4 / 97
本編
3,放り出されました
しおりを挟むガシャーン、と背中側で鉄柵が閉じる。はい、お城を追い出されました。
どうやら占術の神様はハズレもハズレ。大ハズレの神様だったみたいで、その神様の加護しかもってない私はメイドとして雇うことすらしたくないレベルの落ちこぼれだそうです。今の話? メルドさんから、いや、メルドのじじいから言われました。優れた加護を持つ者しか選ばれし加護を持つ者に近づくことは許されないとかなんとか。兵士は流石に無理だから我慢してるそうだけど、お城にいる他の人はみんないい加護を持ってる人だそうです。これを私だけ別の部屋に通していうんだから性格が悪い。
そんなこんなで、実際言われたけどクズな加護しか持たない私は早々に城を出ろとのことで。慈悲でこの世界の服を何着かと背負い袋、銀貨五枚。あとナイフとパンと干し肉、水筒。それをやるからどこぞで好きに生きろと言われ現在に至る。バッグは無くなってるし、持ち物と言えば制服のポケットに何故か入ってたタロットカード。あとは生徒手帳と折りたたみのクシ。これから先あんまり役に立ちそうにないけど、占いができると思えるのは割と心の支えだ。
「とりあえずナイフを売ろう」
もらったナイフだけど、装飾がゴテゴテしてる。鞘に無駄に金の蔦みたいなのついてるし、柄も鍔も金だし宝石みたいなのも嵌ってる。こんなの使ってたらお金持ってそうだって狙われるのがファンタジーの定石。本当だったらこれを渡すつもりはなかったんだろうけど、荷物を用意してくれたメイドさんがすごい憐れんだ視線を向けてきてたからきっと彼女がやってくれたんだろう。ありがとうメイドさん。
街のど真ん中にお城があるみたいだから、とりあえず街には来れたけど武器屋ってどこだろう。近くの屋台のおばちゃんに聞いてみよう。
「すいません、武器屋ってどこにありますかね」
「あんた、まだ子供だろう? 武器屋に何しに行くんだい?」
「お使いみたいなもんです」
「そうかい、手伝いなんてえらいね。武器屋ならこの先の通りを右に曲がりな。しばらくすると剣の看板が見えてくるよ。あとこれでも食べながら行きな、あんた細いから、早く大きくおなり」
パンに鶏肉みたいなのを挟んだ物を渡され、頭を撫でられる。得した気分で嬉しいけど、これ小学生とかの扱いじゃないか? 複雑すぎる。
おばちゃんにお礼を言って教えられたとおりに歩いてく。鶏肉サンドもどきはちょっと甘めの味付けで、甘じょっぱさが絶妙で美味しかったです。
「ここかな?」
海賊の旗のマークからドクロをとったような、剣が交差してる看板を見つけたから入ってみる。
「お邪魔します」
「邪魔すんなら帰りなァ!」
「はい! ごめんなさい!」
入店時間二秒。いや、なんだ今の。開けたら目の前のカウンターに座ってためっちゃ強面のおじさんに怒鳴られた。お邪魔しますって定番の挨拶だよね? 私何も間違ってないよね?
なんだろう、丁寧にいったのがだめだったのかな。もっと威勢よくいった方がいい? よし。
「たのもー!」
「うちは道場じゃねぇ! 帰りなァ!」
入店時間一秒。記録更新だ。いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。ちょっとテンパりすぎてる。落ち着けー、再トライだ。
「すいません! ナイフを売りたいんですが!」
「おう、分かった。査定するから物を見せな」
正解だった! 思わず小さくガッツポーズを取っちゃう。こんなことしてる場合じゃないや。また追い出されそうになる前にナイフを渡さなきゃ。あとおじさん、怖いからこっち見つめるのやめて欲しいな。その左目の爪痕? みたいな傷はいったい何につけられたのよ。
「これなんですけど」
「……お前どこでこれを手に入れた?」
「怖いから睨まないでください! 貰ったんですよ、餞別みたいな感じで。でも、そんなごてごてしてるの使いづらそうだし、もっとシンプルなのが欲しいです」
「おう、すまん。なんとも信じ難い話だが……、まあいいだろう。嘘じゃあ無さそうだからな。売るとしたら金貨三枚と銀貨七枚ってところだな」
あれ、このおじさん怖いけどいい人? 失礼なこと言っちゃったはずなのに怒らない。いや、怒りのツボが変な人?
とりあえずナイフ買ってくれるみたいだから売っちゃおう。多分適正価格だし。
「じゃあその金額でお願いします」
「おう。ナイフもうちで買ってくか?」
「あ、はい。見せてもらってもいいですか?」
「そっちの壁のが戦闘用。その下の机のが普段使い用だ」
そう言っておじさんはお店の奥に入ってく。ナイフって戦闘と普段使いで種類違うのか。でもここにあるのサバイバルナイフだよなあ。ノコギリみたいなのついてるし。普段使い用に置いてるけど完全に武器じゃん。一本だけでいいやとか思ってたけど、二本必要かなあ? 戦う予定は今のところないけど、護身用として持つべき? サバイバルナイフみたいなのを戦闘用と普段使いのどっちにも使う?
「決まったか?」
「あ、はい! これとこれで!」
突然声をかけられて思わず適当に指さしてしまった。さっきのサバイバルナイフみたいなのと、先が両刃になってて、少し反りがあるの。両方とも三十センチはありそう。もっと大きいかな? 私こんなの使いこなせるんだろうか。
「なんでその二つを選んだ?」
「なんとなくです」
ほう、みたいな顔やめて! 本当は適当に選んだだけなんです!
「そいつらは合わせて金貨一枚と銀貨五枚だ。買うか?」
「買います」
「じゃあまずは金貨と銀貨を二枚だ」
お金が入った小袋を手渡される。中を見るとおじさんの言った通り金貨と銀貨が二枚ずつ入ってた。
「こいつはおまけだ。持ってきな」
ドン、と革のベルトがカウンターに置かれる。なんでこんなのくれるんだろう? というか必要なのかな?
「不思議そうな顔すんじゃねえよ。お前どこにナイフ持つ気だ」
「このバッグに……」
「いざって時にすぐ抜けなくてどうする。そのための武器だろうが」
ド正論です。はい。お言葉に甘えてもらっちゃおう。ベルトは腰の後ろに一本と、左右どちらかに一本つけられるようになってた。後ろは右手で抜けるようにして、もう一本は左手で抜けるように右側につける。左側には取り外しができる小さいポーチがついてる。ナイフに塗る毒とか、傷薬とかを入れるポーチらしい。おまけっていう言葉の通り、このベルトはただでくれるんだって。お得だね。
「ありがとうございました」
「いいってことよ。刃こぼれしたり折れたりしたらまた来な。俺はガイン。ガインの武器屋って言えば大体のやつが分かる」
改めてガインさんにお礼を言ってお店を後にする。結論、顔怖いけどいい人。ナイフがダメになったらまた行こう。
次は宿屋を探そう。寝床を確保してないとそこら辺の道端で寝るなんて事になりそうだしね。ベッドが欲しい。よし、行くぞー。
10
お気に入りに追加
1,142
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

文官たちの試練の日
田尾風香
ファンタジー
今日は、国王の決めた"貴族の子息令嬢が何でも言いたいことを本音で言っていい日"である。そして、文官たちにとっては、体力勝負を強いられる試練の日でもある。文官たちが貴族の子息令嬢の話の場に立ち会って、思うこととは。
**基本的に、一話につき一つのエピソードです。最初から最後まで出るのは宰相のみ。全七話です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

聖女のおまけです。
三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】
異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。
花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる