どうせ初夜はないだろうと思って厨房でポテチ揚げてたら

小寺湖絵

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新婚初夜に厨房でポテチ【後】

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「いやーちょうど迷ってたとこだったんですよ。旦那様ポテチ何味が好きです?私はうすしおと青のりが好きで。というかこれ考えた人天才ですよね?でも揚げ物って手間なんですよねー。ポテチを一瞬でつくれる魔道具とかあればいいんですけど。あ、市販のポテチ買ってくれば良いのか。でもやっぱり揚げ物が好きなんですよ。あ、それで旦那さま何味が好きです?」

「…………君は、本当によく喋るな」

 せっかく夫がきたので追加でじゃがいもをスライスしながら話していると、呆れた顔で突っ込まれた。

 答えないということは何でもいいってことかしら?よし、コンソメ味にしよう。みんな好きでしょコンソメ味。

「よく言われますー。お茶会も長引かせちゃうものだからたまに友達にも呆れられちゃって。でもすぐに仲直りするんですよ?私お友達は結構多いんです。あ、明後日お友達とお忍びで城下町に行ってもいいですか?大好きなカフェに新作のドリンクが出たんです」

「そうか」

「よし水気とれた。あ、油はねるので気をつけてくださいねー。あたると痛いしシミの原因になるので」

「君はいいのか」

「あ、私実は聖属性の魔力があって、自己再生のスキルがあるからシミとかあっというまに無くなるんですー。だからほら、傷知らずの超絶美少女でしょ?」

「そうだな」

「やだ旦那様、そこは『自分で言うな!』って突っ込むところでしょ?」

「本当のことだからな」 

「まあお上手。貴方のような方にそんなふうに誉めていただけたら照れてしまいますわ」

「…………君は本当に手強い」

 天ぷら鍋の中にじゅーじゅー揺れるジャガイモを菜箸でつんつんしながら夫と会話するのは変な気分だ。

 夫……アルブレヒト様はこの国で最年少の騎士団長で、とても忙しい方だ。それ故に彼とはお見合いの時以来ほとんどまともに会話したことがない。だからかしら、いつもよりうまく言葉が出てこないわ。

「そういえば随分お早いおかえりでしたけど、大丈夫でしたの?公私問わずご友人とのお付き合いは応援しますと言いましたのに」

「新婚初夜なのだから帰るに決まっているだろう。部下たちもむしろ早く帰れとせかしてくれた」

「あら、お優しい方々ですのね。今度お会いした時紹介してくださいな」

 そんな他愛ない会話をしているうちに、油の中のジャガイモがこんがりときつね色に火が通ってきた。

 そろそろ頃合いだろう。

 私は油の上にぷかぷか浮かんできたポテチをさっさっと軽く油を切り、バットの上に乗せた。次に半分に塩をふり、もう半分にはコンソメを振る。

 そしてうち1枚をつまんだ私は、横にぼけっと突っ立っていた旦那様の口に揚げたてのポテチを差し込んだ。

「っ!」

「はい、完成」

 間抜けな夫の顔を下から見上げたままにっこりと笑うと、何故か夫の顔が耳までほんのり赤く染まった。

 そのまま硬直して動かなくなってしまった夫に小首を傾げると、今度はびくりと肩を揺らしてたじろいでいる。

 この夫のことは正直あまり知らないが、明らかに挙動不審だ。

 もしかして彼、言わなかっただけで、

「好きじゃなかったですか?」

 ポテチ、あんまり好きじゃなかったのかしら……。

 眉を下げそう尋ねると、夫は紅い瞳を大きく見開いた。

 私たちの間にしばらく沈黙が続き、油の中のポテチを焦がしていく。

 何か困らせてしまったかしら。彼が何も答えないものだから、2言目を紡ごうとしたその時だった。
   



「好きだ」



 次の瞬間、私の体は、何かあたたかいものに包まれていた。もちろん油の中ではない。油の中だったら死んでいる。

 そう、私の体は見た目よりも逞しい腕にがっしりと抱きしめられていた。

「……え?………え?」

 衝撃のあまり、私としたことが全く言葉が出てこなかった。反射的に身じろぎをするが、動けば動くほどその腕は私に絡みつき、私の体を締め付けていく。
 


「ずっと言えなかったけど、好きだったんだ────」



 耳元で聞こえたその声は、ひどく切なげに掠れていた。















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