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本編
73,乙女な皇女様
しおりを挟む「ああ、ごめんなさい。事情を説明しないといけないわよね。私には婚約者がいるの、その方はね」
「リーゼロッテ様。お部屋を用意していますので、続きはそちらでどうでしょうか」
まくし立てるリーゼロッテ様をバスカルヴィーさんが止める。そう言えば人に聞かれたくないとか言ってた。あの時に身分の高い人が相手だってことに気づいていれば……。商売の話とかなのかなくらいにしか思ってなかったからなあ。
「そうなの? ありがとう、バスカルヴィー。ではアンジュさん、そちらでお話しても?」
「あ、はい。大丈夫です。すいません、バスカルヴィーさん、みんなに別室に行くと伝えて頂いていいですか?」
「分かりました。オリバー」
「はい」
オリバーさんいつの間に。ま、まあ伝えてくれるならいいや。
「では行きましょう」
バスカルヴィーさんに案内された部屋は案外質素で、カーペットの上にソファーとローテーブルが置いてあるくらいだった。
「それで、リーゼロッテ様は婚約者様のことを占って欲しいとのことでしたが……」
「そうなの! 実は帝国騎士団の副団長が私のなのだけれど、公にはしていないの。なので表向きには私には婚約者がいないとなっているの」
え、それって私聞いていいやつ? 隠してることなんだよね?
「もちろん、他言無用でお願いしますね。最重要とまではいきませんが、それなりの機密なので」
「あ、はい」
王族と関わらないようにしたら帝国の機密を知ることになったってどんな冗談よ……。というか、そんな世間話みたいにさらっと言わないでよ皇女様。
「それで、表向きに私に婚約者がいないからか、婚約を申し込まれてしまったのよ」
「断ることはできないのですか?」
「それが、難しいのよ。血筋も権力も婚約者様より上なの。そのせいで婚約者様の存在を明かしてもお断りすることは難しい。かと言って普通にお断りしても角が立ってしまうの」
血筋も権力も上かあ。血筋はよくわからないけど、権力が上だとすると確かに断りづらいかもなあ。身分が上の人の結婚ってなんかこう、色々とドロドロしてるというか、何かしら問題事が起きるイメージ。権力が強いとなおさら。副団長さんとの婚約を続けたとしたら、副団長さんに何かされそうだよなあ。
うーん、お家騒動ってわけじゃないけど、権力争いに巻き込まれそうだなあ。というか巻き込まれてるのか。婚約を申し込まれたってそういうことだよね。
「そこであなたには婚約者様がどの道を取れば幸せになれるのかを占って欲しいの」
「婚約者さんが、ですか? リーゼロッテ様ではなく」
「ええ。お願いできるかしら」
「出来ますけど……」
もし婚約者さんがリーゼロッテ様との婚約を破棄した方が幸せになれると出た場合、リーゼロッテ様は破棄するのかな。それは、なんだか嫌だなあ。
「リーゼロッテ様は婚約者さんのことを好きなんですよね?」
「そ、そんなはっきりと……。それはまあ、お慕いしてますけど……」
ほんのりと頬を赤くするリーゼロッテ様。乙女だ。それなら好きな人と結婚するのが一番だよね。そうだ! ちょっと難しいからあんまり自信はないけど、あれなら。
「リーゼロッテ様、もう少し前向きにというか、別の占いをしてもいいですか?」
「ええ、構わないけど……。何を占うの?」
「リーゼロッテ様と婚約者さんが幸せになるにはどうしたらいいのか、っていう占いです。正直、あまりやったことの無い占い方なので、自信はありませんがよろしければ」
「私とあの方が……」
悩むようにリーゼロッテ様が頬に両手を添える。
「一応そのあとで婚約者さんだけの占いもしますよ」
「では……お願いしようかしら」
「はい、分かりました」
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