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王妃ソフィアの企み3

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「……どうして勝手に色々なことを、お一人で決められるのですか」
「じゃあ、俺の妻になってくれるかい?」
 リリアンナの手を握り、ディアルトが静かに問う。
「おふざけになっている場合ではありません! 大事なお体だというのに、なぜあのような安請け合いをされるのです! それに、どうして私を共に戦地にむ……っ」
 激昂したリリアンナの言葉は、最後まで紡がれなかった。
 ディアルトに激しく抱き寄せられ、キスによって唇を塞がれてしまっていた。
「っ」
 大事な話の途中だというのに、キスで誤魔化されるのかとリリアンナはディアルトの腕の中で暴れる。
 けれどガッチリと抱き込まれた体は、両腕を封じられていることもあり容易に反抗できない。
 結果、抗いようがないと悟ったリリアンナは、ディアルトが満足するまで体を預けるしかなかった。
 抱きしめられた体は壁に押しつけられ、顔の角度を変えて何度も唇が愛される。
「……ん、……ぅ」
 ディアルトの柔らかな唇が何度も押しつけられ、唇が舐められたかと思うと軽く噛まれる。
 気がついたらリリアンナは呼吸を乱し、ディアルトのキスに呑み込まれていた。
 やがて執拗なキスが終わり、濡れた唇をペロリと舌で舐めてからディアルトが問う。
「……落ち着いた?」
 柱の陰で解放され、ディアルトの親指がリリアンナの唇をなぞる。
 濡れた唇は、ほんの少し息を乱して開かれていた。
「……取り乱しました。申し訳ございません」
「いいよ。俺も君に不意打ちキスができて嬉しい」
 ディアルトが手を差し出すと、リリアンナは少し迷ってからそれに手を重ねた。
「……戦地に向かうことだが、以前から話は耳に入っていたんだ」
 手を繋いで歩き出し、ディアルトがのんびりとした口調で言う。
「これでも一応、身の上に害がないように密偵を放っている。幸い、父上をいまだに慕ってくれている者たちもいるしね。俺自身はそれほど王座に興味がないとはいえ、父上の遺言の通り俺を王座にと推している者たちもいる。……今の俺がまだこうして王宮にいられるのは、その者たちのお陰だ」
「……はい。私も、殿下の後援会の面々は存じ上げています」
「手に入れた情報の中で、王妃陛下が俺を前線に送りたがっていると知った。だから今日もさして驚きはしなかったんだ」
「……私に一言、教えてくだされば良かったのに」
 またディアルトがリリアンナの手を握り、歩き出す。
「取るに足らないことだよ。俺は情報を知った時から、こうするつもりだった。大事な君には王都を任せて、俺だけサッと行って戻ってくるから」
「……私は護衛として、役に立ちませんか?」
 呟かれた言葉は、若干騎士としてのプライドを傷つけられたことへの弁明を求めている。同時に、好きな人を守れないことへの不満があった。
「そうじゃない、リリアンナ。君の剣の腕も精霊の加護も、俺はいつも頼りにしている。でも愛している女性を、危険な場所に連れて行きたくないんだ。分かってくれ」
「…………」
 ディアルトの言葉に、リリアンナは沈黙する。
 彼の気持ちも、普通ならそうするだろう判断も理解するつもりだ。だがどうしても、リリアンナの個人的な部分が、素直に首を縦に振らせてくれない。
「……お側でお守りしたいです」
 素の言葉に、ディアルトは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。その言葉だけで、頑張れる」
 キュッとリリアンナの手を握ると、返事をするように握り返される。
「大丈夫だよ。戦地に向かう騎士団と一緒に行くから危険はないし、帰りも入れ替えのメンバーと戻ってくるから」
「……はい」
 あからさまに、リリアンナの声に張りがない。
「あーあ、嬉しいな。リリアンナがこんなにも俺を心配してくれている」
 心の底から心配しているというのに、ディアルトはまた軽口を叩く。それをリリアンナは斜め下からジロッと睨み上げた。
「殿下」
「嬉しいな。俺はリリアンナが大好きだ」
「…………」
 怒っても怒ってもめげないディアルトに、とうとうリリアンナはハーッと大きな溜め息をついた。
「……怪我一つ負われないで戻ってこられると、約束してくださいますか?」
「するよ」
「約束を破ったら、思い切りお尻を蹴りますよ」
「おおぅ……」
 思わず漏れたディアルトの嘆息に、リリアンナの口元が笑う。
 こうやっていつも、自分はディアルトの優しさに救われていると思う。
 真面目に考えているのが馬鹿らしくなるほど、ディアルトはいつも体も心も力が抜けた状態で接してくれている。
 ソフィアの陰謀や隣国との戦争、王位のことなど、現状考えることは沢山あるだろうに、どうしてそんなに余裕があるのだろうと不思議になる。
 同時に、自分の余裕のなさを痛感してしまう。
(殿下の護衛を自称するなら、私は殿下よりもっと悠々としていなければ)
 逆にディアルトに慰められているようでは、目も当てられない。
(殿下が王宮を空けられている間、安心していられるように私が頑張らなければ)
 ディアルトは温厚であるけれど、同時に一度決めたことは覆さない頑固な性格だということも分かっている。
 恐らく今回の前線行きは、もう覆らないだろう。
 だとすれば、自分も腹を括らなければいけない。
「……殿下、ドレスの色を決めてくださいますか? 私はあまり自分の身なりに頓着がありませんので」
 話題を変えると、ディアルトはニカッと笑って頷いた。
「喜んで!」
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