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本編
26,キマイラ討伐戦Ⅱ
しおりを挟む私が叫ぶのとヘビが口から液体を出すのは同時だった。ギルさんは槍の石突で地面を突いて跳んだことで、なんとか直撃は避けられた。
液体がかかった地面はじゅうじゅう音をたてながら溶けてる。毒かと思っけど、あれ酸だよね。どれだけ凶悪なことをしてくれば気が済むのこいつは!
「ありがとうアンジュ! 助かった!」
そう言ってもう一度突撃を仕掛けるギルさん。
「なんだ!?」
キマイラはギルさんを無視して、ギルさんを跳び越えて着地する。なんか、……こっち見てる?
耳障りな叫び声をあげながら真っ直ぐにキマイラが突進してくる。やっぱり私の方見てた!
「逃げろ、アンジュ!」
レベッカが私とキマイラの間に踊りこんでくる。キマイラはレベッカにはね飛ばそうとしたのか、頭から突っ込んでいく。
「ぐっ!」
レベッカはキマイラの突進を剣の腹で受けた。踏ん張った足が地面をガリガリと削ってく。
「負けるかぁぁぁぁ!!」
レベッカは雄叫びを上げると、突進の勢いを抑え込んだ。……それどころか少し押し返してる!?
「だああぁぁ!」
レベッカが剣ごとキマイラの顔をぶん殴る。短い悲鳴とともにキマイラが少し怯んだ。
いくらなんでも力強すぎじゃない!? 前は適わなくて弾き飛ばされたんだよね!?
「今だ! 魔法を放て! 魔法の命中と同時に仕掛けるぞ!」
「青き茨よ敵を捕らえよ、ソーンバインド!」
「礫よ全てを打ち砕け、ストーンバレット!」
「集いし水よ刃となりて敵を切り裂け、アクアカッター!」
大剣の人の号令に合わせて、魔法がキマイラに飛んでく。周りを囲んでた人たちも雄叫びをあげて突撃してった。
地面から飛び出した茨がキマイラに巻きついて地面に縛り付ける。
「メエエェェェェ!」
キマイラの背中のヤギが叫ぶ。するとみるみるうちに茨は枯れ、ほかの魔法も次々に打ち消されてく。
「魔族でもない魔物がアンチスペルを使うなんて! そんなのありかよ!」
石礫の魔法を使った人が叫ぶ。確かにあんなの反則だよ! あれじゃ魔法使いの人はほとんど戦力になれない。
「怯むな! 風魔法を使える者は辺りにある石を飛ばせ! 前衛は複数で同時にかかれ!」
大剣の人が檄を飛ばすと、狼狽えかけた人たちもすぐに気を引き締めてキマイラに向き直る。やっぱりすごいなあの人、あの人がいるからここまでもってるんだろうな。
「はあぁぁ!」
レベッカがしかけてった。ギルさんと大剣の人が合わせて別の方向から突っ込んでく。キマイラは爪で大剣の人を吹き飛ばし、尻尾のヘビでレベッカたちを弾く。
「風よ撃ち出せ、エアシュート!」
さっきの命令通り、魔法使いの一人がいくつかの石を風で飛ばす。そのうちの一つが運良くヤギの目に当たって、キマイラが苦しげな声をあげた。
「いけるぞ! このままたたみかけろ!」
そこからは脱落者も出ずに、少しずつキマイラの体に傷が増えていった。みんながいけると思い始めた時、キマイラがジャンプして私たちから距離をとった。そしてまた態勢を低くする。
「酸が来るぞ! 気をつけろ!」
その言葉にみんなが身構えた時、キマイラが喋った。
「……フレイムバースト!」
「なっ!? みんな、にげ……!」
光、音、衝撃。そんなのを感じたと思ったら、私は地面に転がってた。ぼんやりとした視界で周りを見ると、みんな私と同じように地面に転がってる。私以外は誰も意識がないみたいだった。
(レディ! キマイラはまだいるぞ!)
教授に言われて前を見ると、キマイラはゆっくりとこちらに近づいて来ていた。口元が歪んでる。多分笑ってるんだろう。
「悪魔。教授、私を治したあとみんなも治してあげて」
「了解した」
教授が私に触れると、傷もぼやけた視界もすぐに治っていく。
今戦えるのは私しかいないんだ。私がやるしかないんだ。
「力!」
力と勇気を。
「隠者!」
冷静さと相手の弱点を見極める目、そしてそれを攻める方法を。
「私が、相手だ!」
ナイフを二本とも抜いてキマイラへ駆け出す。キマイラは完全に私を舐めきってるみたいで、笑ったままゆっくり歩いてる。油断しきってるのがチャンスだ。一気に仕掛ける!
キマイラの顔めがけてナイフを投げる。簡単に前足で弾かれてしまうだろうけど、それでいい。
「隠者!」
もう一度、隠者のアルカナを発動させる。秘匿、閉鎖性の力。気配遮断で一瞬でも私の姿を見失わせる。
その隙にヤギの目の潰れた側に入り込んで、その勢いのままヘビの尻尾の根元に向かって、思いっきりナイフを振りあげる。
「ギゃアあァァぁ!!」
耳障りな叫び声をあげながらキマイラが前に倒れ込む。このまま一気に!
ジャンプして背中に飛び乗って、ヤギの喉を切り裂く。これで魔法はかき消せない!
後ろに跳んで距離を取りながら次のアルカナを使う。
「魔術師!」
火、水、風、土。四つの魔力を混ぜて創った、オリジナルの魔法。
「エレメント・ストライク!」
白い光に飲み込まれてくキマイラと目が合った。不気味さなんてまったくない笑顔で、ありがとう、って言われた気がした。
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