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契約破綻までの顛末【2】
しおりを挟む私は強くあらねばならない。
200年続く名家にして、長年王家に仕える騎士を輩出している、フェルナンデス家の唯一の子だからだ。
本来フェルナンデス家の家督は男が継ぐ。だが、我が両親は何故か子宝に恵まれなかった。
親戚一同は理不尽にも母を非難した。非難したってどうにもならないのに、情けないだの出来損ないだの口ばかりを出して、母は病んでいく一方だった。
母を溺愛する父は、仕事も領地もほっぽりだしてずいぶん昔から母にかかりきりだ。
だから私は強くあらねばならない。
12歳で成人してからは、騎士団に入団して、領地経営も手伝って、がむしゃらに働いた。
領地経営の方はからっきしだったが、私は幸いにも武術の才能があったようで、剣の腕はめきめきと成長し、16になる頃には1番隊の副隊長にまで上りつめていた。
女のくせにと陰口を叩いてくる奴は全員力でのした。体が生傷だらけだから嫁の貰い手がないだろうと言ってくる奴がいるが、そもそも結婚する気がないのでどうでもいい。
はずだった。
それは1年前、私が1番隊の隊長に任命された時のこと。
安定した収入減も手に入れ、領民からの支持も獲始めた私は、いざ父から領主の座を継がんと勇んで両親の療養する別荘へと向かった。
私の性別が女だったばかりに人生を壊された人たち。放置され、正直苦労をかけられ育ったが、恨みはなかった。
「父上、私は領主の座を継ぎます」
そう宣言する私を、以前会った時より少しふくよかになった母の肩を抱く父はゆっくりと見上げた。
そして
「認めん」
なんとも理解し難い返事をしたのだった。
「………は?」
我ながら間抜けな声が出た。父はこの話を喜ぶだろうと思っていたからだ。
父とは母が別荘に移ってから片手で数えるほどしか会っていないが、いつも口癖のように「早くお前に跡目を継いでしまいたい」と言っていた。
私はそれが嬉しかった。息子に産まれるべきだった私が、父に期待されているようで。
……なのに、何故。
「……何故ですか。私が、女だからですか」
無意識に出した声は震えていた。物心ついた時からずっと言われ続けてきた言葉なのに、それを父本人から聞かされるのだけはどうしようもなく怖かった。
しかし、父から返ってきた言葉は、私にとって予想外も予想外のものだった。
「ちがう。お前が生涯連れ添う伴侶と結婚するまで認めんと言っているのだ」
「………は?」
2度目の間抜けな声が出た。
意味がわからず数秒ほど考えたが、しかしすぐにその答えに辿り着く。
……ああ、たしかに独身の女騎士が1人で領民を守るのは難しいだろう。それにしてもこの父、長年仕事をほっぽり出しておいてなかなか図太い。
私は呆れたが、父のいう通りいわゆる婚活をすることにした。
子作りなし
同衾なし
恋愛感情は持たない
互いの生活に干渉しあわず
自分のことは自分でやること
その条件にヒットしたのが──教会で上級者治癒術師をしていて、時折宮廷に奉仕にきている、ハルジオン・ナディルだった。
正直こんなモテる男が婚活、それも客観的に見てふざけているとしか思えない私の釣り書きにひっかかるとは思わなかった為、驚いた。
しかし話を聞くと、彼は女性にあまりにモテすぎて女性不信となり、しかし父親に結婚をせかされて困っていたという。
完全に利害が一致した私たちは、なんとその日のうちに婚姻届にサインし、互いの両親に挨拶をし、無事領主となった。
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