91 / 97
本編
90,手がかり
しおりを挟む「先程の話を魔導王国の仲間にもお話して頂きたいのです」
「それって私が行かなくてもいいんじゃ……」
ちらり、とルルリカさんがダンタリアンを見る。
「……取り繕っても意味はないですから言いましょう。アンジュさんの話を信じることはまだ出来ません。ですが、少なくとも嘘ではないと考えています。私たちの仲間にもあなたの悪魔のような力を持つ者がいるのです。その者の前で話し、真実であることを証明して欲しいのです」
「いやー……それはちょっと……」
さすがに魔導王国まで行くのはなあ。正直いいイメージが湧かない。ルルリカさんが魔人だからなんだろうけど、どうしてもゼーヴィスが浮かぶ。ルルリカさんはそうでもないみたいだけど、魔導王国の人は、あいつみたいに人間風情だとか思ってるかもしれない。
「私の正式な客人として招待します。決して危害を加えられることはありません」
「それが本当だと信じることも私には出来ません。人間をよく思わない魔人もいるでしょう?」
「……そのような考えを持つ者がいるのは事実です。ですが、積極的に敵対しようと考える者はいません。ましてや、魔人である私の客人を襲うということは、私と敵対するということですから」
そうは言われてもなあ……。襲われる可能性の方が高そうだしなあ。それに行ったところで私にはあんまり良いこと無さそうだし。でもこの人断ってもいつまでも粘りそうなんだよね。
助けを求めてレベッカたちの方を見るけど、話し合いって感じじゃないなあ。言うまでもなく反対みたいで、一応武器を納めてはいるけどすぐに戦えるように手を置いてるし。
ごめん、ダンタリアン。何とかしてくれないかな……? そう考えながらダンタリアンを見ると、やれやれ、と肩を竦めた。代わってくれるみたい。
「あのねルルリカちゃん。アンちゃんがあなたの国へ行く理由は何?」
「先程の話の真偽を確かめ、場合によってはその後に協力して頂くためです」
「その二つ目は私が出てくるまで黙っていたわよね? その時点であなたには不信感しかないの。そして、その理由はあなたのものでしょう? アンちゃんが行く理由、メリットじゃないわ。今あなたが言っているのは、危険を冒して自分たちの利になるように動け、という命令よ。交渉どころかお願いにもなっていないわ。口調こそ丁寧にしているけれどねぇ」
「それは……」
悔しげに顔を歪ませてルルリカさんが黙ってしまう。まあ、あんまり可哀想とは思わないかなあ。ダンタリアンの言ってることは正しいと言えば正しいし。まだ戦わないとは言われてないし、こっちにあれして欲しい、これして欲しいってばかりだもんね。
あー、でも受け入れる代わりに何かを要求することも出来るのか。それなら沙夜香さんたちが危険な目に合わないようにお願いするとかでいいかな?
「アンちゃん、それもいいんだけど、もっといいのがあるわよぉ」
うわ、びっくりした。そっか、ダンタリアンには私の考えが分かるんだもんね。
「ほら、さっき思い浮かべてたでしょう? あの人のことを聞いてみたら?」
「さっき思い浮かべてた人……?」
それってゼーヴィスのこと? でも、ルルリカさんの仲間がゼーヴィスだったらまずいんじゃ……。んー、でもダンタリアンならその事を考えた上で提案してくれてるのかな。
「ルルリカさん、ゼーヴィスって知ってます?」
「……ええ、知っています。アンジュさん、その男の名をどこで?」
「ルルリカさんも知ってますよね? 灰色の魔物のこと。あれの首謀者として動いていたのがゼーヴィスです。そして、そいつと戦ったのが私たちです」
エリックさんにゼーヴィスのことは話したけど、知らないのかな? ということはギルドには魔導王国のスパイはいないのかな。ギルド内で情報を留めておくとは言ってたから、ギルドの職員は大体知ってるとは思うんだけど。
「なるほど……。アンジュさんにはなんとしても魔導王国に来ていただく必要があることが分かりました。私が帝国に来た理由がその魔人、ゼーヴィスです」
「……ルルリカさんはゼーヴィスをほっといて私たちを監視していたということですか?」
ルルリカさんは怪しい動きをしてる連中を調べるために帝国に来たはず。それがゼーヴィスってことは、ルルリカさんがゼーヴィスを止められていたらあの魔物は産まれなかったはずだよね。たらればの話かもしれないけど、それは、少し腹が立つ。何か動くかもしれない私たちより、実際に動いているゼーヴィスの方が重要だと思うんだけど。
「それは違います!」
「ではなぜゼーヴィスの企みをほっといたんですか? あの時、冒険者の人しかあれには関わっていなかったと思いますけど」
「それは……」
目を泳がして言い淀むルルリカさん。まただんまりだ。
ダンタリアンを見る。
「アンちゃん……、これを知っちゃうと少し面倒なことになるわ。それでも知りたい?」
「うん、話して。ゼーヴィスの情報は少しでも欲しいから」
「……わかったわ。ゼーヴィスはね、かなり大きな組織に匿われてるみたいよ。下手をすると国レベルの大きさの場所に」
「それって帝国が関わってるってこと?」
「いや、そこまでは分かっていないみたいねぇ。というか、分かっていることはゼーヴィスは匿われてるだけで、上にはまた違う人物がいること。そして、それは小さな女の子だっていうことらしいわ。アンちゃんはその子だと疑われてたみたいねぇ」
「私が!?」
「ゼーヴィスが帝国に入ってからあまり間を開けずに入国した少女。しかも王宮から出てきて、身元もはっきりしない。そんな子がいたらたしかに疑うわねぇ」
そう聞くと私めちゃくちゃ怪しいな!?
