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契約破綻までの顛末【4】
しおりを挟むそれからハルジオンによる領地経営が始まり、私とハルジオンの接触は格段に増えた。
ハルジオンは素晴らしく有能な男だった。彼に経営を任せてから領地はより豊かになり、領民は婿に来てまだ半年ほどしか経っていない彼を強く支持している。
そんな彼の姿を見るたびに私はついつい感心してしまい………気がつくと、何故だかそこに妙な感覚がくっつくようになった。
たとえばハルジオンに笑いかけられると胸がギュンッとなるし、ハルジオンが切ない顔をしているとなんだかなんでもしてやりたくなる気分になる。
病の一種かと思い団長に相談してみると、団長が呆れた表情で盛大なため息をついてきた。
「いや……ええ……?お前さぁ……まじで言ってる……?」
「団長、やはり私は死ぬのか?この間も訓練中、ふと近くを通りかかったハルジオンに笑いかけられて眩暈がしたんだ。しかし医務官はそんな病気聞いたこともないというし………団長のかつて住んでいた世界にはあったか?」
「……………あったよ。つーかこの世界にもあるよ。お前の好きな織田信長もかかった病気だぞそれ」
「な、なんとオダノブナガが!?それは本当か!やはり筋肉の酷使などが影響しているのか……」
「いや、卑弥呼もなったぞ」
「ヒミコもか!?ヒミコは武闘派だったのか!」
「それはしらねえ。………はぁ、あのさぁ、お前それ、恋愛感情だろ」
「…………………レンアイカンジョウ?」
その言葉の破壊力に私の脳はショートした。
レンアイ……まさか、恋愛のことか。恋……?私が恋をしている……?ハルジオンに……?
数秒後、私はガタッと音を立てて執務室の椅子から立ち上がった。
「お、愛の告白でもしにいくのか?」
そしてニヤケヅラで私を見上げてくる団長に、ものの数秒で書いた書簡をわたし、宣言した。
「切腹する!」
結局切腹は止められてしまい、私の苦悩の生活は始まった。
最初は団長のいつもの冗談だと思い込もうとした。だが一度意識した途端、私の彼に対する挙動不審は急激に悪化していった。
これはもう認めるしかない。
私は自分で契約結婚の条件を提示しておきながら、自らその契約に背いてしまったのだ。その事実が恥ずかしくてたまらなかった。
こんなみっともない自分、ハルジオンには絶対に知られたくない。
私はそれ以来、彼を避けるようになった。
朝は新婚の時以上に早く家を出て、日中は彼の職場から一番遠い訓練場で稽古、昼は自宅に帰らず団長の執務室にひきこもり、その後は外での任務を勝手でててがむしゃらに働き、夜が更けるまで事務作業をし、ハルジオンが寝た時間に帰ってきたら、執事長からその日の報告を受け領主にしかできない仕事をする。
団長には呆れた顔で「夫婦なんだから別にそれでいいだろう」と言われたが、ハルジオンは女が苦手なのだ。
私のような女から性的な目で見られていると知ったらきっと嫌に違いない。
私は日がな一日中、常に彼のことを避けながら、常に彼の悲しげな顔が脳裏にちらついていた。
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