2 / 2
新婚初夜に厨房でポテチ【後】
しおりを挟む「いやーちょうど迷ってたとこだったんですよ。旦那様ポテチ何味が好きです?私はうすしおと青のりが好きで。というかこれ考えた人天才ですよね?でも揚げ物って手間なんですよねー。ポテチを一瞬でつくれる魔道具とかあればいいんですけど。あ、市販のポテチ買ってくれば良いのか。でもやっぱり揚げ物が好きなんですよ。あ、それで旦那さま何味が好きです?」
「…………君は、本当によく喋るな」
せっかく夫がきたので追加でじゃがいもをスライスしながら話していると、呆れた顔で突っ込まれた。
答えないということは何でもいいってことかしら?よし、コンソメ味にしよう。みんな好きでしょコンソメ味。
「よく言われますー。お茶会も長引かせちゃうものだからたまに友達にも呆れられちゃって。でもすぐに仲直りするんですよ?私お友達は結構多いんです。あ、明後日お友達とお忍びで城下町に行ってもいいですか?大好きなカフェに新作のドリンクが出たんです」
「そうか」
「よし水気とれた。あ、油はねるので気をつけてくださいねー。あたると痛いしシミの原因になるので」
「君はいいのか」
「あ、私実は聖属性の魔力があって、自己再生のスキルがあるからシミとかあっというまに無くなるんですー。だからほら、傷知らずの超絶美少女でしょ?」
「そうだな」
「やだ旦那様、そこは『自分で言うな!』って突っ込むところでしょ?」
「本当のことだからな」
「まあお上手。貴方のような方にそんなふうに誉めていただけたら照れてしまいますわ」
「…………君は本当に手強い」
天ぷら鍋の中にじゅーじゅー揺れるジャガイモを菜箸でつんつんしながら夫と会話するのは変な気分だ。
夫……アルブレヒト様はこの国で最年少の騎士団長で、とても忙しい方だ。それ故に彼とはお見合いの時以来ほとんどまともに会話したことがない。だからかしら、いつもよりうまく言葉が出てこないわ。
「そういえば随分お早いおかえりでしたけど、大丈夫でしたの?公私問わずご友人とのお付き合いは応援しますと言いましたのに」
「新婚初夜なのだから帰るに決まっているだろう。部下たちもむしろ早く帰れとせかしてくれた」
「あら、お優しい方々ですのね。今度お会いした時紹介してくださいな」
そんな他愛ない会話をしているうちに、油の中のジャガイモがこんがりときつね色に火が通ってきた。
そろそろ頃合いだろう。
私は油の上にぷかぷか浮かんできたポテチをさっさっと軽く油を切り、バットの上に乗せた。次に半分に塩をふり、もう半分にはコンソメを振る。
そしてうち1枚をつまんだ私は、横にぼけっと突っ立っていた旦那様の口に揚げたてのポテチを差し込んだ。
「っ!」
「はい、完成」
間抜けな夫の顔を下から見上げたままにっこりと笑うと、何故か夫の顔が耳までほんのり赤く染まった。
そのまま硬直して動かなくなってしまった夫に小首を傾げると、今度はびくりと肩を揺らしてたじろいでいる。
この夫のことは正直あまり知らないが、明らかに挙動不審だ。
もしかして彼、言わなかっただけで、
「好きじゃなかったですか?」
ポテチ、あんまり好きじゃなかったのかしら……。
眉を下げそう尋ねると、夫は紅い瞳を大きく見開いた。
私たちの間にしばらく沈黙が続き、油の中のポテチを焦がしていく。
何か困らせてしまったかしら。彼が何も答えないものだから、2言目を紡ごうとしたその時だった。
「好きだ」
次の瞬間、私の体は、何かあたたかいものに包まれていた。もちろん油の中ではない。油の中だったら死んでいる。
そう、私の体は見た目よりも逞しい腕にがっしりと抱きしめられていた。
「……え?………え?」
衝撃のあまり、私としたことが全く言葉が出てこなかった。反射的に身じろぎをするが、動けば動くほどその腕は私に絡みつき、私の体を締め付けていく。
「ずっと言えなかったけど、好きだったんだ────」
耳元で聞こえたその声は、ひどく切なげに掠れていた。
91
お気に入りに追加
22
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません


軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる