タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴

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本編

79,セリゼの森にて:沙夜香

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「サヤカ様が着いていてくださるだけで我らはどれほど勇気を頂けるか分かりません」
「その通り。誠に心強いことです」
「そう言っていただけると私も鍛錬を続けてきた甲斐があるというものです」

  ああ、めんどくさい。毎度毎度、よく飽きないものだと思う。こうやって持ち上げられて持て囃されるのは嫌じゃない。でもこの人たちはこうすることで私に取り入ろうとしているのが透けて見える。私が勇者だからもあるんだろうけど、それ以前に女だから取り込みやすいと考えてるんだろう。結婚させてしまえばいいだけだからね。別に私は貴族に魅力を感じてはないんだけどなあ。
  貴族だ騎士だとかっこつけて、家のために、と言うよりは自分の名誉のために行動すべきことは分かるのに、本質は何も見えていないのが滑稽だ。

「他の勇者殿たちはなんと言いますか……、良い意味で将ではありませんからな。優れた騎士ではございますが……」
「お二人共素晴らしい方ではあるのですが、気付けば姿が見えなくなっていますから」

  それにまた別の貴族が同調する。その姿が見えなくなる二人が一番貢献しているって知ったらどういう顔をするんだろう。
  兵士や騎士がいつも以上に戦えるのは光一くんがいるからこそだ。姿が見えないのは光魔法で自分の姿を兵士と同じように見せているから。なんでそんなことをしてるかはよく分からないけど。
  御影さんの姿が見えなくなるのは、兵士が対応出来る程度に魔物を間引くためだ。加護の力と闇魔法で気配を消して、風魔法で素早く動き回って魔物たちを射抜いて行く。正直弓の威力じゃないから、人間砲台みたいなものだ。本人は機動砲台みたいで楽しいとか言ってたっけ。

「あの二人にも考えがあるんですよ」
「そうだとよいのですが……」

  そうなんですよ。あなた達が気づいてないだけで。いや、気付こうとしていないだけかもしれないけれど。

「サヤカ様、少々よろしいでしょうか?」

  振り返ると一人の青年が膝をついていた。若草色の髪に翡翠色の瞳。いかにも真面目って顔立で、縁の細い眼鏡がそれに拍車をかけてる。

「今サヤカ様は我らと話しているのだ、後にしろ。男爵ごときが無礼だぞ」
「大丈夫よヴェイン。向こうで話しましょうか」
「サヤカ様!?」

  面食らっている貴族たちを放って、ヴェインを連れて端の方へ行く。

「何かわかった?」
「はい、アンズ様らしき人物が帝国へ入国しています。名前までは確認していないが、黒髪黒目の少女が入国したのを入国管理の役人が覚えていました」
「ならほとんど間違いないでしょうね。こっちじゃ珍しいみたいだし」

  異世界らしく、と言っていいのかこっちでは黒髪も黒目も珍しい。青が混じってたり、緑が混じってたりする黒髪はいるけど、純粋な黒はいないのだそうだ。だからこそ印象に残るとは思ってたけど、上手くいったみたい。

「恐らくは。その少女は冒険者と共に入国したそうです。人数は三人。剣士風の女性、槍を持った男性、魔法使いらしき女性との事です」
「人相は?」
「そこまでは覚えていませんでした」
「さすがにそこまでは無理か……。装備を覚えていただけ上々かしらね」
「何せ一月以上前の話ですから。ただ、王国の冒険者ですから全員人族です。アンズ様は亜人に偏見などはあるでしょうか?」
「多分無いわ。私たちと同じ国の出身だし、そんな性格じゃなさそうだったから」
「では中央街にいる可能性もあるわけですね。その冒険者と行動を共にしていることも視野に入れ、人街と中央街を捜索しようと思います」
「ええ、頼むわね」

  ……そろそろ戻った方がいいかもしれないわね。ヴェインへの視線がどんどん厳しいものになってる。これ以上貴族の嫉妬を集めて入江さんの捜索を邪魔されても困る。

「そろそろ戻るわ。よろしくね」
「はい。サヤカ様の方も、よろしくお願いします」

  そう言ってヴェインと別れる。やっぱり、ヴェインは他の貴族とは違う。最初に出会った時から彼は特別だった。他の貴族は名前と爵位の他、自分と自分の家はどれほど素晴らしいかの自慢話が挨拶だった。けれど彼の挨拶は名前と剣の整備が趣味であることを述べて終わりだった。思わずなぜ短いのか聞くと。

「爵位も実績も、私のものではありませんから」

  と素っ気ない返事が帰ってきた。
  私は利用されるのが嫌だ。でも、そうと分かってお互い利用し合うのは全然構わないのだ。
  入江さんの居場所がわからなくなった時、それとなく貴族に探りをいれてもはぐらかされるばかりだったそんな中、彼だけははっきりと、自分には分からないが安全な場所に匿っているというのは事実か疑わしい、と言った。すぐに私は彼に取引を持ちかけた。

「勇者の感謝と王様への口添えって、貴族のあなたには報酬になるかしら」
「……何がお望みですか?」

  他の貴族みたいに変に腹芸をしないところも彼のいい所だ。それに、仕事もできる。こんなに早く入江さんの情報が入ってくるとは思わなかった。これからもヴェインとはいい協力関係でいたいものね。
  さて、御影さんも誰かと話してたみたいだし何か分かったかしら。光一くんはどこかへ行ってたみたいだけど……、何をしてたのか後で聞いてみよう。
  きっと見つけるから、待っててね入江さん。
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