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第16話 虚
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「振り出しに戻ったって感じ?」
「いや、そもそも始まってすらなかったんだよ、僕たちはまだ何もしてないに等しい」
「ったく、これだから・・・世の中間違ってるよなぁ」
僕たちは思い思いに言葉を並べていたがお互いの顔は見ていないし側から見たらそれぞれが独り言を言っているように思われても不思議ではないような光景だっただろう。これほど見事に出鼻をくじかれると踏み出そうとした足を再び出すのが億劫になってしまう。驚きと落胆に苛まれる中で僕たちの空気は虚、そのもののように見える。しかし冷静に考えてみるとこれほどのことで気が滅入っているようではダメなのだろう。実際僕たちは何も考えていないし何もしていない。ただ、賀茂に促されるがままに一つの糸口を解こうとしただけだ。きっとその解は違っていたのだろう、最初から間違っていたのだ。賀茂はこうなることがわかっていたのだろうか。やはりあの男、何を考えているかわからない。ただ、簡単には言葉にできない悔しさにも似たものが僕の中で徐々に湧き上がっているのを感じていた。
「存在しない人を探す理由って何だと思う?」
いつの間に飲み終わっていたのかもわからないアイスコーヒーが入っていた空のグラスを眺めながら僕は呟いた。
「え?何?」急に質問をされたことに一呼吸おいて気付いた瀬奈がか細い声で言う。
「何か引っかかるのか?」小吉も何か考えていたのだろう、特に驚きもせずに返してくる。
「引っかかると言うか、変だよ。依頼者は間違いなく佐々木里美という人物を探して欲しいとあの事務所に依頼をしたんだと思う。そしてその情報と大学が僕たちと同じ、ということを賀茂さんは僕たちに教えた。それは紛れもない事実だと思う。でも、実際には大学にそんな人は存在するしていなかった。間違っているとしたらどこだろうって思って、僕にはどこも間違っているようには見えない」
「依頼者が嘘の情報を教えていたら?」小吉が鋭く言う。
「それは考えられない、と思う。そんなことをしたら探せなくなるのは依頼者もわかるだろうし、メリットがないわ」瀬奈が腕を組みながら話す。
「じゃあ、依頼者が佐々木里美だと思っている人が、実は全く別の名前だったとしたら?」僕は適当に思いついたことを口にする。これが意外にも二人の琴線に触れたらしい。
「一度もどって確かめてみようか」小吉が立ち上がった。
「そうだね、何なら依頼者に会えないかしら。直接話した方がわかりやすい気がするし」瀬奈も机に置いていたスマホを鞄にしまいながら言った。僕も流れに沿って鞄を肩にかけて立ち上がった。
「さくら」を出た僕たちは事務所に足を向けて歩き出した。
「そう言えば、小吉はどうして佐々木里美が文学部だって思ったんだい?」ずっと不思議に思っていたが驚きのあまり忘れていたことを思い出して聞いてみた。
「僕と小吉は同じ法学部だろ?瀬奈は経済学部だ。僕たちは佐々木里美という名前を聞いてもピンとこなかった。瀬奈もそうだろ?だから僕たちと同じ学部ではないような気がしたんだ。そして僕たちが通うキャンパスにはあと社会学部と文学部があるだろ。文学部の方が人数が多いから、当たるかなって思って」少しニヤニしている小吉はゲームコーナーのメダルゲームでもやっている少年のように見える。
「要するに、当てずっぽうってこと?」瀬奈が呆れたように聞いた。
「まあ、半分はね、半分は推測だ」小吉が両腕を掌が上になるようにあげて答える。
「よくもそれで考えがある、なんて言えたもんだね」僕がいつものように軽口を叩く。
「これも立派な考えだろ、それに作戦自体はうまくいった。結果は惨敗だったけどな。俺の作戦なんてぶっちゃけどうでも良かったよな、こうなると。」
「いやまあ、しないよりはマシだったと思うよ」僕は精一杯フォローしたがそもそも何も考えていなかった僕からするとフォローするのも違う気がした。
