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窮地 (ゲームセンター、夢、麦茶)
しおりを挟む俺は今、夢を見ている。
そう思ったのは風景の輪郭がとてもあやふやだからだ。
おそらく、いつもあまり意識していないので記憶が曖昧で、記憶が曖昧なところはぼやけているのだろう。
しばらく観察すると俺の意識が普段どこに向いているのかがよくわかる。
いつもの通学路。人はいない。ぼやけたマンションの形と精巧なアスファルトのひび。
早くここから脱出しよう。頬をつねったら目覚めるだろうか。
...いや、ここは俺の夢、そうだ、折角夢の中にいるのだ、楽しく過ごそうじゃないか。
俺は行きつけのゲームセンターへ向かった。
自動ドアを通って左、エスカレーターを四階まで一気にかけ上がる。誰もいない。
お気に入りのシューティングゲームのところにも人はいない。
掛けてあるライフル銃を手に取るとコインも入れていないのにゲームが開始された。
夢中で敵の兵を撃ち殺す。
次々に道を進む。
ああ、爽快。
風を切って走る感覚。
前も後ろも、右も左も、あらゆる方向からの銃声が響く。
銃弾が耳元をかすめた。構わず撃ちかえす。
...耳元?何故弾丸が耳元をかすめる?しかも、何故後ろから銃声が聞こえるのだ。スクリーンもスピーカーも前方にあるはず。
後ろを見るべく首を回す。
敵の兵だ。
何故?
ああそうか、ここは俺の夢の中だ、ゲームの中に入ることも出来るのか。
しかし、後ろからも敵が出てくるとすれば少し危ない状況である。夢の中とはいえ進んで撃たれたいとは思わない、それならば。
逃げるか。
敵の少ない方角を選び敵を蹴散らしながら一気に突破する。大量の兵が追いかけて来るが、飛び交う弾丸は奇跡的にかわすことが出来ている。通りを駆け抜け細い脇道に入る。
敵を追うゲームの中で逆に追われている展開にどうしようもなく高揚感を抱えた身体が自己の存在を主張する。
暗い小道を抜けると、大きな川が流れていた。行き止まりだ。
しまった、判断を誤った。
敵は迫ってくる。ここに来て恐怖心が顔を覗かせていたことに気がついた。夢の中で撃たれたら痛いのだろうか。
一か八か。
俺は勢い良く川に飛び込んだ。
顔に冷たい水を感じて跳ね起きた。どうやら机で居眠りをしていたらしい。
芳ばしく涼やかな香りが鼻を抜ける。コップに入れた麦茶を自分でこぼしたようだ。
時計に目をやるとちょうど午前零時をまわったところ。
机に視線を戻すと第一志望の欄に大きくEと書かれた模試の成績表と、センターまであと100日!と黒いマーカーで殴り書きされている卓上カレンダーが力なく横たわっていた。
残暑厳しい九月の話。
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