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契約破綻までの顛末【5】

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「さっきのは流石に可哀想だったんじゃねーの」

 執務室から逃亡し、医務室で「異常なし」のお墨付きをもらったにも関わらずごねて居座っていると、団長が呆れた顔で入ってきた。

 私はなんだか居心地が悪く、唇を尖らせてそっぽを向く。

「…………べ、別にそんなことはないだろう。私たちは偽装結婚なのだから」

 するとさっきまで私に帰れ帰れとうるさかった医務官のミカコが「ははーん」と言いながら意地悪い顔で振り返ってきた。

「アリーセ、あんたもしかして、まだ夫から好き避けしてるんでしょ」

「す、好き避け……?」

 団長といいミカコといい、異世界から来たものの使う言葉は独特だ。意味がわからず首を傾げている間にも、団長とミカコは異世界人同士で意気投合している。

「あーー好き避けな。それだわ。さすが元同人作家、語彙が豊富だよな」

「うっさいわよユウシ。あんた身近にいながらこんな面白いこと放置してんの?」

「こっちにも色々あんだよ。こいつ素直でまっすぐだから下手なことできねーだろ」

「あー…たしかにね」

「………ドウジンサッカ?」

「こっちの話よ。それよりアリーセ、あんたに頼みたいことがあるの」

 話について行けずポカンとしていたら、ミカコが急に何かを持ってこっちにずんずん近づいてきた。

 なかば押し付けられるように手に持たされたのは、大量のポーションが入った木箱だった。鍛えている私でもかなり重い。

「……ミカコ、これはなんだ?」

「ポーションよ。これを教会の連中に届けにいって欲しいの」

 その瞬間、私は木箱を足元に置いて走って逃走をはかった。

「待て」

 だがその前に団長に首根っこを掴まれてしまい、元いた場所に引き戻される。ぐ…っ本気を出した団長には勝てない!

 私は唇を噛んで拒絶の意を示すためにぶんぶんと首を振った。
 
「嫌だ!」

「子供か」

 ミカコがため息まじりに突っ込んでくるが今の私には全く響かない。

「何故私が運ばなくてはならないんだ!部下に運んで貰えばいいだろう!」

「医務官は治癒術の腕以外はからっきしなのよ。あんた馬鹿力なんだから余裕で運べるでしょ」

「転送魔法で送ればいいだろう!」

「そんなことに魔力つかってらんないでしょ」

「ぐ……っ」

 たしかにミカコが室長をつとめる医務室の人々は多忙だ。……主に私たち騎士団のせいで。一応その自覚がある私は、こう見えてミカコには頭があがらない。

 それでも素直に首を縦に振ることができず拳を握って黙り込んでいると、ミカコが私の手を握り、上目遣いに私を見上げてきた。


「それとも、なに?フェルナンデス家の当主様は、国民からの依頼を無碍にするの?」



 私は目から汗を流しながら木箱を持ち政務室へ走った。



「ふふ、せいぜい焦りなさい、アリーセ」

「………お前意地悪だよな」

「あんたには言われたくないわよ」




 はぁ…はぁ……ここが教会本部か……

 別に急ぐ意味もないのに猛ダッシュをした私は、額の汗をぬぐいながら古い扉を見上げた。

 そういえば本部に来たのは初めてだ。ハルジオンはいつもここで仕事をしているのか……。

 意識した途端、なんだか無性にそわそわした気持ちが湧き上がってくる。

 ………それにしても、どうやって中に入ろうか。まずノックを3回するだろう。その後は?『失礼する』?いや、『失礼します』か。いやしかし夫がいるのに他人行儀すぎやしないか?いやいやでも夫とは偽装結婚で………

 無意識にぶつぶつと呟いていた時だった。


「ねえハルジオン様、どうして私を選んでくれなかったの?」


 突然耳に入り込んできたその声に、私は咄嗟に物陰に身を潜めた。

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