気がつけば太陽はほとんど見えなくなっており、薄く長く伸びた3つの影が僕たちの前に横たわっていた。
「いや、そもそも始まってすらなかったんだよ、僕たちはまだ何もしてないに等しい」
「ったく、これだから・・・世の中間違ってるよなぁ」
僕たちは思い思いに言葉を並べていたがお互いの顔は見ていないし側から見たらそれぞれが独り言を言っているように思われても不思議ではないような光景だっただろう。これほど見事に出鼻をくじかれると踏み出そうとした足を再び出すのが億劫になってしまう。驚きと落胆に苛まれる中で僕たちの空気は虚、そのもののように見える。しかし冷静に考えてみるとこれほどのことで気が滅入っているようではダメなのだろう。実際僕たちは何も考えていないし何もしていない。ただ、賀茂に促されるがままに一つの糸口を解こうとしただけだ。きっとその解は違っていたのだろう、最初から間違っていたのだ。賀茂はこうなることがわかっていたのだろうか。やはりあの男、何を考えているかわからない。ただ、簡単には言葉にできない悔しさにも似たものが僕の中で徐々に湧き上がっているのを感じていた。
「存在しない人を探す理由って何だと思う?」
いつの間に飲み終わっていたのかもわからないアイスコーヒーが入っていた空のグラスを眺めながら僕は呟いた。
「え?何?」急に質問をされたことに一呼吸おいて気付いた瀬奈がか細い声で言う。
「何か引っかかるのか?」小吉も何か考えていたのだろう、特に驚きもせずに返してくる。
「引っかかると言うか、変だよ。依頼者は間違いなく佐々木里美という人物を探して欲しいとあの事務所に依頼をしたんだと思う。そしてその情報と大学が僕たちと同じ、ということを賀茂さんは僕たちに教えた。それは紛れもない事実だと思う。でも、実際には大学にそんな人は存在するしていなかった。間違っているとしたらどこだろうって思って、僕にはどこも間違っているようには見えない」
「依頼者が嘘の情報を教えていたら?」小吉が鋭く言う。
「それは考えられない、と思う。そんなことをしたら探せなくなるのは依頼者もわかるだろうし、メリットがないわ」瀬奈が腕を組みながら話す。
「じゃあ、依頼者が佐々木里美だと思っている人が、実は全く別の名前だったとしたら?」僕は適当に思いついたことを口にする。これが意外にも二人の琴線に触れたらしい。
「一度もどって確かめてみようか」小吉が立ち上がった。
「そうだね、何なら依頼者に会えないかしら。直接話した方がわかりやすい気がするし」瀬奈も机に置いていたスマホを鞄にしまいながら言った。僕も流れに沿って鞄を肩にかけて立ち上がった。
「さくら」を出た僕たちは事務所に足を向けて歩き出した。
「そう言えば、小吉はどうして佐々木里美が文学部だって思ったんだい?」ずっと不思議に思っていたが驚きのあまり忘れていたことを思い出して聞いてみた。
「僕と小吉は同じ法学部だろ?瀬奈は経済学部だ。僕たちは佐々木里美という名前を聞いてもピンとこなかった。瀬奈もそうだろ?だから僕たちと同じ学部ではないような気がしたんだ。そして僕たちが通うキャンパスにはあと社会学部と文学部があるだろ。文学部の方が人数が多いから、当たるかなって思って」少しニヤニしている小吉はゲームコーナーのメダルゲームでもやっている少年のように見える。
「要するに、当てずっぽうってこと?」瀬奈が呆れたように聞いた。
「まあ、半分はね、半分は推測だ」小吉が両腕を掌が上になるようにあげて答える。
「よくもそれで考えがある、なんて言えたもんだね」僕がいつものように軽口を叩く。
「これも立派な考えだろ、それに作戦自体はうまくいった。結果は惨敗だったけどな。俺の作戦なんてぶっちゃけどうでも良かったよな、こうなると。」
「いやまあ、しないよりはマシだったと思うよ」僕は精一杯フォローしたがそもそも何も考えていなかった僕からするとフォローするのも違う気がした。
気がつけば太陽はほとんど見えなくなっており、薄く長く伸びた3つの影が僕たちの前に横たわっていた。
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