タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

48,どろどろ

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「……え?」
「これでこの呪い札は穢れましたね」
「なんてことを!」

  レベッカが女の人に掴みかかるけど、するりと避けて女の人はギルドの外へ出てってしまう。

「アンジュ、大丈夫!?」
「え、あ、うん」

  だめだ、うまく、飲み込めない。私は今占いをしてて、それであの女の人がフラスコを取り出して……、そうだ!

「タロットカード!」

  タロットカードは真っ赤に染まってた。赤い液からは鉄錆みたいな匂いと、鼻にツンとくる匂いが混ざった、胸がむかむかするような嫌な匂いがする。震える手でカードを手に取ると、粘ついた液が糸を引いた。

「あー、ひっでえなあ……。今度は魔物の血か?」
「みてえだな。一体何が目的なんやら」

  魔物の血?  そんなものがかけられたの?  私が怖いもの見たさなんて軽い気持ちで始めたからこんなことになったんだ。ドロドロした気持ちが胸の真ん中に集まっていく。

「いきなりなんだてめえ!  離せ!」

  怒鳴り声に振り向くと、レベッカが男の冒険者の胸ぐらを掴んで持ち上げてた。

「今度は、とはどういうことだ?」
「言葉の通りだよ!  お前こそ知らねえのか!」
「何をだ」
「あの女のしてることだよ!  ギルドで占いをしようとするやつはみんなあいつに嫌がらせをされて占いを辞めるんだ!」

  そんなことが起きてたんだ。だから占い自体に問題はないって言ってたのかな。

「その女は何者だ?」
「それは……!」

  冒険者が口をつぐむ。知らないわけじゃないんだ。知っていて言わないんだ。
  頭の中で、かちり、と何かが切り替わるような感じがした。胸のドロドロが全身を巡って頭の方に登って行くような感覚がする。

「一体なんの騒ぎですか!?」
「ああ……、フレミーさん」

  レベッカと冒険者のやり取りを聞きつけてフレミーさんが出てきた。私のカードの惨状を見て彼女がつぶやく。

「これは!?  また、あの方が……」
「あの方、とは誰ですか?」
「それは……」
 
  フレミーさんも冒険者と同じように黙り込む。ああ、この人もなんだ。別に意地悪ではないんだろう。きっと名前を出すことがはばかられる、身分の高い人間。それが私のタロットに手を出した犯人だ。

「レベッカ、行こう」

  私はバッグから別の布を取り出して、タロットを一枚一枚、血を拭いながら挟んでいく。折れないように、破れないように丁寧に。
  レベッカが手を離すと、冒険者が床に座り込んで咳き込む。彼女も自分のバッグから布を取り出して、タロットの血を拭ってくれる。

「どうするの、アンジュ」
「出来ることはやってみる」

  私の知ってるタロットの浄化方法であの人が言った穢れが落ちるかはわからない。そもそも濡れてしまったタロットがまた使えるのかもわからない。でも何もしないなんてこともできない。

「まずは浄化の道具を揃えなきゃ」

  そして、そのあとは。こうなったのは私の不注意が一番の原因だ。だからこれはただの八つ当たりみたいなものだと思う。でも、占いの道具を穢すということをしてきた人、あの人は許せない。あの人だけは許しちゃいけない。
  私自身を傷つけるのではなく、占いの道具を傷つけたり盗んだりするのではなく、穢す、ということを選んだ。それは占いを知っている人の仕業だと思う。だって、占いをする人にとって、占いの道具はただの道具なんかじゃなくて、ほとんど半身みたいなものだ。心に一番深い傷をつけるために、道具を穢すということをした。それはある程度占いを知っていなきゃできない。
  占いを知っているのに、私や、私の前にここにいた人たちにこんなことをし続けている人だ。必ず見つけ出して後悔させてやる。

「絶対に探し出す」
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