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本編
16,銀の剣
しおりを挟む酒場に移動してきた私たちだけど、とっても気まずい空間が出来た。私は邪魔だろうからと言って二人にしようとしたら。
「ここにいて。お願い」
「当事者が邪魔なわけねえだろうが。座れ」
逃がしてもらえませんでした。でもレベッカもギルさんも全く話さないし、私は事情が分からないから何も話せないしで酒場なのにお通夜みたいな雰囲気になってる。
このままじゃ埒が明かないし、私が話すしかないかあ。
「とりあえず、事情を説明してもらってもいいですか?」
「……自分で説明しろレベッカ。こいつに出会う前と、こいつに出会ってからを。俺と、こいつに」
レベッカは小さく頷くと、ぽつぽつと話し始めた。
「私はアンジュと出会う前、パーティを組んでいたんだ。このギルと斥候のクレイ、魔法使いのミリア、重戦士のガイル、そして私。五人のパーティで銀の剣と名乗っていた」
レベッカとミリアさんが女性で、他の三人が男の人かな。男女トラブル……、って訳じゃないよね。
「ある日、私たちはクエストに出たんだ。いつもの私たちならなんてことのない、簡単なクエストだった。けど、クエストの途中にとんでもない化け物が出てきたんだ。本来ならそんなところに出るはずもない魔物が」
そこで一旦レベッカが黙り込む。何かをこらえるみたいに奥歯を噛み締めてた。ギルさんもレベッカと同じように歯を食いしばって、手が白くなるほど強く拳を握ってる。やっぱり、誰かが……。
「ギリギリだったけど、なんとか戦いにはなってた。けど、ガイルが強烈な攻撃を食らって瀕死になった時、クレイが、逃げたんだ」
あー……、逃げちゃったのかあ。私はまだ死ってことを感じたことはないけど、やっぱり死ぬのが怖かったんだろうな。仲間を見捨ててでも生きたい、っていうのはちょっとよく分からないけど。
「その結果、前線が崩れた。私は剣士だけど、持っている加護は闘士の加護だ。剣の扱いが長けてるわけでも、身体能力が高い訳でもない」
「……俺も同じようなもんだ。槍士の加護はあるからレベッカより多少ましって程度だ。戦い自体、守護者の加護を持っていたガイルがいたからこそなんとか凌げていたようなもんだしな」
うーんと、守ることが得意なガイルさんがやられちゃったから、魔物の攻撃に耐えられる人がいなくなったってことか。色々加護の名前も出てきたけど、覚えられる気がしないし、続きを聞こう。
「そのあと、私とギルは吹き飛ばされ、魔物はミリアを狙った。ミリアはひどい……ひどい傷を負った」
「腕と、顔にな。どっちも一生ものの傷だ。だが、それだけですんでよかった。ガイルの命のおかげだ」
「じゃあガイルさんは……」
私が訊くと、二人とも悔しそうな顔で小さく頷いた。亡くなったのか……。二人の話からして、ミリアさんをかばってって感じだよね。
輪廻転生がこっちにあるかわからないけど、ガイルさんの次の人生が素晴らしくなりますように。管轄外な気がするけど、お願いしますリュウセン様。
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