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本編
83,フォーカード
しおりを挟む「ありがとうございました。しばらく頑張ってみようと思います」
「いえいえ。無理せずできる範囲で、ですよ。応援しています」
これで午前中のお客さんは全員占ったかな。ぐーっと伸びをする。座りっぱなしだから少しは動かないとね。
「アンジュざぁーん!」
ドスッ、と脇腹にフレミーさんが突撃してくる。結構な勢いがついてたみたいで一瞬呼吸が出来なくなった。遅れて鈍く痛みが襲ってくる。
「ぎいてくだざいよアンジュざぁーん!」
「聞くので一回離れてください……」
流石に微妙に鼻水を垂らすくらい泣きじゃくった人にくっつかれたまま話すのはちょっと……。
なんとかフレミーさんを引き剥がして向かいに座らせる。しばらくすると少しは落ち着いてはきたのか、すんすんと鼻をならしてはいるけど話は出来そう。
「一体どうしたんですかフレミーさん」
「実は私の同期というか、友人がこの度結婚することになりまして……」
「へー! いい事じゃないですか!」
「そうなんですよ! そうなんですけどぉ!」
また目尻に涙を滲ませるフレミーさん。なんか地雷踏んだっぽい。これは聞き手に徹した方がいいかもしれない……。
「これで……同期の中で結婚どころか彼氏もいないのは私だけになってしまいまして……」
あー……。まあ、うん。それは確かに泣きたくなるかもしれない。
「みんなすぐにいい人が見つかるー、とか、まだ運命の人に会えてないだけー、とか言いますけど、探してもいないしもうすぐって思い続けても駄目だったから今なんですよ!」
目が据わってるよ、フレミーさん。少し落ち着いてください。
「だからアンジュさん! 私を占って、どうしたら素敵な男性と結婚出来るのか教えてください!」
「ええー……」
そんな事言われても私にはよく分からない。告白されたこともしたこともないし、ましてや彼氏や結婚だなんて全然考えたこともなかった。皇女様は婚約者さんとの結婚のためにはっていう、恋愛だけど目的がハッキリしてるから占いにも前向きになれた。でも一からとなると、全然わからない。
「駄目ですか……?」
「駄目ではないですけど……」
「ならお願いします!」
「はあ……。期待はしないでくださいよ」
「占ってもらえるだけ十分です!」
ならとりあえず占うだけ占おう。結果が出たら私じゃ分からなくても何かしら掴んでくれるかもしれないし。
スプレッドはスリーカード、いや、フォーカードかな。どうしたらいいかって話だったし、最初からやるべき事とか障害とか知っておいた方がいいでしょ。
フレミーさんが素敵な人に出会って結婚するにはどうしたら良いでしょうか。そう思いながらカードをシャッフルして四枚を並べる。ん? これは……。
「どうでしょうか……」
「フレミーさん今気になる人とかいません?」
私が訊くと、フレミーさんの耳がピクっと動いた。これは図星ってことなのかな?
「一応……いますけど……。でも一応ですよ! 本当に!」
「その人って最近知り合いました? 大体三ヶ月くらいの間とかですか?」
再びフレミーさんの耳が動く。さっきより激しく連続で。むしろ体ごと動いてるくらい。当たりっぽい。それなら一応筋は通るかな。
「そ、そうです……」
「なるほど、それなら納得です」
「何がですか?」
「一枚目のカードは運命の輪、二枚目が魔術師です。どちらも正位置なんですけど、それだと二枚とも同じような意味なんです。チャンスとか機会とかですね。でもどちらかと言うと運命の輪の方が出会いで、魔術師は恋の始まりって意味が強い印象なので、最近出会った人が気になり始めてるのかなーと」
「なんでそれだけでそこまで分かっちゃうんですかあ……」
フレミーさんが頭を抱えてテーブルに突っ伏す。なんでと言われても、そういうものだからとしか言いようがないなあ。正直何となくピンと来た内容を話してるだけだから、説明しようにも出来ない。
「まあ、それでこれからなんですけど何とも言えないんですよね。その相手の人とは今どんな関係なんですか?」
「何とも言えないってなんですか!? あの人とは今は会ったら挨拶するくらいの顔見知り程度ですけど……」
「じゃあ、あまりガツガツ行かずに普段通りのフレミーさんでいきましょう。無理をせず、焦らずに、でも多分好意を持ってることはそれとなく伝えた方がいいとは思います」
「あ、あんまりぐいぐい押すのは駄目ですか?」
恐る恐るフレミーさんが訊いてくる。これ、もしかしてもう手遅れ?
「良くはないですかね……。一応三枚目は今後の対応とかやるべき事、もしくは障害になることって意味があるんですが、節制の正位置が出てます。意味は無理しないとかひかえめとかコントロールって感じです。なのでそういう風に行動しろってことだと思うんですが、もしこのカードが逆位置になったとすると、意味が極端とか節度のなさって感じになるんです。なので、あまり強くアプローチを仕掛けると相手に引かれてしまうかもしれないって暗示なんじゃないかなーと」
「終わった……」
またテーブルの上に潰れるフレミーさん。手遅れだったかー。でもまだ大丈夫だと思う。
「諦めるのはまだ早いですよフレミーさん」
「ほんと!?」
がたっ、とすごい勢いでフレミーさんが立ち上がる。さっきから反応一つ一つが大きいし、その人のこと結構気になってるのかな。
「はい。四枚目が近い未来なんですけど、恋人の正位置が出てます。まあ、これは文字通りだと思います。ただ、上手くいったとしてもあくまで恋人なので結婚とかは三ヶ月以上先になると思います。でも進展する可能性は十分ありますよ」
私がそう言うとフレミーさんがふぁーだか、ふぇーだかよく分からない鳴き声? みたいなものを上げてテーブルにへにゃへにゃになっで倒れ込む。リアクション忙しいなあ。
フレミーさんはしばらくぐでぐでになってたけど、少ししたら復活していつもの彼女に戻った。いや、いつもより少し元気かな? いつも元気だけどそれよりもやる気みたいのに満ちてる感じ。
「ありがとうございました、アンジュさん! 私、焦らず少しずつお近づきになれるよう頑張ります!」
「はい、頑張ってください。応援してます」
よっぽど嬉しかったのか、お代の銅貨の他におやつに持ってきたらしいメロンパンとパウンドケーキの間の子みたいなお菓子をくれた。外はカリカリしたクッキー生地で中はしっとり。初めて食べたけどすごい美味しい。
「これ美味しいですね。これ、どこで買ったんですか?」
「私の手作りです! おばあちゃんの故郷のお菓子らしいです。美味しいですよねー」
これ手作りなのか! へー、フレミーさんお菓子作り得意なのか。料理も得意なのかな? ……これ気になってる男の人に渡したらいいんじゃない? ポイント高いと思うんだけどなあ。
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