5 / 97
本編
4,アンズです
しおりを挟む薄暗い路地裏。ホコリ臭いというかかび臭いというか、なんとも言えない臭いがほんのりする場所に私は今います。
「とりあえず荷物全部置いてきな」
そうです、まさにカツアゲです。異世界でもあるんだね! カツアゲというより強盗かな!
世紀末みたいな格好をした三人に絡まれて、リーダーっぽいモヒカンにちょっと刃こぼれしたナイフを向けられてる。見た目は完全にギャグだけど、笑うわけにはいかない。笑ったら絶対この路地裏はスプラッタな現場になる。私のいろいろで。
「マイ、面倒だ。力ずくで奪えばいいだろう」
「黙ってろドゥ。城から出てきたんだ、うまく使えば人質に使えるだろ」
「そうすりゃもっと金が入るってことだ。流石だぜ」
「よせよアリー。照れるじゃねえか」
思いっきり吹き出す私。無理、耐えられない。テンプレ過ぎる小物台詞の後にマイとドゥとアリー。まいどあり! だめだ、お腹痛い。しかもモヒカンとスキンヘッドと七三分け。なんで二人はちゃんと世紀末なのに一人だけきちっとした髪型なの! お約束通りがりがりの長身とマッチョの巨体に私より小さくて太ってる人の三人組。全てがテンプレで構成されている。
「何がおかしいんだてめえ!」
笑う私に恫喝するマイ。もう全く怖くない。面白さの方が勝ってる。モヒカンが揺れてるのが無性に面白い。ダメだつぼった。
「こいつ、舐めてるな」
ドゥが拳を振り上げる。私の顔くらいありそうな拳骨が迫ってくるのが見えて、流石に笑えなくなって強く目をつぶった。
ドガッっと、鈍い音が聞こえた。あー、人って殴られた時こんな音するんだなあ。今から謝れば命は助けてもらえるかなあ。いや、私殴られてないよ。痛くないし。
「何しやがんだてめぇ!」
目を開けると、目の前に鎧を着た人が立っていた。
「下衆を殴っただけだ。こんな子供に大して三人がかりとは情けない」
マイの後ろあたりにドゥが倒れてるのが見える。この人自分より一回り大きい人を殴り飛ばしたのか。すごい、喧嘩の神の加護とかついてるのかな。あるのか知らないけど。
「てめぇ……、覚えてやがれ!」
またテンプレだ! ここまで来るとちょっと感動する。ちゃんとドゥを担いで回収してるし。
「怪我はない?」
「あ、はい。助けてくれてありがとうございました」
鎧の人にお礼を言う。少年みたいな声で、髪もショートカットだし、力も強いみたいだし、私より頭二つ分くらい大きいから男の人かと思ったけど、この人女の人だ。振り返ったからわかったけど、うん。その、でかい。上は鎧で覆われてるけど、下側は服というかアンダーウェアというか、ピッタリしてる。してるんだけど、その、布がね、挟まってる。戦う時すごい邪魔そう。
「……あまり見つめないでくれるか」
「あ、ごめんなさい」
思いっきり見てるのがバレた。恥ずかしかったみたいで少し顔が赤くなってる。めちゃくちゃ美人だなあ。髪は紺色かな、黒に近いけど青っぽい。切れ長の目で目尻に泣きボクロがある。
「私はレベッカ。君は?」
「杏子です」
「アンジェ?」
「アンズ、です」
「アンジュ?」
「アンジュでいいです……」
「すまない……」
なんとも言えない沈黙。気を取り直して宿屋を探さなきゃ。寝る場所欲しい。
「えっと、レベッカさん。助けてくれて本当にありがとうございました。いつかお礼をします」
「いや、礼なんていいよ。私は当然のことをしたまでだから」
騎士みたいだなこの人。強くて人間が出来てる。
「そんなことより、これからどこかに行くの?」
「あ、はい。宿屋を探そうと思いまして」
「宿屋? 子供一人で旅をしてるの? 親は?」
「親は……いません。一人で生きていかなきゃいけなくなったので、とりあえず寝床と仕事を探そうと思いまして。まずは寝床です」
すっごい憐れなものを見るような目をされた。いやまあ、なんか凄い悲劇の主人公みたいな感じだとは我ながら思ったけども。親は向こうの世界にいるし嘘じゃない。一人で生きていかなきゃなのもそうだし。あれ、思った以上に人生ハードモードなのでは?
がばっ、と突然レベッカさんに抱きつかれる。
「大変なんだな。心配しなくていい。これから私が面倒をみよう」
「え! それは悪いですよ!」
「遠慮しなくていい。無理しなくていいんだ」
「いや、無理とかじゃなくですね!」
私を抱き上げ、レベッカさんはそのまま歩き出す。じたばた暴れてみるが、びくともしない。
「私の泊まっている宿屋に行こう。落ち着いたらこれからのことを話そう」
「ますレベッカさんが落ち着いて!?」
必死の抵抗虚しく、そのままレベッカさんに運ばれていく。もう宿屋に連れてってくれるならそれでいいかな……。
10
お気に入りに追加
1,142
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗
神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

聖女のおまけです。
三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】
異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。
花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる