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本編
34,覚悟
しおりを挟む「またなんとも……。だから王宮に目をつけられたくないとか言ってたのか」
「そういうこと……。とりあえず、私は明日にはここをたつよ」
うーん、名残惜しいけどレベッカたちともお別れかあ。今生の別れってわけじゃないだろうけど、やっぱり寂しいな。……強がれればいいんだけど。
かなり急だし、マジマさんがいるからあんまり急がなくてもいいかもしれないけど、のんびりしてて見つかるのも嫌だし仕方ないかな。
「となると……、近くならコルネシア帝国がいいかな。あそこは実力主義だから、あんまり派手に動かなければ目をつけられることもないだろうし」
「じゃあそこに行こうかな。どうやって行くの?」
「セリゼの森を抜けていく形になるね。あの森は王国と帝国の国境を跨いでるから」
そんなに大きい森だったんだ。国境跨いでるにしては警備とか関所とかなかったけどいいのかな?
「馬車とかって通れる?」
「通れるよ。商人とかはセリゼの森の中を通ってくるから。森の外縁部を通る道だから強い魔物は滅多に出なくて安全なんだよ」
なるほど、じゃあマジマさんに頼んでも大丈夫だ。冒険者は国関係なしの仕事らしいから、特に入国のごたごたも帝国で仕事に困ることもないでしょ。
「そんで、その話を聞いたからには直すだけじゃなんなんでな。新しいのを用意した」
ガインさんが容赦なく会話をぶった切って、渡しておいたナイフとは別のものをカウンターに置いた。
片方は今まで使ってたやつと同じ、サバイバルナイフくらいの大きさの片刃のナイフ。もう一つはなんか変な形してる。くの字に折れてて、切先が膨らんでる。
「それはククリって言ってな。切り裂くというよりは叩き切るように使う。ナタとか斧に近いな。そんな感じの使い方をしてるみたいだったからな。こっちのが扱いやすいだろ」
「おお、ありがとうございます」
すごいなガインさん。見ただけでどう使われてたかとか分かるんだ。確かに思いっきり叩きつけるように切ってたから、ククリっていうやつの方がいいかもしれない。
「これは特別硬く作ってるから、峰でも打撃武器になる。扱いづらいし、骨くらいは折れるが相手を殺したくない時は峰を使え」
「そんな、まるで人と戦うみたいな……」
「嬢ちゃん追われる身になんだろ? だったら人と戦うことだってあるだろ。そもそも盗賊とかは相手にしてねえのか?」
そっか、私、人に殺されるし人を殺せるんだ。今まで魔物しか相手にしてなかったし、魔物とか冒険者とか、ファンタジーの、非現実の言葉で深く考えてなかった。私は冒険者になったんだから、魔物を倒すのは当たり前なんだって。
今はファンタジーが現実なんだ。
そう考えた途端、頭の血がさぁって引いていく気がした。足元がぐらぐらして、ちゃんと立ってられない。
「アンジュ大丈夫?」
レベッカが支えてくれるけど、無理やり笑って大丈夫と答えることしかできない。
ああ、少し浮かれてたのかな。普通じゃできない体験をして、普通じゃ会えない人たちと会って、物語の主人公にでもなったつもりだったのかもしれない。実際は凡人以下の加護しかなかったちっぽけな人間なのに。
さっきまで色々平気だったのに、急に怖くなったのが全部から目を逸らしてきた証拠だよね。
「……すまん、人の命がどうとか嬢ちゃんにはまだ早かったかもしれん。まだ冒険者になって日が浅いんだ」
「あ、いえ。こちらこそ、なんかすいません……」
ガインさんに気を使わせちゃったみたい。ほんと、情けないなあ。
「でもな、覚悟はしといた方がいい。自分を守るにも、誰かを守るにも、それは必要だ」
「はい……。ありがとうございます」
そんな覚悟私にできるかな。ただの一般人の私に。
「まあ、しばらくは私にまかせて。対人戦にも多少心当たりはあるから」
「しばらくはって……、レベッカ、もしかしてついてくるの?」
「え、むしろ一人で行こうとしてたの?」
ぽかんとした顔をされる。いや、だって別の国に行くわけだし、国に追われる身なわけだし、ついてくるとは思わないじゃん。
「私たちはパーティなんだから、メンバーが別の国に行くなら私もついて行くよ」
「……そっか、ありがとう」
異世界での初めての友達、レベッカ。彼女を守るとかだったら、私も覚悟っていうのが出来るのかな。
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