85 / 97
本編
84,大盛況再び……?
しおりを挟むそして次の日。ギルドの貸出スペースのほとんどが人で埋まってた。
「なんかデジャヴ……」
しかもそこにいる人はほとんど女の人で、いつもの商人さんは隅っこに追いやられてる感じだった。
「お、おはようございます。アンジュさん」
「……おはようございます、フレミーさん」
申し訳なさそうにうさ耳を垂れさせてフレミーさんが挨拶してくる。うん、もしかしなくてもこうなった理由あなたですよね。
「すみません、昨日の占いを同僚に話したらどんどん尾ひれがついて行ったみたいで……。アンジュさんに占ってもらうと恋が叶うとか出会いに恵まれるって話になったみたいで」
あははー、と誤魔化すように笑われる。どうしてそんなことになったのよ……。
でも、前みたいなことにはならないぞ。さすがに同じことを繰り返すつもりはない。まずは噂を訂正して、それでも占って欲しい人だけ占うことにしよう。少しは面白半分で来てる人もいるだろうし。まあ、私としては興味本位で来てくれるのが一番気楽なんだけどさ。
「えーっと、噂を聞いて来たって人は結構いると思うんですが、あの噂は尾ひれがついたものです。別に私が占ったからって恋は叶わないし、出会いがあるわけじゃないです。私が出来るのはあくまでアドバイスまでです。それでも占って欲しい、って方以外は申し訳ないですが出来れば後日、お客さんが少ない時にお願い出来ますでしょうか」
……あれ、誰も動かないんだけど。ちょっと待って、ほんとに?
「ちなみに、付き添いで来たって方は……」
手を挙げて貰えるよう促すけど、誰一人手を挙げない。まーじかー……。
「すいません、さすがに人数が多いので出来れば日を分けたいと思うんですが、他の方に順番を譲っても構わないって方はいますか……?」
私がそう言うと半分くらいの人が手を挙げてくれた。まだ全然多いけど、十分助かる。
じゃあ次に占いをするとき優先したいけど、どうやって判断しよう。整理券みたいなものとか作れるかな。
「フレミーさん、いらない紙とかありませんか?」
「すみません、そういうのはギルドの備品なので……」
「あー、そうですよね。すいません、ありがとうございます」
んー……。あ、そうだ。生徒手帳のメモのところ。あそこ破ればいいかな。あっちの世界の物だからあんまり人目に触れさせない方がいいんだろうけど仕方ない。返してもらう形にすれば大丈夫でしょ。
ただちぎっただけじゃ味気ないし、日の丸っぽく真ん中に丸を描いておこう。黒だけど。
「では譲ってくださる方はこれをお持ち帰りください。後日それを渡してくれれば優先して占いますので」
ありがたいことに不満なんかも特に出ず、みんな紙を受け取ってギルドを出ていった。こういう時って少なからず一悶着あるものだと思ったけど、案外すんなりいって安心した。よーし、この人数なら何とかなる。とりあえず、順番を決めて頑張って占うぞ!
―――――――――――――――――――――――――
(しかし、どっから手をつけるべきかね)
ソータに伝えた通り、帝国にアンズさんらしい女の子はいない。だが、それはあくまでギルドや宿屋なんかの主だった場所で、そこには情報はなかった。だとするとどこかに住み込みで雇ってもらってるってのが有力だろうけど……。
(片っ端から話を聞くわけにもいかないしなあ)
住み込みの仕事を斡旋してるのもギルドだが、そんな仕事を探してる子供なんてごまんといる。最近住み込みを雇った場所だけ調べようとしても、手間も時間もかかる。
(地道にやるしかないかねえ)
それならのんびりしてる暇は無い。早速聞いて回るとしますか。
「キース、聞こえるか?」
「ああ、聞こえる。どうしたソータ」
立ち上がろうと膝に手をやった途端、ソータから言ノ葉が届いた。ソータのオリジナルの魔法で、使用者と対象者が離れていてもお互いの声が届くといった効果がある。あいつはそれだけの地味な魔法だと言っていたが、この魔法があれば情報のやり取りはもちろん、戦場での指揮なんかも革命的な変化がもたらされるだろう。
まあ、突然耳元で話されているようなこの感覚は未だ馴れないけどな。
「沙夜香から新情報だ。入江さんは帝国に入国しているのはほぼ確定、入国管理の者が覚えていたらしい。そして、出国した形跡もないとの事だ」
「ってことは帝国にいるんだろうが、どこにいるかだな」
「それなんだが中央街ってところが怪しいんじゃないかって話だ」
「中央街? なんでだ?」
「入江さんは冒険者と一緒だったらしい。剣士風の女、槍を持った男、魔法使いの女だ。そして、俺の国の人間は亜人に対しての差別意識は持っていないと予想出来る。むしろ好きな人間の方が多いだろう。入江さんがそうかは分からないが、王国から逃げるための場所と言ったらそこが適当だろうって話だ。冒険者も差別意識は低いだろうから、一緒に行動してる可能性もある」
「なるほどな。じゃあ中央街から探してみるよ」
「頼んだ」
冒険者の情報は結構大きいな。それに、中央街って、片方の可能性が高まったのもありがたい。手がかりも増え、調べる範囲も狭まったわけだからかなりやりやすい。
それじゃあまずは中央街のギルドだな。今度は冒険者の方を訊ねるようにして、何か引っかかるといいんだが。
(なんだあの人だかり)
中央街のギルドに着くと、妙に人が集まっている場所があった。確か占い師に貸し出してるスペースだと思ったんだが、中央街の占いはこんなに賑わってるのか。……ん? あれってもしかして占い師一人だけか? 随分売れてるんだな。
「十一番の方ー」
「あ、はい」
担当は兎の獣人の女性か。明るそうな人だけど、少し抜けてるところがありそうだな。まあ人は見かけによらないこともあるから分からないが。
「本日はどのようなご要件でしょう」
「実は知り合いに頼まれて人を探しているんです。三人組の冒険者なんですけど」
「どのような方達ですか?」
「剣士風の女性と槍を持った男性、あと魔法使いの女性です」
「うーん、その組み合わせの三人は私は分かりませんね……。もう一人加えた四人組なら心当たりがあるんですけど」
「本当ですか?」
まさか、当たりか? 調べ方を変えた途端これとは、まだ調査が甘かったか。
「はい、ここ最近の活躍が目覚しいパーティです。もう一人はサポーターの女の子です」
「その子はどんな子ですか?」
「今そこで占いをしてる子ですよ。この前まで商人の人達がいっぱい来てたんですけど、今日はそれに加えて女性が恋占いをしてもらいに来てるんです」
そう言われて件の占い師を見るが、明らかに探している人と違う。アンズさんは黒髪黒目だそうだが、あの人の髪は水色だ。
「うーん、自分が探している人とは違うかもしれませんね」
「そうですか……。お力になれずすみません」
「いやいや、ありがとうございます」
さすがにそんなうまい話は無いか。仕方ない、地道に探すとするか。しかし、なんでソータたちはアンズさんとやらにこだわるんだろうか。ただの同郷ってだけで、知り合いってわけでもないだろうに。それが勇者ってもんなのかねえ。
10
お気に入りに追加
1,142
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる