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ファイアナの王4

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「ここから先は、君主になる者同士の剣なき戦いだ」
 今回、前線に風の意志を持つリリアンナが来たのも、カンヅェルが来たのも偶然なのだろう。
 今までどれだけ書状を送っても、返事の一つもしなかったカンヅェルが応じたのは、希有なことだ。
 頑なになっていたカンヅェルの心を動かせたのは、カダンでもディアルトでもない。リリアンナだった。
「……情けないことだな。王子である俺がここに来て、一年が経とうとしているのに」
「姉上は強運持ちな所もあります。精霊の祝福が強いこともありますし、何かしら特別な力が働いたのかもしれませんね」
「さすが、皆が憧れるリリアンナだな」
 ディアルトが苦笑すると、リオンも笑った。
「輝きすぎる姉を持つと、弟も結構苦労しますよ?」
「だがそんな姉が自慢だろう?」
「はは、見透かされてますね。お陰で姉上を狙う男たちから、王都に帰ったら酒を誘われています」
「え?」
 その言葉にディアルトは間抜けな声を出し、ポカンとした顔でリオンを見る。
「大丈夫ですよ。俺だって殿下と姉上の仲を応援しています。姉上の話を聞きたいという連中相手に、ちょっと驕ってもらうだけですよ」
「ん? う……うん……」
 いまいち腑に落ちないという顔でディアルトが頷き、リオンはニヤニヤしている。
「殿下は俺が男たちに、姉上を紹介するとでも思っていましたか?」
「い、いや。……その」
「大丈夫。姉上のリボンの一本も持って行きませんてば」
「お前なぁ」
 わざと心配させて楽しんでいるリオンに、とうとうディアルトが呆れた声を出す。それにリオンは軽やかに笑うのだった。
「……さて。リリアンナを迎える準備をしようか。カンヅェル殿と何を話したのか、それも気になるし」
 尻についていた土を払い、乱れたままの髪を手で整える。
 その様子に、リオンは微笑ましくなった。
「殿下も姉上と顔を合わせる時は、身なりに気を遣うんですね」
「当たり前だ。リリィにだけは、俺の一番いい所を見て欲しいから」
 言った直後、自分は愛する女を陣の先頭に配置した男だと自覚し、ディアルトの目が暗くなる。
 それを察してか、リオンは姉によく似た笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。姉上は人生の優先順位の一位に、殿下を置いていますから。それでも……。いつか姉上に『護衛係』の任が必要なくなる時がくるといいですね」
「そうだな。俺は『その時』はそう遠くないと信じている」
 ――夢を叶えるためには、明日の正午自分がしっかりしなければ。
 決意し直し、ディアルトは荒野の向こうから帰還してくる兵を眺めていた。
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