「まあ、それがあったからルルリカちゃんもアンちゃんの監視に力を入れてたみたいねぇ。肝心のゼーヴィスは匿われちゃって情報が全くと言っていいほどなかったみたいだし、唯一の重要な手がかりになるかもしれない子だものねぇ」
そっか……。それなら監視もゼーヴィスを止められなかったのも仕方ないかあ。むしろ止めようとしてくれてたんだもんね。
「……アンジュ、大丈夫かい?」
「え? うん、大丈夫だよ?」
レベッカが声をかけてくれる。ショックを受けてるように見えたのかな。
「それならいいんだ。すごく怒ってて、少し怖かったから」
「え、そんなに?」
「うん。いつ武器を振り回すかと思ったよ」
そんなに!? さすがに攻撃されたりしない限りはククリ取り出したりしないよ!
でも、たしかにイライラはしてたかもしれない。なんだろう、時々あるなあ。気持ちが昂るっていうのかな。自分で感情が制御出来なくなる時がある。ちょっと怖い。なるべくそうならないように気をつけないと。
「とりあえず、そういうことなら仕方ないですね。魔導王国かあ……」
さすがにこれは私一人じゃ決められない。レベッカたちに行って良いか聞かないと。
「みんな、条件次第だけど私は魔導王国に行こうと思うんだけど、行ってもいい?」
「行ってもいいって……一人で行く気かい?」
「流石にそれは危ないわ。行くなら私達もついて行くからね」
そう言うとは思ったけど……、でもこれは私の問題な気もするし、巻き込みたくはないなあ。
「アンちゃん、レヴィちゃんたちもゼーヴィスと戦ってるのよ? 何よりパーティーの仲間ことなんだから巻き込んだらー、なんてのは考える方が失礼じゃないかしらぁ」
「んなこと考えてたのか? そもそも、俺らのリーダーはお前だろ。そいつを一人で危険な場所にやるわけねえだろ」
「……うん、みんなありがとう」
ならレベッカたちにも着いてきてもらおう。もちろん、危ないなって感じたらすぐにマジマさんの戦車で逃げ出すけどね。
10
お気に入りに追加
1,142
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

After story/under the snow
黒羽 雪音来
ファンタジー
どーも‼ 南の大陸の魔神でーす‼
その名前の通り‼
南の大陸における悪役だ‼
この世界には、『大穴』と呼ばれる漆黒の海を中心に、東西南北に大陸が存在する。
それぞれの大陸に悪役の魔神がいて、それぞれの大陸にある聖剣に選ばれた勇者と大陸内で戦っている。
おっと。別に世界征服なんざ考えてないぜ。この戦いは世界を維持する儀式のためだ。
4体の魔神と4人の勇者が織り成す冒険活劇ファンタジー?
それも面白そうだが、今回は違う。
それは別の機会があったら、な‼
舞台は北の大陸。
北の大陸の魔神を、独りで討伐した北の勇者。
しかし、彼に与えられたのは、名誉でも褒美でもなく、無実の罪による処刑だった。
極寒の処刑場にて、勇者は復讐を望んだ。
その時、俺が声をかけたのさ。
「ご所望は復讐かい?」と。
さあさあ皆様‼ どーぞご照覧あれっ‼
これは、ちょ~っとだけ変わった復讐ファンタジー。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる