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本編
3,放り出されました
しおりを挟むガシャーン、と背中側で鉄柵が閉じる。はい、お城を追い出されました。
どうやら占術の神様はハズレもハズレ。大ハズレの神様だったみたいで、その神様の加護しかもってない私はメイドとして雇うことすらしたくないレベルの落ちこぼれだそうです。今の話? メルドさんから、いや、メルドのじじいから言われました。優れた加護を持つ者しか選ばれし加護を持つ者に近づくことは許されないとかなんとか。兵士は流石に無理だから我慢してるそうだけど、お城にいる他の人はみんないい加護を持ってる人だそうです。これを私だけ別の部屋に通していうんだから性格が悪い。
そんなこんなで、実際言われたけどクズな加護しか持たない私は早々に城を出ろとのことで。慈悲でこの世界の服を何着かと背負い袋、銀貨五枚。あとナイフとパンと干し肉、水筒。それをやるからどこぞで好きに生きろと言われ現在に至る。バッグは無くなってるし、持ち物と言えば制服のポケットに何故か入ってたタロットカード。あとは生徒手帳と折りたたみのクシ。これから先あんまり役に立ちそうにないけど、占いができると思えるのは割と心の支えだ。
「とりあえずナイフを売ろう」
もらったナイフだけど、装飾がゴテゴテしてる。鞘に無駄に金の蔦みたいなのついてるし、柄も鍔も金だし宝石みたいなのも嵌ってる。こんなの使ってたらお金持ってそうだって狙われるのがファンタジーの定石。本当だったらこれを渡すつもりはなかったんだろうけど、荷物を用意してくれたメイドさんがすごい憐れんだ視線を向けてきてたからきっと彼女がやってくれたんだろう。ありがとうメイドさん。
街のど真ん中にお城があるみたいだから、とりあえず街には来れたけど武器屋ってどこだろう。近くの屋台のおばちゃんに聞いてみよう。
「すいません、武器屋ってどこにありますかね」
「あんた、まだ子供だろう? 武器屋に何しに行くんだい?」
「お使いみたいなもんです」
「そうかい、手伝いなんてえらいね。武器屋ならこの先の通りを右に曲がりな。しばらくすると剣の看板が見えてくるよ。あとこれでも食べながら行きな、あんた細いから、早く大きくおなり」
パンに鶏肉みたいなのを挟んだ物を渡され、頭を撫でられる。得した気分で嬉しいけど、これ小学生とかの扱いじゃないか? 複雑すぎる。
おばちゃんにお礼を言って教えられたとおりに歩いてく。鶏肉サンドもどきはちょっと甘めの味付けで、甘じょっぱさが絶妙で美味しかったです。
「ここかな?」
海賊の旗のマークからドクロをとったような、剣が交差してる看板を見つけたから入ってみる。
「お邪魔します」
「邪魔すんなら帰りなァ!」
「はい! ごめんなさい!」
入店時間二秒。いや、なんだ今の。開けたら目の前のカウンターに座ってためっちゃ強面のおじさんに怒鳴られた。お邪魔しますって定番の挨拶だよね? 私何も間違ってないよね?
なんだろう、丁寧にいったのがだめだったのかな。もっと威勢よくいった方がいい? よし。
「たのもー!」
「うちは道場じゃねぇ! 帰りなァ!」
入店時間一秒。記録更新だ。いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。ちょっとテンパりすぎてる。落ち着けー、再トライだ。
「すいません! ナイフを売りたいんですが!」
「おう、分かった。査定するから物を見せな」
正解だった! 思わず小さくガッツポーズを取っちゃう。こんなことしてる場合じゃないや。また追い出されそうになる前にナイフを渡さなきゃ。あとおじさん、怖いからこっち見つめるのやめて欲しいな。その左目の爪痕? みたいな傷はいったい何につけられたのよ。
「これなんですけど」
「……お前どこでこれを手に入れた?」
「怖いから睨まないでください! 貰ったんですよ、餞別みたいな感じで。でも、そんなごてごてしてるの使いづらそうだし、もっとシンプルなのが欲しいです」
「おう、すまん。なんとも信じ難い話だが……、まあいいだろう。嘘じゃあ無さそうだからな。売るとしたら金貨三枚と銀貨七枚ってところだな」
あれ、このおじさん怖いけどいい人? 失礼なこと言っちゃったはずなのに怒らない。いや、怒りのツボが変な人?
とりあえずナイフ買ってくれるみたいだから売っちゃおう。多分適正価格だし。
「じゃあその金額でお願いします」
「おう。ナイフもうちで買ってくか?」
「あ、はい。見せてもらってもいいですか?」
「そっちの壁のが戦闘用。その下の机のが普段使い用だ」
そう言っておじさんはお店の奥に入ってく。ナイフって戦闘と普段使いで種類違うのか。でもここにあるのサバイバルナイフだよなあ。ノコギリみたいなのついてるし。普段使い用に置いてるけど完全に武器じゃん。一本だけでいいやとか思ってたけど、二本必要かなあ? 戦う予定は今のところないけど、護身用として持つべき? サバイバルナイフみたいなのを戦闘用と普段使いのどっちにも使う?
「決まったか?」
「あ、はい! これとこれで!」
突然声をかけられて思わず適当に指さしてしまった。さっきのサバイバルナイフみたいなのと、先が両刃になってて、少し反りがあるの。両方とも三十センチはありそう。もっと大きいかな? 私こんなの使いこなせるんだろうか。
「なんでその二つを選んだ?」
「なんとなくです」
ほう、みたいな顔やめて! 本当は適当に選んだだけなんです!
「そいつらは合わせて金貨一枚と銀貨五枚だ。買うか?」
「買います」
「じゃあまずは金貨と銀貨を二枚だ」
お金が入った小袋を手渡される。中を見るとおじさんの言った通り金貨と銀貨が二枚ずつ入ってた。
「こいつはおまけだ。持ってきな」
ドン、と革のベルトがカウンターに置かれる。なんでこんなのくれるんだろう? というか必要なのかな?
「不思議そうな顔すんじゃねえよ。お前どこにナイフ持つ気だ」
「このバッグに……」
「いざって時にすぐ抜けなくてどうする。そのための武器だろうが」
ド正論です。はい。お言葉に甘えてもらっちゃおう。ベルトは腰の後ろに一本と、左右どちらかに一本つけられるようになってた。後ろは右手で抜けるようにして、もう一本は左手で抜けるように右側につける。左側には取り外しができる小さいポーチがついてる。ナイフに塗る毒とか、傷薬とかを入れるポーチらしい。おまけっていう言葉の通り、このベルトはただでくれるんだって。お得だね。
「ありがとうございました」
「いいってことよ。刃こぼれしたり折れたりしたらまた来な。俺はガイン。ガインの武器屋って言えば大体のやつが分かる」
改めてガインさんにお礼を言ってお店を後にする。結論、顔怖いけどいい人。ナイフがダメになったらまた行こう。
次は宿屋を探そう。寝床を確保してないとそこら辺の道端で寝るなんて事になりそうだしね。ベッドが欲しい。よし、行くぞー。
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