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後日談
しおりを挟むこれはその後の話なのだが、私と眼鏡くんは鍋友になった。
え?復縁フラグは?と疑問に思う方もいるかもしれないが、当然しない。私はうじうじした男は嫌いなのだ。
では何故鍋友という関係に収まったのかと言うと、そもそも私たちが婚約していた理由まで遡る。
真面目メガネくんことコーネリウスくんの家は、代々宰相を排出している政治一家。
一方私の家はしがない子爵家…………に、見せかけて、実は代々王家の御庭番をしている忍一族だったりする。
つまり癒着していると非常に都合がいいのである。
「最近めっきり寒くなった」
「コーネリウスくん、モツ鍋とおでんどっちがいい?」
「モツ鍋」
「うーーーーーん………よしおでん」
「何故聞いた」
なんだか今日はみそおでんの気分だ。大根こんにゃく竹輪は勿論もち巾着もいれよう。今日のような寒い日にはきっと美味しいはずだ。
「次はモツ鍋だ」
「じゃああんたが具材買ってきてよ。この前買ってきてくれたお肉美味しかったから、そのお店で」
「わかった」
街をぶらぶらと歩きながら今日の具材を物色する。
鍋とは、寒い外を歩き回ったあと、あったかいこたつと器で冷えた指とお腹をあたためるまでがセットなのだ。
「でもあんたさ、いつまでもこうして私とつるんでると結婚できないわよ」
「別にいいさ。弟もいるいし、すでに甥もいるしな」
「あんたの弟ほんと手早いわよね」
「セシルはどうなんだ?その………もうそろそろしないとまずいと思うのだが」
「私ぃ?しないわよ。親にももう諦められてるし、別に世襲制じゃないしね」
それにいつ死んでもおかしくないし、と呟くと、コーネリウスがびくりと肩を揺らした。前から思っていたが、この男は随分情に熱い。
私は指揮するだけのお気楽御曹司だから戦闘とかで死にはしないけど、やはりお家柄恨まれることは多い。
実際何度か毒を盛られかけたし誘拐されかけたこともある。すべてしごできメイドちゃんたちに防がれたけど。
「…………そうか」
あれから5年。すっかり宰相補佐も板につき、うちのハニトラ部隊にも引っかからないような女性不審体質を手に入れた哀れなコーネリウスくんは、今や真面目メガネくんと呼ぶには失礼なまでに仕上がっている。
きまぐれに社交界に行くと女の子に囲まれ狼狽えている姿が笑える。
思い出し笑いしながら横を向いた私は、横を歩いているはずの男がそこにいないことに気づき、驚いて辺りを見回した。
その男は私から5.6歩後ろに立ち尽くしていた。何故かその表情はひどく曇っている。
な、なんでこの数分でローテンションに。
何か地雷でも踏んだかと珍しく慌てた私は、ふとあることに気がついた。
「あれ?そういえばあんた今日スーツだけど、もしかして仕事だった?」
「……っ」
「あとさっきから気になってたけど、後ろ手に何隠してるの?」
「…………」
コーネリウスくんは黙りこくったまま口を開かない。
首を傾げた私は、久しぶりに一家秘伝の俊足術を使ってひらりと彼の背後に回り込んだ。
コーネリウスくんは驚いてさらに隠そうとするが、遅い。
彼の意外と大きな手の中には、
ベルベットの生地で出来た小箱と、真紅の薔薇の花束があった。
「………」
「………」
好奇心は猫を殺すと言うが、まさにその通りというかなんというか。
その時の私たちはなんともいえない気まずい空気に包まれたのだった。
そして
「………うん、落ち着こう。とりあえずモツ鍋囲んで話し合おう」
「待て、さっきはあああったがもう僕はおでんの口になってしまったんだ。断る」
「ああもうわがままだなぁ!」
「だから君が言ったんだろう!欲しいものは遠慮なく取れって!」
相変わらずくだらない言い合いをしながら、またあのコタツで鍋を囲みに、賑やかに帰路につくのだった。
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