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本編
57,魔人ゼーヴィス
しおりを挟む魔人は吹き飛びながら体勢を立て直して、地面に轍みたいな跡を作りながらも、倒れたりはせずにこちらに手を向けてくる。炎がダメだったからか、今度は氷の礫を飛ばしてきた。運命の輪で弾こうとするけど、それよりも早くマジマさんが礫に向かって走って行ってしまう。
「こんな物効かないっスよ」
拳で、蹴りで、マジマさんは全ての礫をたたき落としてくれた。
「ご主人はそこで見ててくれて大丈夫ッスよ。くつろいでてくださいっス」
「あ、うん」
さすがにくつろぐのは……。いつ魔人が変なことしてきても対処出来るように準備しておこう。
「なんなのだ貴様はぁ!」
魔人が叫んで腕を振るう。それにあわせて緑色の三日月みたいなのが飛び出した。多分かまいたちみたいな風の刃だと思う。
マジマさんはその風の刃に向けて拳を突き出す。風船が割れるみたいな、パンッ、て破裂音がしたと思ったら、風の刃は消えててマジマさんも無傷だ。
「属性を変えようがなんだろうが、ただ撃つだけじゃあかすり傷一つ負う気は無いっス。そろそろこちらから行くっスよ」
マジマさんはクラウチングスタートみたいな体勢を取ると、魔人に向かって走り出して行った。一瞬で距離を詰めると、そのままの勢いで叩きつけるように飛び回し蹴りを放った。
「舐めるな!」
魔人が腕を振ると、赤紫色のバリアみたいな物が出来てマジマさんの蹴りを受け止めた。すぐに魔人は剣を抜いてマジマさんに振り下ろす。魔人の剣はバリアをすり抜けるみたいだけど、マジマさんにはかすりもしない。
「それはこっちのセリフっスよ」
マジマさんはバリアに向かって拳を叩きつける。ビシッ、とバリアに亀裂が走る。
「もう一丁っス!」
再びマジマさんがバリアを殴りつけるとバリアは粉々に砕け散った。
「化け物め!」
魔人が少し泣きそうな声で叫びながら、マジマさんから距離を取った。まあ、うん。あのバリアはかなり固そうだったのに、殴られただけで割られちゃったんだもんそんな声になるよね。
マジマさんが思ったより強い、というか理不尽な強さで魔人が少し可哀想に思えてきた。多分森の異変の原因というか黒幕だろうし、容赦する気はないけど。
「女の子に化け物とか失礼っスね!」
せっかく開いた距離が一瞬で詰められ、魔人は思いっきり顔に拳を叩き込まれて吹き飛んだ。だらだらと鼻血を出してはいるけど、ダメージはそこまで大きくないみたい。
「ゼーヴィス!」
それでも見た目が結構派手な怪我だからか、レベッカたちと戦ってた人間が駆け寄ってくる。ちょうど吹き飛ばされた方向が近かったみたい。
人間は女の人で、栗色のショートカットにそばかすが特徴的な、女性というか女の子って年に見える人だ。
「貴様っ、名前を!」
魔人が激昂して女の子を睨みつける。女の子は口元を抑えて顔を青くした。まあ、犯人の名前を言うってかなりの失敗だよね。
「申し訳ありません! ですが私!」
「それはもうよい! それより、お前に頼みたいことがある」
魔人がいやらしい笑みを浮かべる。ぞわっ、と背中に悪寒が走る。だめだ、止めなきゃ。
「マジマさん!」
「わかってるっスよ!」
マジマさんが駆け出すけど、その前に魔物が立ちふさがる。レベッカたちがやられたのかと思って確認すると、怪我はしてるみたいだけど無事みたいだ。魔物もかなりの怪我を負ってるみたいだから、多分戦ってる中無理矢理こっちに来たんだろう。もしかするとあのゼーヴィスとかいう魔人が操ったのかもしれない。
「お前、囮になってくれ」
ゼーヴィスが女の子の口に瓶を突っ込む。赤い液体の入った、人を魔物に変えた液体の入った瓶を。女の子が抵抗して暴れるけど、ゼーヴィスはそれを押さえつけて無理矢理飲み込ませる。
液体を飲み干してしまった女の子は、嘔吐きながらゼーヴィスに縋り付く。
「何故、何故ですの! 私は貴方様を!」
「人間風情が世迷言を。お前はただの道具に過ぎん」
「そんな……」
魔人は女の子を振りほどいて立ち上がる。
「ではせいぜい時間を稼げ。お前は無能だったが全てを鵜呑みにして言うことを聞くのは好ましかったぞ」
その言葉に女の子は目を見開いて、大粒の涙を流した。呆然とした顔で、だらりと力なく腕を垂らす。そして、ぼこり、と灰色の魔物のと同じように女の子の背中が、足が膨らんでいく。そして、一度大きく痙攣すると、服を突き破って背中から血に濡れた灰色の翼が生えてきた。
「私の言葉を鵜呑みにする小娘がハーピーになるか。洒落が利いている」
にやにやと笑ってるゼーヴィスに向かって思いっきりサバイバルナイフを投げるけど、あの赤紫のバリアに弾かれた。
ゼーヴィスはすぐに身を翻して走り出す。後を追おうとすると、私の目の前に何かが大量に飛んできて地面を抉った。
上を見上げると女の子が空に浮かんで、いや、飛んでた。灰色と赤色のまだら模様の翼を生やした女の子。足も歪に膨らんで、爪が大きく鋭くなってる。女の子は大きく翼を羽ばたかせると、羽をこちらに撃ちだしてきた。私に当たりそうなのは運命の輪で防いだけど、周りの地面を抉って巻き上がった土煙がゼーヴィスの姿を隠してしまう。
「ご主人、あいつにはもう逃げられたっス。今はこいつを」
「うん、分かってる」
マジマさんに言われて、ククリを構える。
さっきの会話的にこの子は利用されたんだと思う。早く、楽にしてあげないと。
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