タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

60,蠢動

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  蝋燭の頼りない明かりが揺らめく屋内。申し訳程度の光度しかない中では、せいぜい手の届く範囲に何かが存在しているのを把握するのが精一杯だ。
  そんな中、ゼーヴィスは迷いなく歩を進めていた。それもそのはず、数える事を諦めるほど何度も通っているのだ。蝋燭の明かりなんて無くとも彼ならばぶつかる事なくここを歩き回ることが可能だろう。

「ゼーヴィス、ただいま参上致しました」

  薄明かりの中でさえ強い存在感を誇る御方の前でゼーヴィスは跪く。

「おかえりなさい、ゼーヴィス。首尾はどうですか?」

  澄んだ鈴のような声がゼーヴィスを迎える。幼さこそ残るものの、包み込むような優しさと、思わず自分の罪を告白してしまいそうになる清廉さを感じさせる。

「申し訳ありません巫女様。実験には成功致しましたが、成功体は全て失いました……」

  歯噛みしたくなるような気持ちで報告するゼーヴィス。彼の敬愛する巫女に成果を捧げるのは当然として、普通以上の成果を挙げることが重要であると言える。しかし、今回の実験では確かにデータこそ取れたものの、目覚ましい成果とまではいかない。巫女に捧げるのには到底相応しくない、不甲斐ないものであるとゼーヴィスは感じていた。

「いいえ、ゼーヴィス。貴方はよくやってくれました。これでまた我々は一歩前へ進むことが出来るのですから」 
「巫女様……!」

  巫女の言葉にゼーヴィスは滂沱の涙を流した。情けない結果であるにもかかわらず、慈悲深くも優しい言葉を巫女様はかけてくださる。そのことがゼーヴィスにとってはこの上ない幸福であった。

「貴方も今回の実験で少し疲れたでしょう。しばらくは休んで、次に備えなさい」
「大丈夫です、巫女様。私はすぐにでも動けます」

  この言葉に偽りはなかった。あの奇妙な召喚獣のような女との戦いで怪我こそ負いはしたが、巫女様のためとあらば身が朽ちるまで働き続けることが出来るつもりであった。

「駄目ですよ、ゼーヴィス。貴方が尽くしてくれるのは嬉しいです。ですが、焦ることはないのですよ。貴方達にはたくさんの時間があるのですから」
「ですが巫女様!  私は貴方様にこそ尽くしたいのです!」
「貴方の気持ちは嬉しく思います。ですが、私は所詮人間の身。貴方のような魔人よりも圧倒的に寿命は短いのです。それに、私たちは我らが父に仕えているのです。その篤い忠心は父に捧げなさい」

  そのとき、ちょうど雲に切れ間が出来たのだろう。ステンドグラスを通し月明かりが部屋の中を僅かに照らす。部屋というには少し広い、長椅子などが並べられていて教会のようにも感じられる場所だった。
  ステンドグラスには目や鼻、口、腕に足など人を形作るパーツが無秩序に、不規則に混ざりあったもの、何人もの人間をこねくり回して出来たような、生き物のなりそこないのようなものが象られていた。それこそが、我らが父と彼らに崇められるものの姿だった。
  見るものの精神を削り取りそうな、おぞましいものであるにも関わらず、ゼーヴィスにはそれが神々しく美しいものであると感じられていた。無論、その父を象った物を通し照らされる巫女は、それ以上に尊く、かけがえのない存在であるとも。

「ゼーヴィス、今は休みなさい。貴方の傷が癒えたころ、再び動いてもらいます。頼りにしていますよ」
「はっ!」

  巫女の言葉を素直に受け止め、ゼーヴィスはその場を後にした。
  一人残された巫女はステンドグラスに向け跪く。

「もうしばらくお待ちください父よ。私は成すべきことを成し、必ず貴方様を……」
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