
「いや、私は異能を発現させることのみを目的としている。特定の異能に絞ると難しいからな」
「なるほど、して、どうして収容を?」
「資金獲得とモルモットだ」
「……はぁ」
そこはわからなかった。
「能力は科学では証明し切れない点が多い」
朔天ことからもわかるように、能力者を科学的に証明することはできていない。そんな低体温で生きているのかが全くわからない。
「だから、能力を究明すれば新たな発見ができる。現に、能力を追求したことで巨万の富を築いた者がいる。ここでは軍事利用といったところまではいかないが、日常生活の向上なら貢献している」
能力者をそのまま兵器として使用しては効果が期待できないことが多い。だから、能力を調べ上げ洗いざらいにしたことで新兵器を開発することができた。それによって、軍事バランスに亀裂を与えた国がある。
この国としても、兵器開発に特化したいが、外交上の問題でそれは叶わない。だからか、そこまで無理なオーダーが入らない。
「賭け要素が高い今の《DUAシステム》では能力の発現を100には出来ん。が、このまま研究も進めば数年で《DUAシステム》は完成する。それから特定の能力を獲得だからな。それを考えれば資金は幾らあっても足りない」
「そうですか」
研究についてはわからないが、途方もない時間とお金が掛かるということは理解できたつもりだ。
それから当たり障りのない会話が続いた時、ふとひとりの少年が朔天の視線に止まった。
「彼は……何をしているんですか?」
足を止め視線を一点に留めて尋ねた。バツの悪そうに表情を変えて雲井は告げた。
「それは本人に聞くのが一番だ」
雲井は彼のことを聞いている。しかし、それを他者に教えてしまっていいのか、それは判断しかねることだった。
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