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本編
64,バスカルヴィーさん
しおりを挟む「ここにいるという占い師とはどの者だ!」
思わず頬張ってたカツサンドもどきを吹き出しそうになった。バーン、とドアが開いたと思ったら、小さくて小太りのおじさんがそう叫ぶんだもの。服は派手目の装飾が多い物を着てるし、なんか護衛みたいな強面の人引き連れてるからお金持ちなんだろうけど、少し威張りすぎというかなんというか。ギルドにそんな感じで入ってきて大丈夫なんだろうか。
冒険者の人たちは無視してる人も多いけど、顔を顰めてる人もいるし、これ以上何かやらかす前に名乗り出よう。
「恐らく私の事じゃないかと」
「ほう、お前が……」
じろじろと頭のてっぺんから足の先まで見られる。すごい、気持ち悪い。値踏みされるってこんな感じなのかもしれない。
「よし、お前。吾輩のことを占え」
「分かりました。何を占いますか? 健康や金運なども占えますが」
「なんでもよい。さっさと占え」
うーん、予想通りというかなんというか。かなり高圧的だ。ちょっと腹立つ。しかもなんでもいい、なんて言われて占うなんて無理だよ。質問の内容が無いんだし。
「失礼ですがお名前と職業を伺ってもいいですか?」
「吾輩を知らぬというのか? 無知な小娘め。吾輩はバスカルヴィー商会会頭、ディンブルトン・バスカルヴィーその人である」
うん、知らない。多分かなり大きい商会なんだろうけど、関わることなんてないしなあ。まあそれは置いといて。商会なら仕事運を占おうかな。
「ではお仕事について占わせて頂きます」
「おお、わかっておるではないか」
お気に召したようだし、機嫌がいいうちにさっさとやっちゃおう。テーブルに戻って、タロットカードを取り出す。今回はスリーカードがいいかな。バスカルヴィーさんの仕事の今までとこれからは……。
「噂通り奇妙な占いをするのだな」
手元を覗き込まれるけど、気にせずにそのままカードを並べて適当に答える。
「たしかにこのやり方をしてる人は他に見ませんね。結果、出ましたよ」
「何!? もうか!」
「ええ、まあ。私の場合結果を出してから意味を捉えるというやり方なので、完全に終わりって訳では無いですけど」
「詳しいことはわからんが、まだ終わりではないのだな? まあよい、結果を申してみよ」
カイゼル髭を指先でいじりながらバスカルヴィーさんが命令してくる。せかさなくてもいいますよ、まったく。
「今回はお仕事の今までとこれからを占いました。今までは……、失礼ですが結構強引な商売をしてました?」
「ぐっ……。確かにそう言われていたのは事実だ」
あ、あっさり認めちゃうんだ。皇帝の逆位置だったから横暴とか傲慢の意味があるし、怒られるかと思ったけど、商売に必要だったからそうなったって感じなのかな?
「そして現在ですけど、もしかしてあんまり上手くいってませんか?」
「……よいとは言えんな」
「私には商売のことはよく分かりませんが、お一人でどうにかしようとしてはいませんか?」
「そんなことは! ……ないと、言えんことも……ない」
なんだこの人、もしかして結構素直な人なのかな? 私の話もちゃんと聞いてるし、タロットでは独断的とか暴走って出てるけど、あんまりそんな感じはしない。
もしかして仕事のことで占ってるから人柄とか抜きで、完全に仕事について占ってることになってるのかな。前はある程度人柄も関係してたけど、こっちでは違うみたい。加護が関係してるのかな?
「焦っているのかも知れませんが、あまり一人で抱え込んだりしない方がいいですよ。このままだと今の頑張りも徒労に終わってしまうかも知れませんよ」
「そう、占いには出ているのか?」
「そうですね、今の時点ではですけど」
「そうか……」
目を瞑って天井を仰ぐバスカルヴィーさん。なんだかものすごく重く受け止めてる……? いやまあ、心を入れ替えるじゃないけど、周りと相談しながらやった方が職場としてはいいと思うし、考えて見ては欲しいけど。
「代金はいくらだ?」
「あ、はい。銅貨三枚です」
「それっぽっちか? ……まあいい、今はそれだけ払おう。占いは結果が出んと価値がわからんからな。では吾輩は帰る」
そう言ってバスカルヴィーさんは護衛の人を引き連れてギルドを出ていった。なんだか面白いおじさんだったな。少しクセが強いけど。
「凄いですね、アンジュさん。あのバスカルヴィー商会の占いをするなんて」
バスカルヴィーさんが帰るタイミングを狙ってたのか、フレミーさんが話しかけてくる。
「あの、ですか?」
「もしかして、本当に知らなかったんですか? 私も会頭を初めて見ましたけど、帝国で今一番伸びている商会ですよ」
へー、そんな商会の人が来たのか。そんな人が訪ねて来るくらいに噂になってるのか……。色物枠だろうけど、私も有名になったもんだ。
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