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本編
94,恋人の力
しおりを挟む「ほう……? 人間の小娘。お前、何を言ったのか分かっているのか?」
「ええ。あなたの話を断る、そう言いました」
ルルリカさんが驚いた顔でこっちを見てる。まさか私がダドルの話に乗ると思われてたのかな。
そんなわけないじゃん。こんな、人を人間人間って、名前も呼べないような人やだよ。ルルリカさんはちゃんと名前で呼ぶし。
それに、少しとばっちりみたいな感じだけど、この人何となくゼーヴィスに似てるんだよね。
「……なるほどなるほど。小娘には少し難しかったか。無用な怪我をしたくなければ俺と共に来いと言ったのだ。これなら分かるだろう?」
「あなたの方こそ難しかったですか? 私は断ると言ったんです。自分の身は自分で守れる。そもそも、私が取引をしたのは彼女。あなたじゃありません」
私がそう言うと、ダドルはニヤついたまま目をつぶって腕を組んだ。顔は笑ってるけど、明らかに怒ってる。
「随分、威勢がいいな。……後悔するなよ」
そう言ってダドルは去っていった。と言っても見えるところにいなくなっただけで、月のカードの力でどこにいるかはわかるんだけど。
ダドルは部下たちを引き連れて先回りするみたい。魔物に跨って移動してるのかな。気配が重なって移動してる。
「アンジュさん、良いのですか? これでは条件を守ったとは……」
「はい、もう条件とかはいいです。初対面ですけどあの人嫌いなので企みを潰せたらそれでいいです」
「アンジュはたまに変に頑固になるよね」
レベッカに苦笑いされるけど、そう思っちゃったんだから仕方ない。
「って考えてるんだけど、みんなはそれで大丈夫?」
「あんな啖呵切られたんじゃ嫌とも言えねえだろ」
「ギルの言う通りよ。それに、私もあの魔人には少し腹が立ったから」
「まあ、そういうことだね。でもアンジュ、何か考えはあるの? 向こうは私たちを取り囲めるくらいの数がいたようだけど」
レベッカ凄いな。感覚だけで隠れてた人達の気配感じ取ってたのか。
「大丈夫、一応考えてることはあるよ。ルルリカさん、魔物は倒しちゃってもいいですか?」
「それは構いませんが……」
「それじゃあ行きましょう」
月のカードのおかげで待ち伏せは簡単に避けられるんだけど、追いかけられるのも嫌だから魔物は倒しておきたい。
「ミリア、森のどこに誰がいるかとか分かる?」
「魔法でってことかしら? 残念ながら分からないわ。ある程度の場所が決まってたら探って貰うことは出来るけど、全くわからない状態からは厳しいわ」
「じゃあ森のどこにいるか分かれば攻撃出来る?」
「ええ。場所が分かればね」
それならあいつらの場所をどうにか伝えられると良いんだけど……。そう考えた瞬間、今度はハッキリと恋人のカードが思い浮かんだ。
「ミリア、少し試したいことがあるんだけどいい?」
「ええ、大丈夫よ」
ミリアに何かするっぽいカードだし、本人の了解は得ておかないとね。
「恋人」
アルカナの名前を言うと、赤い光の玉が目の前に現れた。そしてそれは糸みたいに細くなって、私とミリアを繋ぐように胸の真ん中辺りに伸びてきた。
「これは……何かしら?」
「多分こういう事だと思う」
私は右手で自分の左手を掴む。するとミリアが驚いた顔で左手を見る。
「感覚の共有。あと思考の共有が恋人のアルカナの力だと思う」
そう言って頭の中でダドルたちの居場所を思い浮かべる。
「これが思考の共有……。この重なってるのは何?」
「魔物に跨ってるんだと思う。元々は別々だったから。だから、この人たちをこう回り込んで、追いかけてくると思うこの辺りに罠を仕掛けてほしいんだ」
「わかったわ。足止めだけでいいの?」
「うん。ただ、こういう感じの罠にしてもらっていい?」
「ええ、わかったわ」
よし、これで大丈夫かな。これ便利だな。考えただけで詳しく説明しなくても正しく作戦とかが伝わるし。しかも、全部伝わるんじゃなくて伝えようとしただけみたいだから
さて、そろそろ出発しよう。そう言おうとして振り向くと、ルルリカさんがポカンとした顔をしてる。
「ルルリカさん?」
「あ、はい。アンジュさん、それは一体……」
あ、しまった! ルルリカさんはタロットカードのこと知らないんだから目の前で魔法みたいなの使っちゃダメじゃん! 召喚術としてはこんなのおかしいよね、多分。
「えっと……。あ、これのことを話すならまた別に条件を加えさせてもらいます!」
こう言えばきっと諦めてくれるでしょ。ゼーヴィスの情報だけでも渋ってたし。
「分かりました。その条件については魔導王国で相談させてください。私の一存で決められることにも限りはあるので」
「えっ。えーっと……」
「条件次第なのですよね?」
「……はい」
「では早く向かいましょう。心変わりされても困りますので」
「相手の方が一枚上手だったね、アンジュ」
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