19 / 97
本編
18,悪魔の力
しおりを挟むギルさんに連れてこられたのは、ギルドから少しお城寄りの、綺麗な街並みの中にある家だった。
「ミリア、今帰った」
ギルさんが声をかけながら入るけど、返事はない。
「入ってそこの椅子に座ってろ。ミリアに話してくる」
そう言ってギルさんは奥の部屋に入っていった。立ってても仕方ないしありがたく座らせてもらおう。
「レベッカはどうする? 話す?」
「私は、いいよ」
「そっか」
合わせる顔がない、そんなことを思ってるんだろうなあ。このまま会わない方が性格的に後悔しそうなのに。
絶対会わせる。というかミリアさんを冒険者として復帰できるようにする。せっかくできた異世界の友達なんだ。ずっと代わりとして見られるのは嫌だ。ミリアさんを助けたいって気持ちはあることはあるけど、やっぱりこっちの気持ちの方が大きい。嫌な子だなあとは思うけど、顔も分からない人をなんの理由もなく全力で助けたい、って考えられるほど私はいい人じゃないからなあ。
そんなことを考えてると、ギルさんが扉を開けてこちらに手招きしてくる。
「ミリアが会うって言ってる。入ってくれ」
部屋はベッドとテーブルが置いてあるくらいの簡素な部屋だった。そのベッドには、顔に包帯を巻いた女の人がいた。顔はほとんど包帯で巻かれてて、左半分が見えるくらい。服は長袖を着てる。左手は足の上に添えてるけど、右の袖は何も入ってない。力なくぶら下がってるだけだ。
「はじめまして。アンジュさん……で良かったかしら? ミリア・ストリッツです」
「はい、アンジュ・イリエです。はじめましてミリアさん」
丸い木の椅子をギルさんがベッドの横に置いてくれる。ギルさんは壁に寄りかかるみたいだ。遠慮なく座って、ミリアさんに話しかける。
「ギルさんとレベッカから事情は聞いてます。私は少し縁があって、今レベッカとパーティを組ませてもらってます」
「ええ、ギルから聞いたわ。レベッカは普段は頼りになるんだけど、たまに周りが見えなくなる時があって危ないから気にしてあげてね」
「あはは、分かります。ちょっと思い込みが激しいというか、一生懸命になりすぎるようなところがありますよね」
「そうなの! レベッカの新しい仲間がちゃんと彼女のことを分かってて安心したわ」
柔らかく笑うミリアさん。この人、強い人だなあ。どれくらい辛いかは想像出来ないけど、自分が大変な時にこんな風に他の人のことを心配して、安心したって笑顔を浮かべるのはなかなか出来ることじゃないと思う。
実際に見てみてわかったけど、私には、というより私のもらった力ならミリアさんを治せる。早速やってしまいたいけど……。
「ミリアさん、ギルさん。今から私がすることを誰にも言わないって約束してもらえますか」
「ええ、わかったわ。約束する」
「あん? 別に構わんが……何をする気だ?」
「ミリアさんを治します」
私が何を言ったのか理解できなかったみたいで、二人が固まる。まあ眉唾物に頼ろうとするレベルの怪我を治すだなんて、何を言ってるんだこいつは状態だろうなあ。
いいや、言わないって言ってたしやっちゃおう。
「悪魔」
私がそう呟くと、ぐにゃり、と私の影が歪む。影はどんどん形が歪になって、やがて裂けるように二つに別れた。完全に私から離れた影が、タールみたいに真っ黒でどろどろとした塊になって浮かび上がった。塊は粘土がこねられてるみたいにぐにぐに動いたあと、一瞬だけ黒く光って私の膝の上に降り立った。
「お呼びかな、レディ?」
「はい、教授。お願いしたいことがありまして」
私の膝の上には、妙に渋い声で話すタキシードを着たヒトデがいた。
「アンジュ、そいつは……一体なんだ?」
ギルさんが訊いてくる。答えようとしたら、教授がギルさんにおじぎ……だと思う。体を少し折り曲げて自己紹介を始めた。
「はじめまして、私はブエル。見ての通り、君たち人間とは違う存在だ。好きなことは人間の精神について考えることだ。教授と呼んでくれたまえ。以後お見知りおきを」
「お、おお……。よろしくな」
10
お気に入りに追加
1,142
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗
神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

聖女のおまけです。
三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】
異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。
花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる