タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

文字の大きさ
上 下
89 / 97
本編

88,発覚

しおりを挟む

「手紙?  うーん、私は送る相手は特に思いつかないかな」
「俺もだ。そこまで親しかったやつはいねえな」 
「私もね。主だった知り合いには挨拶してから来たから、手紙を送る必要はないわね」
「そっかあ」

  エリックさんに教えてもらったことを早速その日の夜にみんなに伝えたけど、どうにも微妙な反応。もしかしてレベッカたちって交友関係狭かった……?  いや、ミリアは違うみたいだけどさ。冒険者ってそんなものなのかな?

「とりあえず、そんな状態なら急いだ方がいいかもね。そこまで王国が本気でいるなら入出国が制限されちゃうかもしれないし」
「うん、そうする。そうだ、手紙ってどうやって送るの?」

  あったら楽だけど郵便局みたいなところは無いだろうし、宅配業みたいなものはどうなんだろう、あったりするのかな?

「それならバスカルヴィー氏に頼めばいい。手紙や荷物の配達は商人がやってくれる。あの人はもうやってないかもしれないけど、アンジュの頼みならそれくらい聞いてくれるだろうから」
「あー……、そっかー……」

  バスカルヴィーさんに借りを作るのはちょっとなあ……。ただでさえなんやかんやで皇女さまの占いさせられちゃったわけだし、何が起きるか分からないもんなあ。かと言って別の商人さんに頼むのもあれだし……。

「んー、代わりに何をお願いされるか怖いけどバスカルヴィーさんにお願いするかあ……」
「代わりの要求が怖いならこっちから先に言っちまえば良いじゃねえか。依頼を一つ受けるとかよ」
「あ、そっか」

  ギルがまともなこと言ってる……!  と少し驚いたけど、案外こういう交渉事に関してはギルは頭が回るんだよね。

「じゃあ明日あたりにでも行ってこようかな」
「んじゃ、レベッカまかせた」
「了解。ある程度の準備は頼むね」

  ぱぱっ、と役割が決まってく。この辺りの速さは、流石昔からパーティを組んでるだけあるなあ、って感じる。阿吽の呼吸ってこういうことなんだろうな。
  最初はどういうことだろう、と思うことばかりだったけど今は意図が分かるのが嬉しい。何より、私の個人的な思いつきなのにそれに着いてこようとしてくれるんだもん。思わず顔がにやけてしまう。

「少しいいかしら?  お話が聞こえてしまったのだけれど、私も王国の知り合いに手紙を送りたいの。お礼はするから一緒にお願いしたいのだけれど……」

  話がまとまった所にルルリカさんが話しかけてくる。ルルリカさんも王国に知り合いがいるんだ。話が聞こえちゃったなら不安だろうし、一緒に頼んであげよう。

「ええ、いいですよ。まあ、まずは受けてもらえるかどうかですけど」
「本当?  ありがとうね。アンジュさんなら大丈夫じゃないかしら、彼がここに来た時の態度なんかを見たらね」

  そう言って微笑むルルリカさんの姿がブレた。まただ、一体なんなんだろう。目を擦るけど、今度のはそれでもぶれたままだ。もう一度、と思った時、ルルリカさんの姿が掻き消えた。代わりにそこには浅黒い肌の額から黒い角の伸びた女の人が立ってた。

「……魔人?」

  呟くと同時に思いっきり後ろに引っ張られた。ギルが私の肩を掴んで、自分の後ろに隠すように私を引き倒したんだ。何するの、と叫ぼうとしたけど声が出なかった。あまりに空気がおかしかったから。
  レベッカたちはみんな武器を抜き放って臨戦態勢を取ってる。さっきまでルルリカさんの姿だった魔人も、武器こそないけどいつでも動けるように構えてる。

「普通なら何言ってんだって笑うところだが、これじゃあ笑い話にもなんねえな」

  ギルが鋭い目で魔人を睨みつけて言う。今にも魔人に向かって槍を突き出しそう。

「ギルの言う通り、これは流石に笑えないよルルリカさん。あなたが魔人かどうかはともかく、その殺気を仲間に向けるのは看過できない」

  そう言ってレベッカが一歩前に出る。殺気って……、この人そんなの出してるの?  私には全くわからないんだけど。

「どうして見破ったかは分かりませんが、こちらとしては都合の良いことではありません。申し訳ないですが実力を行使させていただきます」

  そう言って魔人はどこからか細いナイフを何本も取り出して投げつけてくる。ギルは器用に槍で私とミリアに当たらないようにナイフを叩き落としてくれた。レベッカはナイフを躱して、そのままの勢いで魔人に切りかかる。レベッカの剣が魔人を真っ二つに切り裂くけど、すぐにその姿は煙みたいになって消えた。

「幻覚っ!  ギル、そっちだ!」
「おう!」

  返事をすると同時にギルが私の後ろを石突で突く。耳障りな金属音と一緒に、押し殺したようなうめき声が聞こえた。

「ちょ、ちょっとストップ!」

  私が叫ぶけど、魔人もギルも止まらない。激しい攻撃の応酬をしてる。レベッカも加わろうとしてるし、ミリアはいつでも魔法を使えるように準備してる。

「だから止まってって!」

  もう一度叫んでも誰も止まらない。むしろレベッカが加わったことでもっと激しくなってる。ダメだ、少し乱暴だけど強制的に止めるしかないや。

吊るされた男ハングドマン。全員を止めて」
「御意」

  突然だったからか魔人は縄を避けられず、案外簡単に捕まえられた。レベッカたちもまさか自分たちを捕まえるとは思ってなかったのか、あっさりと縄に捕えられた。

「ありがとう、ロゥさん」
「これが私の役目ですので」
「あー……、アンジュ。早めに下ろしてくれると助かるな」
「分かった。もう戦わないでね」

  ロゥさんにお願いしてレベッカたちを下ろしてもらう。魔人は下ろしたらまた襲いかかってきそうだからそのままだけど。

「えーっと……、とりあえずルルリカさんって呼びますね。誰にも言わないので見逃して貰えませんか?」
「あなたがそれを守る保証はありませんので」
「信じてもらうことは出来ないですよね……?」
「ええ。看破の魔法か、能力かは知りませんがそれを使ってきた時点で信用は出来かねます」

  だよねえ……。理由は分からないけど、魔法か何かで自分が魔人か隠してたのに、それを見破るような人相手だもんね。
  どうにかして襲わないで欲しいんだけど、どうしたらいいんだろう。

(アンちゃん、私に任せてもらえる?)
(ダンタリアンどうにかできるの?)
(ええ、もちろん) 

  んー、まあダンタリアンなら心を読めるから任せても大丈夫かな?

悪魔デビル、ダンタリアン」
「はぁーい!  それじゃあお話しましょうか、ルルリカちゃん?」

  無駄にハイテンションでダンタリアンが影から出てくる。今日のダンタリアンは小さな女の子の姿で現れた。それに何故かゴスロリで。金髪のツインテールにヘッドドレスもつけてる。

「……悪魔召喚?  なるほど、悪魔の力ですか」

  なんか納得されたみたいだけど違います。私自身にも分からないけど、なんでか分かっちゃったとしか言いようがないんだよなあ。

「んー、ちょっと違うわねぇ。まあ、それはどうでもいいのよ。まず一つ質問するわね、あなたは何者?」
「答える理由がありません」

  ダンタリアンが少し固まった後、くるっ、とこっちを向く。

「アンちゃん。この子、魔導王国の子よ。しかもかなりの権力者」
「……え?」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

聖女のおまけです。

三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】  異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。  花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

処理中です...