タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

文字の大きさ
上 下
61 / 97
本編

60,蠢動

しおりを挟む

  蝋燭の頼りない明かりが揺らめく屋内。申し訳程度の光度しかない中では、せいぜい手の届く範囲に何かが存在しているのを把握するのが精一杯だ。
  そんな中、ゼーヴィスは迷いなく歩を進めていた。それもそのはず、数える事を諦めるほど何度も通っているのだ。蝋燭の明かりなんて無くとも彼ならばぶつかる事なくここを歩き回ることが可能だろう。

「ゼーヴィス、ただいま参上致しました」

  薄明かりの中でさえ強い存在感を誇る御方の前でゼーヴィスは跪く。

「おかえりなさい、ゼーヴィス。首尾はどうですか?」

  澄んだ鈴のような声がゼーヴィスを迎える。幼さこそ残るものの、包み込むような優しさと、思わず自分の罪を告白してしまいそうになる清廉さを感じさせる。

「申し訳ありません巫女様。実験には成功致しましたが、成功体は全て失いました……」

  歯噛みしたくなるような気持ちで報告するゼーヴィス。彼の敬愛する巫女に成果を捧げるのは当然として、普通以上の成果を挙げることが重要であると言える。しかし、今回の実験では確かにデータこそ取れたものの、目覚ましい成果とまではいかない。巫女に捧げるのには到底相応しくない、不甲斐ないものであるとゼーヴィスは感じていた。

「いいえ、ゼーヴィス。貴方はよくやってくれました。これでまた我々は一歩前へ進むことが出来るのですから」 
「巫女様……!」

  巫女の言葉にゼーヴィスは滂沱の涙を流した。情けない結果であるにもかかわらず、慈悲深くも優しい言葉を巫女様はかけてくださる。そのことがゼーヴィスにとってはこの上ない幸福であった。

「貴方も今回の実験で少し疲れたでしょう。しばらくは休んで、次に備えなさい」
「大丈夫です、巫女様。私はすぐにでも動けます」

  この言葉に偽りはなかった。あの奇妙な召喚獣のような女との戦いで怪我こそ負いはしたが、巫女様のためとあらば身が朽ちるまで働き続けることが出来るつもりであった。

「駄目ですよ、ゼーヴィス。貴方が尽くしてくれるのは嬉しいです。ですが、焦ることはないのですよ。貴方達にはたくさんの時間があるのですから」
「ですが巫女様!  私は貴方様にこそ尽くしたいのです!」
「貴方の気持ちは嬉しく思います。ですが、私は所詮人間の身。貴方のような魔人よりも圧倒的に寿命は短いのです。それに、私たちは我らが父に仕えているのです。その篤い忠心は父に捧げなさい」

  そのとき、ちょうど雲に切れ間が出来たのだろう。ステンドグラスを通し月明かりが部屋の中を僅かに照らす。部屋というには少し広い、長椅子などが並べられていて教会のようにも感じられる場所だった。
  ステンドグラスには目や鼻、口、腕に足など人を形作るパーツが無秩序に、不規則に混ざりあったもの、何人もの人間をこねくり回して出来たような、生き物のなりそこないのようなものが象られていた。それこそが、我らが父と彼らに崇められるものの姿だった。
  見るものの精神を削り取りそうな、おぞましいものであるにも関わらず、ゼーヴィスにはそれが神々しく美しいものであると感じられていた。無論、その父を象った物を通し照らされる巫女は、それ以上に尊く、かけがえのない存在であるとも。

「ゼーヴィス、今は休みなさい。貴方の傷が癒えたころ、再び動いてもらいます。頼りにしていますよ」
「はっ!」

  巫女の言葉を素直に受け止め、ゼーヴィスはその場を後にした。
  一人残された巫女はステンドグラスに向け跪く。

「もうしばらくお待ちください父よ。私は成すべきことを成し、必ず貴方様を……」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

聖女のおまけです。

三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】  異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。  花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

処理中です...