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本編
72,リーゼロッテ様
しおりを挟むうん、この人たちの相手は疲れる! いつ息継ぎしてるんだろうってぐらいしゃべり続けるし、三人が三人とも私に話しかけてきたと思ったら、次には彼女たちだけで話してたりするし。というか、止めてくださいよお母さん。なんで娘と一緒になって、というか、筆頭になってわいわいしてるんですか。もう、一度に話すのは一人だけにして欲しい。
「私は聖徳太子じゃないんだけどなあ……」
「ショートク……? どなたですかその方は? お聞きしたことはないですが、遠い国の大使様かしら」
「あー……、私の故郷で大昔に活躍した人です。十人の話を一度に聞き分けることができたとかいう逸話があるんです」
「まあ! そのショートク様はとてもすごい方だったのですね!」
なんか聖徳が名前みたいに捉えられてる気がするけど、いいや。訂正するにしても長くなりそうでめんどくさい。
「お前たち、そろそろアンジュ様を解放してもらってもいいかな?」
振り返るとバスカルヴィーさんが立ってた。今の状況だとバスカルヴィーさんが救いに来てくれた仏様みたいに見える。ありがとうバスカルヴィーさん。あなた今すごい輝いてるよ……。
「あなたが来たということは、リーゼロッテ様も挨拶が終わりそうなのかしら」
「ああ、そろそろ迎えに行くからその前にアンジュ様に一息ついて頂こうと思ってな。お前達のことだ、質問攻めにしたかひたすらに話し続けたのだろう?」
すごい、当たってるよバスカルヴィーさん。うん、でも仏様は撤回する。なんで私なんかのところに皇女様を連れてこようとか言い出すのさ。
「あのー……、私が伺った方がいいのではないかと思うんですが……」
「いえいえ、お気になさらず。これはリーゼロッテ様の望んだことでもありますので」
皇女様が自分から望むって何事。というか、やっぱり占いする人って皇女様だよね……。恐れ多すぎて今にも帰りたい。
「ではアンジュ様、また今度お茶でも飲みながらお話しましょう」
「あら、いい考えですねお母様。楽しみです」
「その時は私も必ずご一緒しますね!」
「あ、はい。機会があれば……」
そして三人は何かを楽しそうに話しながら女性が集まってる方へ歩いていった。
混ざりたいとは思わないけど偉い人を相手にするよりはまだマシな気がするよ……。
「アンジュ様、リーゼロッテ様をお連れしました」
頭を抱えてる間に連れてこられてしまった。慌てて背筋を正して挨拶する。
「はじめまして、リーゼロッテ様。冒険者のアンジュといいます。お会いできて光栄です」
「こちらこそはじめまして、アンジュさん。リーゼロッテ・バントベルツです。私こそ会えて嬉しいわ」
そう言って皇女様は手を差し出してくる。え、これ握手だよね。これどうするのが正解なの!? 断るのは論外にしても、普通に受けてしまっていいの!?
助けを求めるようにバスカルヴィーさんを横目で見ると、軽く頷いてくれた。恐る恐る握手に応じる。
「アンジュ様、もうお察しのこととは存じますが、占って頂きたい方とはリーゼロッテ様なのです」
ですよねー。うん、断りたい。でも私から断るのは絶対失礼だよね。下手したら不敬罪とかになりかねない。どうにかしてリーゼロッテ様から断ってもらえないかな。
「ごめんなさい、アンジュさん。突然で驚いたでしょう? 実は私からバスカルヴィーに頼んだの。占いの話を聞いて是非にって」
「そうなんですかー」
はい、無理です。淡い期待でした。皇女様が頼んでくる占いって何? 国に関することとかじゃないよね。タロットで、というか私なんかに国に関わるようなことを考えさせないで胃が痛い!
「それでね、アンジュさん。占いの内容なんだけれど……」
「はい」
リーゼロッテ様が口をつぐんで俯く。そんなに深刻なことなの!? やめて、話を聞く前から胃がしくしくしてきた。私この年で胃潰瘍とかなりたくないよ?
「私の、私の婚約者について占っていただけないかしら」
「……はい?」
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